すっかり米中対立が定着し、かつての冷戦体制下に戻っていくような勢いです。ただ当時と違うのは、グローバルサウスという新興勢力が台頭していることで複雑さが増しているようです。
それに加えて、米国が度を過ぎて振舞っているような気もします。
内政においては、クリーンエネルギー技術への投資を促進する政策を進めていますが、米国内に新たなビジネスチャンスを生み出し、また、再生可能エネルギー価格の引き下げにつながるなど、そのメリットは大きいと言われます。一方で、保護主義的な要素も強く、特にEV政策においては、EV購入時の税控除が北米で組み立てられた車に限定されていることより、日欧韓など同盟国の企業が打撃を受けるといわれています。
そればかりではないようです。外交においては表面上、対中国の安全保障上の脅威を取り除くデリスキング政策を進めていますが、実際は全面的に経済関係を見直すデカップリングではないかとの見方もあるようです。
米中貿易摩擦と世界経済の下方リスク|2023年 | 木内登英のGlobal Economy & Policy Insight | 野村総合研究所(NRI)
対中政策で違いをみせる欧州諸国に配慮し、そう説明するだけでなのではないかと専門家は指摘します。
バイデン政権は、安全保障上の脅威という観点だけでなく、中国に流れた米国企業の投資や、中国からの幅広い製品の流入が、米国の中間層の雇用、所得環境を損ねてしまったことを問題視しているのである。(出所:野村総合研究所)
この危惧が現実化すれば、世界市場の分断化がさらに加速し、世界経済の成長率の低下など、大きな経済的損失をもたらす可能性があるといいます。また、中国経済の回復が遅れ、苦境に立つ中国の状況を好機とし、米国が中国への投資、輸出規制措置を一段と拡大させていけば、中国経済の失速リスクはさらに高まるだろうといいます。
それは米国にとって好都合なことかもしれませんが、日本を含め米国以外の国にとって最善ということではないのでしょう。
米中両国と経済関係が密接でありかつ自由貿易のリーダーを自認する日本は、2つの大国の決定的な対決を回避するため仲介に動くのに、最も適任と言えるだろう。バイデン政権の対中政策が、デリスキングからデカップリングへと進んでいかないよう、しっかりと目を光らせ、必要に応じて米国の動きに歯止めをかけることが、日本に期待されるのではないか。それは、中国を中心にアジア地域と強い経済的関係を持つ日本の国益にもかなうものだ。(出所:野村総合研究所)
ごもっとな指摘なのでしょう。米国に盲目的に追従していれば、日中関係が必要に以上に悪化していくことは火を見るよりも明らかなことです。
対立に拍車をかけそうな処理水の海洋放出
福島第1原発の処理水の海洋放出について中国が反発を強めています。この影響で、中国市場から日本産水産物が消え始めているそうです。また、それは水産物だけにとどまらず、広範な商品にも及びはじめているといいます。
水産物もお菓子も…「日本産食品」が店先から消えていく 中国政府の宣伝工作で不安が急拡大:東京新聞 TOKYO Web
その背景には、中国政府や官製メディアの宣伝工作によって日本産食品への不安が急拡大しており、「日本ブランド」に傷がつきかねない事態ともいいます。
「処理水放出が始まれば、一時的に全ての日本産食品の輸入が止まることも覚悟している」と頭を抱える。食品業界の関係者も「日本産は菓子や飲料のほか、雑貨でも通関に時間がかかっている」と明かす。水産物以外にも放射性物質検査の対象が広がっているもようだ。賞味期限が短い商品は小売店の棚から外される可能性があり、問題が長期化すれば中国産の商品に置き換わっていく懸念がある。(出所:東京新聞)
良い悪いは別して、それが中国という国なのでしょうし、日本と同様に政府が決定すれば、国民はそれに従わざるを得ないのでしょう。
対立が深まれば、それがかえって自分の首を絞めかねません。色々事情があることは理解しますが、日本政府はもう少し賢く、誠実に、そして謙虚になるべきなのかもしれません。
「参考文書」