カーボンニュートラル、脱炭素の圧力が素材関連産業を揺るがしているのだろうか。
鉄鋼、鉄鉱石を原料に石炭を使って生産され、大量の二酸化炭素を排出する。
世界中のメーカがカーボンニュートラルの実現を宣言するようになれば、国内メーカも追従せざるを得ない。世界一の鉄鋼メーカを標榜し、肥大化を続けた日本製鉄に試練のときがやってきているのだろうか。
「日本製鉄が再び合理化に動く」と日本経済新聞がいう。
3月5日に発表した2025年度までの経営計画。
決定済みの製鉄所閉鎖などとあわせると、国内高炉数は14基から10基に減る。粗鋼生産能力は2割縮み、協力会社を含め1万人の従業員に影響が及ぶ。 (出所:日本経済新聞)
「現場を見れば、競争力があるかは一目瞭然」
橋本社長が日本経済新聞の取材でそう話したという。
全国の製鉄所全てに足を運び、品質やコスト、設備改修計画などあらゆるデータを比較した。生産や営業の現場とも徹底的に話し合った。 (出所:日本経済新聞)
もう10年近く前に、当時の新日本製鉄と住友金属工業が合併し新日鐵住金となり、その後日新製鋼を買収しさらに肥大化した。
2019年4月、社名を今の日本製鉄とした。ここまで旧3社の一体運営を目指してきたと、日本経済新聞はいう。
等閑にされた合理化 DXという言い訳
その日本製鉄が、2021年度から5年間でDXデジタルトランスフォーメーション戦略に1千億円超を投資するそうだ。
日本経済新聞によれば、注文から生産までの情報を一元管理するシステムを構築し、AI人工知能など新技術も導入するそうだ。
デジタル改革を担う中田昌宏執行役員は「鉄鋼業のビジネスモデルの中で、変化へ対応できる体質へ会社を変える」と、会見で述べたという。
日鉄は生産や営業といった領域のほか、原料調達や品質管理、財務など幅広い領域でDXを推進する。
中でもデータを有効活用するための体制整備に重点を置いており、生産に関わる部分では国内全6製鉄所の生産計画や、注文情報を連携させるシステムをつくる。 (出所:日本経済新聞)
日本経済新聞によれば、将来は製造現場の監視や調整といった業務を現状の半分に減らし、経営層への情報共有にかかる時間を8割短縮したりすることを目指すという。
国内鉄鋼大手3社が一体となり、規模は大きくなったが、合理化は進まなかったということであろうか。
遅きに失した成長戦略か
「国内事業で稼ぐ力を早期に取り戻し、自ら関わったインドなどに成長資金を振り向ける。現地生産体制の強化を通じて価格競争力を磨き新市場を切り開く。橋本が描く成長戦略は明快だ」と日本経済新聞はいう。
原料も鉄鋼製品も価格変動の幅が大きくなり、収益計画は立てづらくなるばかり。
脱炭素に向けた競争の幕も上がっている。にもかかわらず、「営業も生産も調達も新しいマネジメントに変えられていない」。 (出所:日本経済新聞)
「鉄鋼業はかつてとは全く違う産業になった」、随分と長い間、合理化を置き去りにし、あぐらをかいていたのだろうか。それでは競争力を失するのは当たり前のことではないのか。少しばかり驚く。これからがほんとうの合理化の始まりなのかもしれない。
地元の期待
茨城県の大井川知事と錦織鹿嶋市長、石田神栖市長が29日、梶山経済産業相に、日本製鉄の茨城県鹿嶋市の高炉2基体制の維持を求める要望書を提出したと茨城新聞が伝える。
要望では、2025年3月末をめどに高炉1基を休止する同社の方針に「1万人以上の雇用を支える製鉄所が、生産力を4割削減することは地域経済や市民生活に計り知れない影響を及ぼす」と指摘した。 (出所:茨城新聞)
合理化が遅れたことで、こうした事態になったことはなかったのだろうか。
茨城新聞によれば、面会後、大井川知事は「カーボンニュートラルとか新しいことを鹿嶋の地でできる動機付けになるような提案もしたい」と話したという。
日鉄は2050年のカーボンニュートラルを目指し、水素還元による新たな製鉄を目指すという。地元の期待に応えるべく、自らの力で、技術開発をスピードアップさせ、早期の実用化を果たさなければならないのだろう。そのためには、合理化もスピードアップさせ、結果を出していくことが常に求められるのだろう。
2021.4.1 追記
2030年までに鉄スクラップを原料とする大型の電炉を国内につくる方針を日本製鉄が明らかにしたと日本経済新聞が報じる。
それによれば、日鉄が電炉活用を急ぐ一因は世界的な脱炭素の流れだという。
同社は3月上旬、50年に温暖化ガス排出で実質ゼロを目指すと発表。高炉にコークスの代わりに水素を投入する「水素製鉄法」の研究開発も進め、現在の生産体制を見直す考えだ。
鈴木氏は「どの高炉を電炉へ置き換えるかに関しては生産規模や品種、設備の更新時期といった観点から今後決めていく」と話した。 (出所:日本経済新聞)
なぜ時流を読み違えたのだろうか。世界一をめざす企業なのであれば、お恥ずかしい話のような気がする。
謙虚に市場と向き合い、貢献していこうとする誠実さが欠けていたのではなかろうか。企業体質・文化から変えていくべきなのであろう。