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ソニー出井改革の功罪、故出井伸之をしのんで

 

 ソニーの社長やCEOなどを務めた出井伸之氏が2日に死去しました。享年84歳。評価は分かれるのかもしれませんが、著名な経営者がまた他界しました。謹んでご冥福をお祈りします。

 出井氏が社長に就任したのは1995年、音響・映像機器とITの融合を目指して「デジタル・ドリーム・キッズ」を掲げ、96年にパソコン「VAIO(バイオ)」を発売、映画、音楽事業を拡大させたほか、インターネット銀行に参入するなど金融事業にも注力したといいます。

出井伸之氏死去、84歳 ソニー元社長、IT化推進:時事ドットコム

 しかし、主力の電機事業は低迷、テレビ事業などは不振が続いていました。2003年、ソニー株のストップ安をきっかけに日経平均株価が急落した「ソニー・ショック」がおこりました。

 それまでの称賛された経営手法に疑問符がつき、業績不振の責任を取る形で2005年に出井氏はソニーの経営から退きました。

 

 

 出井氏が社長だった1999年3月、日経ビジネスがインタビューし、当時の記事を再掲しています。読み返してみれば、ソニーが躓いたのも理解できます。

追悼・ソニー出井氏 23年前に語ったネット時代の「複雑系経営」:日経ビジネス電子版

「......しかし、反骨心だとか怨念といったプリミティブ(原始的)な次元で経営するような人なら、自分でベンチャー企業を起こしたらいいんだよね。つまり、大企業の経営者になり切れていないんじゃないかな」。

 子会社に自由にやらせたからこそ成長したの例も結構あると問われた出井氏はそう答えていました。当時の流行りの経営手法からの言葉だったのかもしれません。ただこうした思想が、ソニーから反骨心とか、ベンチャー精神を失わせることになったのかもしれません。現実に当時、有能といわれた人たちが数多くソニーを離れたと聞きました。

 僕が目指そうとしているのは「複雑系の経営」です。複雑系の理論の中には創発的進化というのがある。さまざまな構成要素が互いに影響を与え合っていると、予期せぬ進化が生まれるのです。(出所:日経ビジネス

 記事によれば、当時のSCEプレイステーションがその好例といっています。それは秩序系の経営からは生まれない。複雑系の経営に、GE的な秩序だった管理との両方を取り入れていくのが理想と述べていました。

 複雑なことより、シンプルであることの方がわかりやすく実行しやすいものです。もしかしたら現場は、難解な複雑性を嫌って、シンプルな秩序だった管理の方に傾斜していったのかもしれません。そうするつもりでなくても、結果、管理の色彩が強くなり、技術開発がなおざりにされ、社員のモチベーションにも影響していったのかもしれません。

 

 

 JIJI.COMによれば、出井氏は晩年、ソフトウエア技術でアップルなどIT大手に後れを取ったことに悔しさを口にしていたといいます。

ネット社会の到来予見 ソフト技術で出遅れ―ソニー出井氏:時事ドットコム

かつてソニーが「ウォークマン」で切り開いた携帯型音楽プレーヤー市場は、インターネットで音楽をダウンロードできるアップルの「iPod(アイポッド)」に奪われた。(出所:JIJI.COM)

ソニーは大き過ぎた。戦略転換すべきだと気付いたが、会社のコンセプトは変えられなかった」と、2014年の時事通信のインタビューでそう振り返っていたそうです。

 当時、出井氏はアップルの買収も検討したといいますが、結果的に、アップルはソニーに買収されずによかったのでしょう。ジョブズ亡き後のアップルは、ティムクックのもとでも、強固なハードウェア開発を続け、その上にソフトビジネスを加えて大きく飛躍していきます。

 

 

 その後のソニーは紆余曲折を経て、平井前社長による改革でテレビ事業が立ち直り、エレクトロニクス事業が復活します。そして、出井氏の下、社長室室長を務めた吉田憲一郎氏が社長になり、ソニーは再び大きく飛躍しています。

 出井氏が去った2006年にソニーに移籍し、平井体制が始まった2012年まで在籍していました。当時のソニーは最悪期だったのかもしれません。出井氏への反感は根強く残り、また、取引先は、掛け声ばかりで予算未達が続くさえないテレビ事業に辟易していました。

 失敗はないほうがいいのでしょう。しかし、失敗があって大きく飛躍できることを教えてくれているようにも思います。出井氏の改革から学び直しがあってもいいのかもしれません。

 

「参考文書」

ソニー元会長の出井伸之氏が84歳で死去、各界から寄せられる哀悼の声 – SAKISIRU(サキシル)

【追悼 出井伸之氏】『時代の先端を走っていた』リンクタイズ 高野 真 | Forbes JAPAN(フォーブス ジャパン)