Into The FUTURE

未来はすべて次なる世代のためにある

危機意識は誰のためか、かつての日米半導体摩擦を思い出させる米中の対立

 

 米国が台頭する中国に対抗すればするほど世界は分断化されていくのだろう。これまで中国の台頭に寛容であったのだから、どうなのだろうかと思えなくもない。

 生産移転をすれば、それだけで技術は流出し、移転先の技術は向上するのが常だ。

 生産移転先の選定には十分な注意が必要だったはずだが、そうした弊害よりも実益優先で進めた結果のだから致し方もないのだろう。その上、産業集積がどの国よりも進めば、後戻りはし難くなる。してやれたと思っても、もう後の祭りである。

 

 

 かつて「日米半導体摩擦」があった。1987年、日本の半導体が第三国市場やアメリカでダンピング「不当廉価」で販売され、また日本がアメリカ製半導体を排除しているという理由で、日本は米国から制裁を受けることになった。当時、米国は自国の安全保障が脅かされるのではないかと危機意識をもったといわれる。

 今それが中国に代わったということであろうか。しかし、それで日米が協力するということは少々皮肉と感じないこともない。

 半導体の生産で世界のトップクラスのシェアを誇る「マイクロチップテクノロジー」の米国の製造現場をTBSが取材し報じている。

アメリカ・半導体製造の現場 切実な声 “中国依存からの脱却”は可能? | TBS NEWS DIG

マイクロチップテクノロジー モルシーCEOが、「私たちは様々な場面で中国のサプライチェーンに頼っていて、だからこそ製品を作ることができます。国の境界に線を引くことは、できないのです」と述べたそうだ。

 

 

 一方、日経XTECHは、半導体メーカーや半導体製造装置メーカーが、新たな製造拠点を探し始め、東南アジア マレーシアが注目されているという。

米中対立で脱中国急ぐ半導体関連メーカー、マレーシアへの投資が加速 | 日経クロステック(xTECH)

マレーシアは、半導体の後工程(パッケージング、テスティング)においては、米Intelインテル)が大規模な工場を持つなど、既に世界の主要拠点の1つである。しかし、今後、後工程のみならず、前工程(半導体ウエハー処理工程)も含めた重要拠点として育ってくる可能性が高いという。(出所:日経XTECH)

 東南アジアは、中国という大消費地に近い上、労務コストが比較的安く、真面目で向上心が旺盛な優秀な労働者がいることが理由という。それに加え、マレーシア政府の支援策もあるという。

 中国に引けを取らない産業集積が東南アジアで進めば、マレーシアが一大拠点になるのかもしれない。中国が世界の工場になる前はこの地で多くのものの生産がなされていたのだからそのポテンシャルはまだ色褪せていないのだろう。

 

 

 さて日系半導体メーカはどう動くことになるのだろうか。円安メリットを活かして、国内生産が主になるのだろうか。

 円安であれば、東南アジアに負けない優位性があるのではなかろうか。中国に近く、労務コストは円安で安くなり、真面目で向上心が旺盛な優秀な労働者がいるのだから。

 その上、日本国内にもマーケットはあるのだから。

中央線グリーン車「半導体不足」?導入延期の真相 | 通勤電車 | 東洋経済オンライン | 社会をよくする経済ニュース

 現実、「中央快速線グリーン車の導入計画が半導体不足の影響を受けて、サービス開始が少なくとも1年程度遅れ、24年にずれ込むそうだという。

 もう米国に振り回されることなく、貧乏くじを引かされることもなく、その対策を怠らないことが肝要なのだろう。それが危機意識のような気もする。同じ半導体品種で戦うことなく、自国に役立つサプライチェーンを再構築していくのがいいのかもしれない。

 

「参考文書」

日本の半導体「最後で最大のチャンス」 JEITAが戦略提言: 日本経済新聞