トヨタと日本製鉄の力関係に変化が生じたのだろうか。
トヨタが、主要部品メーカーに販売する来年度上期(2021年4-9月)分の支給材の価格を一部取引先に示さなかったことが明らかになったとブルームバーグが報じる。国内鋼材価格の指標ともなっている支給材価格が示されないのは異例という。
トヨタの購買力の影響が薄まるため、部品メーカーとの個別取引で鉄鋼メーカーが恩恵を受ける可能性があると指摘する。
従来は集中購買の水準が部品メーカーと鉄鋼メーカーの個別取引にもほぼそのままスライドして適用されていた。しかし、今回は鉄鋼メーカーと交渉を重ねて価格を探っているという。
トヨタの購買力が反映された集中購買の数字が使えないため部品メーカーの交渉力は下がり、今回は通常より厳しい結果になる可能性があるという。 (出所:ブルームバーグ)
そもそも集中購買価格を取引先に開示していたことが如何ものかとも感じたりするが、トヨタが、苦境にあえぐ日本製鉄に配慮したのだろうか。
「内需の減少に加えて、輸出でも採算が取れない厳しい状況が続く」
日経ビジネスによれば、日本製鉄の橋本社長が国内の生産規模縮小を決断した理由をこう説明したという。
日本製鉄は国内15基の高炉を25年度まで10基に絞り込み、国内粗鋼生産能力は年5000万トンから4000万トンになるという。協力会社を含め合計1万人の人員を減らすそうだ。
世界の粗鋼生産の6割を握るまでになった中国鉄鋼メーカー勢との海外での競争が激化。コスト競争力に圧倒的な差がある中国メーカーを前に、輸出戦略の継続が難しくなった。
それが国内を身の丈に合った生産能力までスリム化する決断を下した理由だ。
橋本社長は「国内製鉄事業の再構築は25年度までにやり遂げる。そうでないと他の計画をやり遂げられない」と背水の陣を敷いて構造改革に挑む覚悟だ。 (出所:日経ビジネス)
背伸びした生産戦略、勝ち目の戦い、そんな鉄鋼メーカに、「脱炭素」の波が押し寄せている。
粗鋼生産で世界首位の欧州アルセロール・ミタル、世界2位の中国・宝武鋼鉄集団などライバルとの「ゼロカーボン・スチール開発競争」が待っていると日経ビジネスは指摘する。
ミタル、宝武などとの激しい技術開発競争がこれから予想されるが、橋本社長は強気だ。「(脱炭素の製鉄技術について)これらを商業ベースで確立できた鉄鋼メーカーはまだない。先んじれば新しい還元法のヘゲモニー(覇権)を握れるが、2番手3番手になれば高いコストを払ってまねるしかない。問題は誰が一番先にめどをつけるか。当然、日本製鉄である」と決意を述べた。 (出所:日経ビジネス)
鉄鋼生産の「カーボンニュートラル」の達成には多くの難題がある。「水素還元製鉄」など新しい生産工程への移行には設備投資も含めて4兆~5兆円かかると日経ビジネスはいう。
最近のトヨタの動向からすれば、トヨタ側が救いの手を差し伸べたのだろうか。
かつて集中購買ではないが、管理購買という形態で商社を介して鉄鋼メーカと取引があった。自動車の消費量には到底かなわないが、それでも年間1万トン以上消費する電機の一事業として、取引のあった鉄鋼メーカには一目置かれていた。それでも鋼板の調達では苦労した記憶だけが残っている。四半期ごとの価格交渉、そのたびに交渉ストーリを練り上げ、財閥系商社を交えて交渉を重ね、量の確保に苦労したものだった。
当時は中国が世界の工場として台頭、素材が不足気味で、素材メーカの対応に憤慨することも多かった。遺恨が遺さぬよう交渉には気を使ったものだ。
コロナ渦で明らかに状況が変わっているのだろう。素材メーカの文化に変化は起きるのだろうか。