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【深刻なサプライチェーンの混乱】価格高騰、モノ不足、奪い合い、パーム油の事例

 

「低コストで多種多様な商品供給の時代は終わりか」と、ウォールストリートジャーナルが疑問を投げかけている。

サプライチェーン危機、グローバル化は後退へ - WSJ

 サプライチェーン(供給網)ほど、グローバル化の裏付けとして象徴的な存在は他にない。国内外の生産活動が連携するようになったおかげで、消費者は限りなく多様な商品をいつでも手に入れられると考えるようになったというが、こうした利便性は今、危機に瀕していると、WSJは指摘する。

 ここ最近における様々な経済的な事象を観察すれば、そうなのかもしれない。

 

 

 英蘭系日用品大手のユニリーバが、来年インフレが加速する可能性が高いとの見方を示したという。

ユニリーバ、来年のインフレ加速を警告 第3四半期は増収 | Reuters

 エネルギー価格などの上昇で消費財メーカーが値上げを迫られているという。

 パーム油、大豆油、プラスチックスなどの原材料に加え、輸送費も上昇し、企業の多くは、収益性への影響をさけるため、コスト上昇分を価格に転嫁する。結局、コスト上昇は家計を直撃することになる。

 こうしたことはユニリーバに限ったことではない。他のメーカにおいても同様だ。日本においても、関連する物品の値上げが相次いでいる。

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(写真:花王

 パーム油は、グローバル化の象徴のような存在なのかもしれない。その原料となるアブラヤシは、1980年代後半から急速に栽培が拡大し、パーム油が今では、世界で最も大量に消費される食用油になった。その使い道は、食用ばかりでなく、化粧品やせっけんの原料などに広がっている。

 そのパーム油が今、高騰を続けている。10月中旬時点での国際市況は、前年と同じ時期より73%も高い。用途が広いだけに、その影響は飲食店から菓子製造、化粧品メーカーなど広範にひろがり、消費パターンを変える可能性があるという。

パーム油の急騰が生活を脅かす 多用途で大量消費、コスト押し上げ - SankeiBiz(サンケイビズ):自分を磨く経済情報サイト

 パーム油高騰の背景には、バイオディーゼル燃料としての需要増があるという。元々、産地のマレーシアでの悪天候に加え、新型コロナの拡大の影響で外国人労働者が減り、収穫に支障が出ていたという。そこにコロナ収束に伴う、経済回復も加わった。

 

 

 SankeiBizによれば、ユニリーバはパーム油などを、アイスクリームや化粧品、せっけんなどの原材料として、年に約100万トン購入している。価格高騰の影響は避けられず、平均4%超の値上げを実施、この高い価格は来年も続くと公表した。

 こうしたことは食品や日用品ばかりでない。

「中国から安価な製品を購入するのが当たり前になっていた世界中の消費者は、この年末商戦期に衝撃を受けるかもしれない」とロイターがいう。

 エネルギー危機と堅調な輸出需要を受け、限界まで我慢していた中国メーカーが国内外で、コストアップ分を販売価格に転嫁するリスクが高まっているからだという。

コラム:中国製品に値上げラッシュの兆し、迫るインフレの足音 | ロイター

熾烈な競争を背景に、中国の主要メーカーはしばしばコスト増大を自ら吸収することを強いられ、消費者物価の落ち着きに一役買い続けてきた。

だが、世界的なコモディティー価格上昇により、人手不足や新型コロナウイルスの影響、その他の制約に起因する供給網の混乱に拍車が掛かった。

その結果、中国の9月生産者物価指数(PPI)の前年比上昇率は10.7%と過去最大の伸びを記録。メーカーの利益率はかつてないほど圧迫されている。(出所:ロイター)

 日本企業とあまり状況が変わらないのかもしれない。

 

 

 ECB 欧州中央銀行のラガルド総裁が、ユーロ圏経済のグローバル化により、域内経済はサプライチェーンの混乱によるシステミックな衝撃に極めて脆弱になっているとの見解を示したとブルームバーグが報じる。

ラガルドECB総裁、ジャストインタイム経済が欧州を脆弱化 - Bloomberg

 また、「部品や原材料を必要な時に必要な量だけ仕入れるジャストインタイム在庫管理について、この数十年間、世界貿易を支配してきたが、システミックな衝撃に極めて脆弱だとし、これによってユーロ圏経済に持ち込まれる変動性は今後、減らずに増えていく」との見通しを示したそうだ。

 グローバル化し、そこに新型コロナと気候変動の問題が加わり、サプライチェーンが様々な問題を抱えるようになったのだろう。

 サプライチェーンの見直しは避けられそうにない。しかし、即効性のある有効な策がないのかもしれない。

 ただそうしている間も、食用向けとバイオディーゼル向けで、パーム油を取り合っているのかもしれない。それでいいのだろうか。 

 

「関連・参考文書」

3分でわかるパーム油

プルタミナ、もろ刃のバイオ燃料シフト パーム油に逆風 : 日本経済新聞

インドネシア=パーム油高でバイオディーゼル普及に暗雲|海外支店便り|マーケットニュース|マーケットニュース