コロナ渦からの急速な経済回復は世界的な供給網、サプライチェーンに混乱をもたらした。そして、その影響を今も続く。様々な物品の高騰の背景のひとつに、こうしたことが挙げられている。
米国の10月のCPI 消費者物価指数の上昇率は前年同月比6.2%となり、上昇幅は1990年11月以来約31年ぶりに6%台に達したという。日本国内では、企業物価指数が前年同月比で8.0%上昇し、1981年1月以来、40年ぶりの伸び率となったという。また、プラスは8カ月連続となり、消費者物価指数との格差が拡大している。
深刻な海上輸送の目詰まり
今日のサプライチェーンの危機的状況は、政府が介入して混乱を緩和しない限り、少なくともさらに1年続くだろうと、世界大手の海運会社オーシャン・ネットワーク・エクスプレス(ONE)が警告しているという。
[FT]「供給網は23年まで混乱」 海運大手首脳が警告: 日本経済新聞
世界のコンテナ輸送の6%超を担うONEは2017年に、日本郵船、商船三井、川崎汽船の3社のコンテナ部門を統合して設立された。そのONEのCEOが、港湾や鉄道、倉庫、道路網の能力増強のための投資を増やすよう、各国政府に求めたそうだ。
運送業界は新型コロナによる港湾労働者不足に対処しなければならない。さらに、英国、欧州、米国では、物品を内陸の最終目的地に運び、空になったコンテナを戻すトラック運転手の不足が起こっている。(出所:日本経済新聞)
ONEが開示した説明資料のCEOメッセージにはこうある。
「陸側での労働力不足と消費財・工業製品に対する高い需要の結果として、国際的なサプライチェーン全体に重大なボトルネックが依然として存在しています。世界中で滞船している数百隻の船は、陸側サプライチェーンでのボトルネックが港湾に波及した結果です。陸側サプライチェーンの課題は、全世界的なものですが、北米と欧州が、その影響を顕著に受けている」と指摘し、「海外から船舶の戻りが大幅に遅れた結果として生じたスケジュールの遅れのために、多くの欠便を余儀なくされた」と語る。
220隻の船舶を持つONEは、思うように多くの貨物を輸送することが難しくなりつつある。
日本経済新聞によれば、「我々は、顧客との輸送量の契約をし過ぎないよう、もっと慎重にならなければならない」とニクソン氏は述べたそうだ。
ジャストインタイムの崩壊
サプライチェーンが目詰まりを起こし、モノが滞ることで、世界の貿易に如何にジャストインタイム方式が浸透にしていたかが理解できる。
「ジャスト・イン・タイム(Just In Time)」、トヨタの生産方式とも言われ、必要な物を、必要な時に、必要な量だけ供給することで在庫を徹底的に減らして生産活動を行う生産管理システムと言われる。
この「ジャスト・イン・タイム」方式の見直し論が米国で浮上しているそうだ。
ジャストインタイムも、整備された物流があってはじめて成立する。物流が混乱してしまえば、ジャストインタイムも崩壊する運命なのだろうか。
「トヨタ方式」に見直し論 コロナで供給網の弱点露呈―米:時事ドットコム
効率を最優先したサプライチェーンが、需要急増に対応し切れないとの弱点が露呈したとJIJI.COMはいう。
「ジャスト・イン・タイムは(危機時の)復元力を考慮していない」。
レモンド米商務長官は1日の会合で、「トヨタ方式」のもろさを突いた。コロナや気候変動といったショックに対し、「ジャスト・イン・ケース(万が一の備え)を考えなければならない」と訴えた。 (出所:JIJI.COM)
一方、「ジャスト・イン・タイムをやめれば在庫増を招き、幅広い物品の価格が一段と押し上げられる可能性がある」と、インフレが加速するリスクについて、カンザスシティー連銀のジョージ総裁は警鐘を鳴らしているという。
世界の自動車メーカが半導体不足などで一斉に大幅な減産を強いられたのも、ジャストインタイムの弊害なのかもしれない。もう少しバッファストックを抱えていれば、それほどまでに大打撃を受けなかったのかもしれない。
トヨタが他の自動車メーカに比べ、減産幅が少なかったのは、東日本大震災の時の供給網寸断を教訓に、バッファストックを抱え、在庫の適正化を図っていたのだろうか。レモンド米商務長官が指摘した万が一の備え「ジャストインケース」ということであろうか。
日本国内でも物価上昇圧力
新型コロナの感染状況がようやく落ち着き、景気の回復が期待される中、水を差しかねない。
「原油価格の上昇はしばらく続きそうで、ガソリンや軽油の値上げに始まり、電気料金、穀物価格の上昇などにもつながるだろう。今の値上げは序章にすぎず、家計には、今後、じわじわ効いてくるとみられる」と、エコノミストが見解を示しているという。
企業物価指数 原油高で8か月連続上昇 35年8か月ぶりの高さ | 原油価格 | NHKニュース
「(日本国内の)物価上昇の背景としては、エネルギー価格の高騰やサプライチェーンの混乱といった要因が指摘されている」と、松野官房長官が臨時閣議のあとの記者会見で述べ、「影響を注視 必要な対策 講じていく」と語ったという。
企業物価指数の上昇に抗し得なくなった企業から、商品を値上げせざるを得なくなる。もしかしたらそんなタイミングが近づいているのかもしれない。すでに商品の値上げと伝えるニュースが増えている。