新型コロナによる緊急事態宣言下、必要な物資の配送を支えてきたヤマト運輸が業績を回復させたようだ。
巣ごもり消費の拡大も業績回復を後押ししたのだろうか。
20年4-6月期、ヤマトの宅急便の取扱量は17%増の4億9100万個あまりと大きく伸びた。売上高は3920億円と前年同期から3%増加し、前年同期61億円の赤字だった営業利益は99億円となり、黒字転換した。外出自粛で在宅率が上昇したことのいい影響もあったようだ。
2017年、宅配ドライバーの勤務実態が明らかになり、待遇改善のため、配送料を値上げした。英断だったかもしれないが、結果的に、コストが増加し、業績は低迷していく。
20年3月期の決算でも、営業利益は447億円と、前の期に比べ23%も減少していた。日本経済新聞によれば、夕方以降に配達する契約社員を増やし人件費が膨らんだことの影響もあるようだ。
働き方改革と構造改革を同時に進めることの難しさということであろうか。
ヤマトは、緊急事態宣言下、物流サービスを支えた社員に見舞金を支給、その功績に報いた。見舞金は人件費の増加につながったものの、物流全体におけるデジタルトランスフォーメーション DX デジタル化の推進による集配などの効率化や、幹線ネットワークの構造改革を推進した結果、費用全体では圧縮につながったようだ。
日本海事新聞によれば、オンライン会見で芝崎健一副社長は「胸を張れるものではないが、構造改革の効果を確認できた」と話したそうだ。
新型コロナがヤマトにとっては追い風になったのだろうか。
ヤマトは今年1月に、新たな経営構造改革プラン「YAMATO NEXT100」を発表した。
その構造改革に至る道のりを長尾代表取締役社長がディリー新潮のインタービューで答える。
荷物とともにご依頼主さまの想いを運ぶのが宅急便だった。
これまでの宅急便は、ご依頼主さまから託された荷物をお届け先まで配達するのが基本設計でした。
けれどもeコマースの急激な成長によって、いまは受け取る側のお客さまが「起点」となる荷物が急増しています。 (出所:ディリー新潮)
「YAMATO NEXT100」は、社会のニーズに応える新たな物流のエコシステムを創出することといい、 「3つの事業構造改革」と「3つの基盤構造改革」を実行するという。
3つの事業構造改革
1. 宅急便のデジタルトランスフォーメーション(DX)
徹底したデータ分析とAIの活用で、需要と業務量予測の精度を向上し、予測に基づく人員配置・配車・配送ルートの改善など、輸配送工程とオペレーション全体の最適化、標準化によって、集配の生産性を向上するという。
2. ECエコシステムの確立
「産業のEC化」に特化した物流サービスの創出に取り組むという。
まとめ配達や配達距離の短縮化、オープンロッカーや取扱店受け取り、安心な指定場所配達などを通じて、EC事業者、購入者、運び手のそれぞれのニーズに応える、EC向けラストマイルサービスの最適解を導き出するなどして、ECエコシステムを確立していくという。
(資料出所:ヤマトホールディングス公式サイト ニュースリリース)
3. 法人向け物流事業の強化
ヤマトは、すでにヘルスケア業界や農産品流通において、サプライチェーン全体を最適化するソリューションを提供し始めているが、多頻度小口配送とデータ基盤を統合し、各業界、業種に幅広く提供していくという。
6月、ZOZOTOWNは、ヤマトの新たなEC事業者向け配送サービス「EAZY(イージー)」を導入し、「非対面受け取り」を可能にした。
ヤマトがいう「ECエコシステム」を具現化したサービスのようだ。
ヤマトによれば、ZOZOTOWNで購入したお客を対象に、商品発送後に「お届け予定通知(メール)」を送付、メールに記載されている専用WEBサイトから、玄関ドア前、自宅宅配BOXなどの非対面配達での受け取り場所を指定でき、自分の好きな場所・タイミングで受け取ることが可能になるという。
また、外部パートナー「EAZY CREW(イージー クルー)」と連携し、高効率な配送を目指すという。
ヤマトが、巨大ECサイトが先行していたこうしたサービスを誰もが利用できるようにしたということなのだろうか。
8月、食べチョクが、ヤマト運輸とシステム連携を開始すると発表した。
「食べチョク」は、生産者から“チョク”で食材を取り寄せられるオンライン直売所を運営する。
コロナの影響で、これから多くの生産者さんが販路を失う。
“生産者ファースト”を掲げる私たちが率先して動かないといけない。
人手が足りないとかスタートアップだからとかは理由にせず、やれることを全部やろう。
(出所:note 秋元里奈@食べチョク代表「食べチョク怒涛の5ヶ月間と、生産者さんとの約束」)
3月、食べチョクは、新型コロナの影響を受ける農家支援に奔走するようになる。
昔ながらの野菜の味 繁昌農園 Tokyo篇【食べチョク生産者特集】
ヤマトと連携することで、生産者は今までより簡単に発送作業をすることができるようになるという。1次産業のDX化への第一歩なのかもしれない。
ヤマトは、今年1月、「YAMATO NEXT100」の発表に合わせ、SDGsの概念を取り入れた「サステナビリティ」の取り組みを公表した。
環境と社会を組み込んだ経営を目指すという。
2050年CO2実質ゼロに挑戦し、EVの導入や再エネ利用等を進め、持続可能な資源の利用、スマートモビリティ、働きやすい職場づくりを通じたディーセント・ワーク(働きがいのある、人間らしい仕事)達成への貢献、人権・ダイバーシティの尊重、健全でレジリエンス(強靭)なサプライチェーンマネジメントなどに注力していくという。
(資料出所:ヤマトホールディングス公式サイト ニュースリリース)
ヤマトらしさを取り戻しつつあるのだろうか。
新型コロナによる環境の変化が、ヤマトの構造改革をさらに加速していくのかもしれない。
「関連文書」
「参考文書」