半導体不足だという。業界問わず逼迫状況だという。かなり深刻な状況なのだろうか。
コロナ渦で痛めつけられる業界がある一方で、思わぬ特需にわく業界もある。その思わぬ特需が半導体不足の背景にあるのだろうか。
巣ごもり需要でゲーム機が売れ、テレワークを推進すれば、パソコンなどが売れ、3密回避で公共交通機関を使った移動が好まれなれば、自動車販売が好調になる。どの業界も半導体を必要とする。
それはそれで業界の人たちにとっては災害のようなことなのかもしれない。
半導体の出荷数量は生産設備の生産能力次第。そんな思わぬ特需に対応した設備などを事前に準備しているはずがない。設備が整わなければ、そうは容易く増産とはいかないはずだ。
そうであれば、半導体メーカがどの業界を優先して供給するかということになるのだろうか。想像するだけ、その大変さがわかる。
注目が集まる台湾
ここ最近、自動車が半導体不足で減産するとの報道が増える。この自動車業界に広がる半導体不足の懸念は、台湾の重要性を浮き彫りにしているとブルームバーグはいう。
半導体ファウンドリー(受託生産)世界一で、米アップルのスマホ用半導体をはじめ、PCやゲーム機用半導体生産も行なうTSMC(台湾積体電路製造)の存在が大きいと指摘する。
半導体サプライチェーンの重要部分を占めるのは台湾だけではない。
米国は半導体設計と電子ソフトウエアツールで依然として圧倒的なポジションにあるほか、オランダのASMLホールディングは最先端の半導体を生み出す製造装置メーカーとして欠かせない。
日本は機器や化学製品、ウエハーの供給で鍵を握る。 (出所:ブルームバーグ)
自動車
各国自動車メーカは政府も巻き込んで半導体確保に動き出したようだ。日本でも、梶山経済産業相が動き出している。
JIJI.COMによれば26日の記者会見で、台湾当局を通じてTSMCをはじめ現地メーカーに「自動車業界と連携した上で(半導体の)増産に向けた働き掛けを行っている」と明らかにしたという。
今回の品薄状況を乗り切ったとしても世界的なIT化の進展で半導体需要は拡大が続くとみられ、今後再び供給不足に見舞われる懸念は拭えない。
経産省幹部は「自動車各社の生産計画の立て方や部品発注に改めるべき部分があるかもしれない」と話し、原因の分析に取り組む考えを示した。(出所:JIJI.COM)
一方、TSMCが「自動車のサプライチェーン(供給網)は長く複雑で、自動車関連顧客と協力し、その重要なニーズを特定した」との声明を出したとロイターが伝える。また、「全てのセクターの需要を受けてフル稼働しているが、世界の自動車産業を支援するため当社の半導体ウエハーの生産能力を再配分している」と強調したという。
自動車向けにウエハーが持っていかれると、今度はどこかの業界が影響を受けることになる。
ロイターによれば、TSMCの2020年の売上高に占める自動車向け半導体の比率はわずか3%。スマートフォン向け半導体は48%、高性能半導体は33%だったという。スマホやパソコンの市場に比べれば、台数ベースでは自動車市場は遥かに小さいということなのだろう。
聯華電子(UMC)もまた稼働率が100%に達しているという。
「生産能力を拡大するのは難しい。優先順位の変更が課題になる。自動車市場を優先することで、うまくいけば圧力をある程度和らげることができる」と述べた。
また「生産性の改善で、生産能力を一部拡大できるだろう。現在の状況では恐らく自動車向けを優先することになる」と述べた。 (出所:ロイター)
国内半導体
国内半導体大手のルネサスエレクトロニクスが、自動車向け半導体の自社生産体制を強化しているとJIJI.COMが伝える。
半導体受託製造の世界最大手、TSMCに生産委託する製品の一部を国内生産に切り替えたそうだ。
また、茨城県ひたちなか市の那珂工場では、火災で生産が止まっている旭化成グループの自動車向け半導体を代替生産するともいう。それでも、供給不足は解消できず、ルネサスや東芝は半導体の値上げ交渉に入ったそうだ。
アップル
米アップルの第1四半期の決算が好調だったという。
ロイターによれば、全体の売上高は21%増の1114億4000万ドル。「Mac(マック)」のラップトップやiPadの販売が、コロナ渦によるリモートワーク・ラーニングなどの広がりを背景に力強い伸びを示したという。iPhoneの売上が過去最高を更新したほか、中国での販売も57%伸びたという。
クックCEOはロイターに対し、Mac、iPad、iPhone12プロモデルの販売はいずれも「供給制約」に直面したと指摘。
「AirPods Maxの供給不足は3月まで続く可能性がある」と、クックCEOが話したとITmediaニュースが伝える。
パソコン
パソコン用CPUなどを手がける米AMDが、2020年第4四半期と通期の決算を発表した。
PC Watchによれば、AMDのスーCEOは、直近のCPU供給不足に関する質問に対して「2020年の半導体市場における需要はひじょうに高く、われわれの想定も超えるものだった。その結果として、2020年末は、とくにローエンドパソコン市場とゲームコンソール市場からの需要に完全には応えきれなかった。製造パートナーからは大きな協力を得られているが、需要に応えるには、業界はさらにキャパシティレベルを上げていく必要がある。そのため、2020年上期はまだ供給はタイトなものになるが、下期には供給量を上げられ、年間を通じては需要に見合う供給ができるだろう」と述べたという。
PlayStation 5を含むゲーム機やパソコン用CPUの供給不足は2021年上期まで続くとの見通し示したそうだ。
味の素
2020年11月に発売された家庭用ゲーム機のPlayStation 5とXbox Series X、どちらの機種も品不足が続いているとGigazineがいう。
この両機種とも、AMD製のCPUとGPUを搭載しているという。このAMD製半導体を生産するのも台湾TSMC。PlayStation 5とXbox Series Xの需要が急増したことで、TSMCの製造ラインが圧迫されているとGigazineは指摘する。
PlayStation 5やXbox Series Xの登場によってAMDのCPUやGPUの需要が急増したことで、2020年秋頃からTSMCがチップの絶縁体に用いられる「Ajinomoto Build-up Film(ABF)」の不足にあえいでいることが供給のボトルネックになってしまっているそうです。
ABFは味の素グループが開発した高性能半導体の絶縁材です。ナノメートルレベルで回路が構築される現代のCPUでは、複数の回路が何層にも重なった多重構造が当たり前になっており、その層の間を絶縁するためにABFは使われています。味の素によれば世界の主要なPCのほぼ100%に使われているとのこと。 (出所:Gigazine)
Gigazineによれば、このABFの不足はAMDだけではなく、IntelやNVIDIA、Qualcomm、Apple、Samsungなど、数々のチップメーカーに大きな影響を与えているという。
「2021年にはABFの供給不足が悪化する可能性がある」と、経済ニュースメディアのDigitimesが2020年6月に報じた予測が的中したようだという。
まとめ
色々な情報が錯綜する。何が正確な情報かは判断しかねる。それでも、アップルは好調を維持し売上を伸ばした。ただ半導体の供給制約でハイエンドモデルのオポチュニティを逃したということなのだろうか。半導体メーカのAMDは、ローエンドPCとゲームでは需要に完全に答えられなかったというが、そこそこまでは供給できたのだろうか。そんな中で、自動車は減産せざるを得なかったという。
経産省が指摘した「自動車各社の生産計画の立て方や部品発注に改めるべき部分があるかもしれない」ということに一理あるのかもしれない。
ロイターが指摘した通り、TSMCの生産比率が自動車向け3%に対し、スマートフォン向け半導体48%、高性能半導体33%という数字からすれば、売上比率の高い方に注意が向くのも無理がないような気がする。
いずれにせよ、ロイターの報道によれば、自動車向けにアロケーションされるので、どこかの産業が影響を受けるのは必至なのであろう。スマホなのか、それとも構成半導体なのか、それとは別なものか。AMDが指摘するように少なくともこの上期いっぱいは供給タイトな状況が続くということなのだろう。
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