プラットフォーマーの独占禁止法が違反が世界中でさかんに取り沙汰されようになっている。
中国では規制が強化され、一部プラットフォーマーに多額の罰金が科せられた。
日本、米国で、アップルの独禁法違反について、一定の決着を見たようだが、まだゲーム開発者エピックゲームズが控訴する構えを見せ、解決にはもう少し時間が要するのだろうか。また、欧州はどのような判断になるのだろうか。
国によって、プラットフォーマーに対する独占禁止に対する考えに違いもあるようだ。
- 米国:ゲーム開発会社エピックとの争い
- 日本:アップルの独禁法違反の疑い解消
- 8月26日の和解:エピック以外のアプリ開発者
- 9月10日判決: アップルの成功の定義とエピックの主張
- 中国: 逆風のオンラインゲーム
- データ保護とプライバシー
米国:ゲーム開発会社エピックとの争い
人気ゲーム「フォートナイト」の開発した米エピックゲームズが、アップルを訴えていた裁判で、米連邦地裁が判断を下した。
ブルームバーグによれば、アプリの開発業者が購入者を同社のアプリ市場「アップストア」外の課金システムに誘導することを認めるよう命じたという。
「1000億ドル(約11兆円)規模のモバイルゲーム市場に対するアップルの支配力を弱める判決内容となる」と指摘する。
アップルの課金ルールは消費者の不利益になり反競争的行為だと判断する一方、アップストアが独占的だと認定することはなく、同社の基本ソフト(OS)で第三者のアプリ市場運営を認めるよう命じるにも至らなかった。 (出所:ブルームバーグ)
また、アップルがアップストア内での取引については引き続き支配権を有し、30%の手数料を徴収することができるとしたという。
一方、エピックに対しては、契約違反を理由にアップルに少なくとも400万ドルの損害賠償を支払うよう命じたそうだ。エピックはこの判決を不服として、控訴する考えのようだ。
日本:アップルの独禁法違反の疑い解消
公正取引委員会が、App Storeの運営に当たり,ガイドラインを設け、デジタルコンテンツの販売等について、アプリを提供する事業者の事業活動を制限している疑いがあるとして、アップルに対し、独占禁止法をもとに審査を行っていた結果が9月2日、公表された。
公取によれば、アップルから関連するガイドラインを改訂し、音楽配信や雑誌配信、ニュース配信のリーダーアプリにおいてアウトリンクをひとつ認めるという改善措置の申出があったことで審査終了の理由になったという。公取はその内容を検討し、疑いを解消するものと認められるとした。
(令和3年9月2日)アップル・インクに対する独占禁止法違反被疑事件の処理について:公正取引委員会
この決定を受け、アップルは同内容を日本に限定せずに2022年初めから、世界全体に適用するとした。ただ、対象は「リーダーアプリ」に限られ、雑誌、新聞、音声、動画以外のゲームのアプリは、外部への誘導は禁じられたままとなった。
日本の公正取引委員会によるApp Storeの調査が終結 - Apple (日本)
8月26日の和解:エピック以外のアプリ開発者
アップルは8月26日、スマホのアプリについて、メールなどを利用した自社以外の決済手段の提供を認めると発表した。
アップル、他社決済も容認 米アプリ開発者と合意:時事ドットコム
その理由は、米国の開発者が反トラスト法(独占禁止法)違反として起こした訴訟で、双方が和解案に合意したことによる。
この裁判も、前出9月10日にエピックに関しての裁判の判決を出した判事と同じ、ロジャース判事が担当していたという。
9月10日判決: アップルの成功の定義とエピックの主張
アップルとエピック両社による争い、「先行者利益」、先行者による結果としての市場の独占に対し、司法がどう判断するか気になっていた。
米国は伝統的に「先行者利益を保護し、その成功について厳密に定義する」との印象がある。
そして、今回も判決の中に「Success is not illegal」(成功は違法ではない)との文言であるようだ。ある意味、司法はアップルの事業を成功した例として認めたということではなかろうか。
「Appleが55%を超えるかなりの市場シェアと非常に高い利益率を享受していると判断したが、これだけでは独禁法違反を示していない。成功は違法ではない」。(出所:IT media NEWS)
特許の有効期間は20年といわれ、独占権を与えることで「発明」を保護・奨励し、発明の内容を公開し、利用を図ることで、産業の発達に寄与することを目的としている。
誰よりも先行し開発した労苦を認め、その「発明」に対して、期間をもうけ独占的な実施を認め、結果、市場独占が許される。しかし、その独占は永久ではなく、その期間が過ぎれば、誰もが使用できるようにして産業を発達させていく。
この考えをもとにすれば、米国の司法の判断は合理的に思える。App Storeが始まって20年程度経過していれば、もしかしたら、違った判断になったのかもしれない。
IT media NEWSによると、今回、司法はその対象を「デジタルモバイルゲーミングトランザクション」とし、「裁判所としては、Appleが連邦あるいは州の独禁法の下で独占者であると結論付けることはできない」としたという。ただ、
「この裁判は、Appleがカリフォルニア州の競争法の下で反競争的行為を行っていることを示した」。(出所:IT media NEWS)
アプリ市場を創設、自社のみならず、条件付きではあるものの他社にも開放している事実と、現下のスキームおける対象市場での占有率を鑑みての判断ということなのだろうか。ただ、そのスキームにおける、反競争的行為はいつまでも許されるものではないとも解釈できるのではなかろうか。
それはアップルに遠くない将来に、その競争阻害行為を止め、なお一層の産業の発展に寄与することを求めているのかもしれない。
アップルは発表文で「地裁は、アップルストアが反トラスト法(独占禁止法)違反ではないという、自明であったことを確認した」として、判決はアップルの主張の正当性を裏付けるものだとの認識を示したという。
一方、エピックのCEOは「判決は開発業者や消費者にとって勝利ではない。エピックは10億人もの消費者のためアプリ内課金の方法やアプリ市場を巡り公正な競争のため闘っていく」とツイートしたという。
アップルが作ったiPhoneというハードウェアとアプリ市場があって、またエピックも存在することができる、そうであれば、エピックはアップルが提供してくれた恩恵を間接的かもしれないが享受しているともいえる。エピックの主張も理解はできるが、これまでのアップルの功績を認めたうえで、より開かれたアプリ市場にするために、アップルと協力していくことが筋のようにも思える。それが認めることができないのなら、アップルを凌駕するビジネスモデルを開発、誰も公平に利用できるシステムを創設すればいいことなのかもしれない。
かつての映画産業のように、エジソンの呪縛から逃れようとして、ハリウッドが発展したように。
映画会社がハリウッドに集中する理由【連載】松崎健夫の映画ビジネス考(1)|FINDERS
ただこれは個々人で判断が異なるのでしょうが。
中国: 逆風のオンラインゲーム
中国では、利用者保護を目的に、規制を強化し、企業側が影響を受ける。その対応は米国と異なりそうだ。
エピックの主張も中国であれば、すんなりと許容されたのかもしれない。事実、アリババの行為は独占にあたると判断されているのだから。
ただ、中国では、オンラインゲームへの風当たりが強い。ゲームの新作リリースが保留となるようで、この先、「新作ゲームの本数を削減する」意図があると伝えられている。ゲーム開発者とっても、また、プラットフォームにとってもこれはこれで打撃かもしれない。
データ保護とプライバシー
アップルが8月、iCloudにアップロードされる写真の自動スキャン機能を含め、新たな児童虐待対策のしくみを導入すると発表すると、反撥が起きたという。
これを受け、アップルは、この導入前に「さらに時間をかける」、つまり延期するとの声明を出すに至ったという。
本システムは発表直後から、プライバシー保護団体から多くの批判を招き、電子フロンティア財団は「大規模な監視計画」だと反対声明を表明しています。
アップルは「誤解されている」として説明を繰り返し、他社の技術(クラウド上のデータをスキャン)よりもプライバシーが保護されているとの趣旨を述べていましたが、ついに譲歩を余儀なくされた (出所:engadget)
一方、中国ではデータ保護法が成立し、企業におけるデータ利用が制限が設けられ、当局による監視、検閲も否めない。
何か全く新しいことを始めれば、もめごとが増える。適用できるルールがないのだから仕方がないのだろう。世界共通の倫理観や良識があれば、こうしたことも減るかもしれないが、現実はなかなかそうはいかない。
あらゆることに対処できる倫理観や良識を育むことが求められているのかもしれない。