米中対立、秋の米国の大統領選の影響もあるのだろうけれど、それにしてもと感じてしまう。もう少し大人な対応はないのだろうか。
ハイテク戦争、香港問題、そして、ここに来て南シナ海の問題、次から次へと対立点が増える。
11月の米大統領選を前に、米中が相互に威嚇し合う構図はエスカレートする見通しで、当面はほとんど仕切り直しが見込める状況にない。
ナティクシスのアジア太平洋担当チーフエコノミスト、アリシア・ガルシアエレロ氏は「勢力の再編成が急速に進展している。威嚇のスパイラルは少なくとも米大統領選まで、そしてその後も続く公算が極めて大きい。それは新たなパラダイムにすぎない」と話した。 (出所:ブルームバーグ)
強硬姿勢変わらず
米民主党のバイデン氏も、必然、対中国強硬姿勢を打ち出さなければならなくなっているのだろう。対立解消というよりは、中国に対抗しようとの姿勢がうかがえる。
日本経済新聞によれば、中国のハイテク産業育成策「中国製造2025」に関して「米国の技術の優位性をなくし、将来の産業を支配する取り組みだ」と指摘、米国も政府主導で技術革新を促す必要があるとの考えを強調したという。
政府調達で米国製品を優先する「バイ・アメリカン条項」をめぐり、米国製品の認定条件を厳しくして米国製の原材料などの使用を増やすよう促す。(出所:日本経済新聞)
急激な変化は混乱をもたらす。これまでの政策を踏破しつつ、独自色を模索することになるのだろうか。米国の製造業を守るために中国の不公平な商慣行にも切り込むという。具体的にはアンチダンピング(不当廉売)や為替操作、国有企業による競争の阻害、不公平な補助金に対処、鉄鋼や造船などの過剰生産問題に関しては、同盟国と協力し中国政府に是正を求めていくという。また、それに加え、サイバー攻撃などで米企業から機密を盗んだ中国企業は米国市場から締め出すとしたという。
トランプ、バイデンどちらの候補が勝とうとも、多岐にわたり対立は続き、米製造業の国内回帰の流れが強まるということなのだろうか。
対立が表面化、激化するまでは、ウィン-ウィンの関係によるグローバル化が進んでいたが、今ではすっかりと陰りを見せ、世界の流れは、その逆の動きが始まるという大きな変化が起きているとダイヤモンドオンラインは指摘する。
ピュリツァー賞を受賞した米国ジャーナリストのローリー・ギャレット氏は「サプライチェーンは消費地に近づき、企業の短期的な利益はカットされるが、システム全体の回復力は高くなる」と論じ、米外交官のリチャード・N・ハース氏は「サプライチェーンの脆弱性から、地産地消に向かうだろう」と主張している。 (出所:ダイアモンドオンライン)
動き始めたアップル
アップルのiPhoneを製造するフォックスコン(鴻海精密工業)が、インド南部の工場拡張に向けて最大10億ドルを投資する計画だとロイターが伝える。
アップルがこうした米中貿易摩擦や新型コロナウイルス危機の混乱に対応、生産拠点を中国から徐々に他の地域に移行しようとしている動きの一環だとロイターは指摘する。地政学リスクが高まれば、それを避けるの自然の流れなのだろう。
関係者の1人はロイターに「アップルが取引先に対してiPhone生産の一部を中国国外に切り替えるよう強く求めている」と話した。(出所:ロイター)
この先、国内企業の動きはどうなるのだろうか。
かねてからあったチャイナリスクを機に、「チャイナプラスワン」が加速し、中国市場向け生産が主になっているかと思っていたが、このコロナで、マスクや医療用防護具など、まだ多くのモノが中国で生産され、国内向けに輸出されていることが明るみになった。
自然資本会計から見直す
地政学リスクは、サプライチェーンを検討する際に、重要な事項であることは間違いないが、昨今では、SDGsやエシカル消費からいっても、サプライチェーンの健全性、トレーサビリティが求められるようになっている。こうした視点も無視できなくなってきているのかもしれない。
日経BizGateの古い記事に、プーマの「環境損益計算書」を紹介する記事がある。
「グローバルに拡大したサプライチェーンを駆使してビジネスを展開することは、実は薄氷の上を歩くようなことなのかもしれない」
世界中に長く、複雑に広がった分、サプライチェーンのどこにリスクがあるのか、非常に見えにくくなってしまったと日経BizGateは指摘する。そのどこにあるかわかりにくいリスクを可視化してくれるのが、自然資本会計なのだという。
自然資本会計の手法を使ってどこが負荷やリスクが高いかを特定できれば、そこを強化したり、避けたりすることができる。
それは既に述べたサプライヤーの問題だけではない。自社の新しい工場をどこに作るのか、将来のリスクに備えてどの程度の対策をすべきなのか・・・、自然資本会計を活用すれば、こうしたさまざまな事業判断を容易に、自信を持って行うことができるようになる。 (出所:日経BizGate)
日経BizGateは、プーマの事例を紹介する。プーマはサプライヤーごとの環境負荷を調べ、どのサプライヤーの負荷が大きいかを分析したという。
プーマはファブレスだから、自社の環境負荷は極端に低い。物流などを含めても、全体の6%にすぎない。一方、縫製工場などが含まれる第1層から綿花畑などの第4層までサプライチェーンを遡っていくと、上流にいくほど自然資本に与える影響は大きい。第4層の影響は57%と、実に半分以上を占めていた。 (出所:日経BizGate)
こうした調査結果から、シューズに使う牛革をとる牛を育てるための飼料生産に要する水使用が大きな負荷があることわかったという。そして、当時のプーマのCEOは、シューズの原材料を環境負荷がより少ないものに変更するように指示を出したという。
その結果、1年後には牛革に代わる再生素材を原料としたシューズが市販されるようになったのであると日経BizGateは解説する。
今日では、こうした視点での取り組みが求められるようになっている。
コストや地政学リスクからだけではなく、サプライチェーンを再考すべき時期になっているのかもしれない。
「関連文書」
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