Into The FUTURE

未来はすべて次なる世代のためにある

なぜ日鉄はトヨタまで提訴したのだろうか、宝山、トヨタとも早期和解を望むのだろうか

 

 電磁鋼板の特許権侵害で中国の鉄鋼大手の宝山鋼鉄トヨタ自動車を提訴した日本製鉄の橋本社長が記者会見で、「聞いているというだけでは(特許侵害を否定する)説明にならない」と、トヨタ自身が調査することが必要だと主張したという。

トヨタを提訴の日鉄社長「まったく迷いはなかった」…特許権侵害巡り : 経済 : ニュース : 読売新聞オンライン

「私どもの土俵にのっていただけるのならば、日本経済への影響が出ないようにする責務がある」とも述べ、対立を解消して和解にいたるのが望ましいとの考えもにじませた。 (出所:読売新聞)

 読売新聞によれば、日本製鉄は、宝山の電磁鋼板が使用されているトヨタの電動車の製造や販売の差し止めを求める仮処分も同地裁に申請しているという。

 強気な日本製鉄との印象をぬぐえない。これまでの交渉経緯はどうなっているのだろうか。トヨタが宝山の電磁鋼板を採用する至った背景は何だったのだろうか。

 調達リードタイムを長くなる宝山に切り替えなければならない、やむに已まれない理由あったのではなかろうか。この業界のことだ、その時はおそらく仁義は通したのではなかろうか。もしそうであれば、こうしたことをされたら取引相手のトヨタはどういう印象を持つのだろうか。

 

 

トヨタに対してけんかを売るということは、誰に対しても売るということ」を意味していると、アナリストが分析していると、ブルームバーグが報じる。

供給制限で車と鉄の力関係変化か-日鉄トヨタ提訴、もろ刃の剣の声も - Bloomberg

脱炭素の流れの中で鉄鋼業界の生産能力の増強は進まず、供給が世界的に減少していく見通しのため、タアインハ氏は「良い商品を継続的に調達したいなら自動車会社だけがいい思いをするのではなく、フェアな取り分を素材メーカーにもよこせ」と言える環境になりつつあるという。 (出所:ブルームバーグ

f:id:dsupplying:20210715153409j:plain

 ブルームバーグによれば、別の国内証券のアナリストは、お互い関係を断ち切るところまで事態が悪化する可能性は低いとした上で、もし仮にそうなったら「日鉄を失ったトヨタというのは瀕死(ひんし)になるだろうし、トヨタを失った日鉄は確実に死ぬ」と指摘。訴訟が長期化している間に競合他社にトヨタとの取引でのシェアを奪われるリスクもあり、「早期に交渉して和解するのが一番いい」との見方を示したという。

 普通に考えれば、和解を望むのはけんかを売った日本製鉄側で、トヨタではなかろう。筋違いのけんかを売られて、わざわざその相手がいる土俵にあがるのだろうか。温情を示して上がるなら、日本製鉄側が先に何らかの譲歩を示す必要があるのではなかろうか。

 

 

 鉄鋼 高炉メーカーの中で営業力を強化するために商社との業務のあり方を見直したり、新たな協業を模索しようとする動きが出始めていると鉄鋼新聞が伝える。

 それによれば、商社が果たす機能を議論し、メーカーと商社が一体になってサプライチェーンの強化を図る狙いがあるそうだ。それぞれのビジネスにおける商社機能が明確になってくれば、既存の商社口銭の見直しにつながる可能性もあるという。それだけ鉄鋼業界の競争環境が厳しくなっているのだろう。厳しい環境に晒され、商社にもけんかを売り始めたのだろうか。

 思い出してみれば、調達の仕事にかかわるようにきっかけは鋼板関係の問題処理だった。PCメーカから指定された特殊のブリキ少量が手に入らず、商社に協力を要請して、世界中を探しまわってもらってようやく手に入れることができた。それが当時の新日鉄(現日本製鉄)との関わりの始まりだった。とある海外の取引先が多量に鋼材を余らせては、その買い取りを別の商社から要請され、鋼板調達のいろはを知るようになった。同じような問題がたびたび発生しては手を煩わすので、また別の商社と組んで、少し変わった管理購買を始めることにした。商社機能を上手く使うことに工夫を凝らしたものだった。そのとき、まだ調達の素人で、すこぶる横柄な業界と感じたものだった。その後は価格交渉でずいぶん手を焼き、交渉のいろはを学ばせてもらった。価格交渉に行き詰まっては、そのたびに当時鋼板取引のなかった日鉄との取引を商社に相談したが、そのたび、そうすべきではないと諭された。その理由は感じている印象のままの会社ですよと言われた。今取引ある高炉メーカはこの業界で一番柔軟性があるのだからと言われ続けた。

 

 

 さて裁判所は如何ような判断を下すのことになるのだろうか。その前に和解勧告することになるとは思われるが。

 いずにせよ、最終セットメーカであるトヨタは、何らかの対応策をとるのではなかろうか。電磁鋼板代替品の検討とか、場合によっては供給リスクがある日鉄のシェア減も検討課題にあがるのかもしれない。必要があれば宝山と代替品を共同開発することがあってもおかしくはないのだろう。急激な現状はしないまでも、時間をかけてリスクを緩和させる方向に検討するのは間違いないのだろう。トヨタには市場に自動車を供給し続ける義務があるのだから。

 

「参考文書」

日鉄訴訟は「サプライヤーが折れるはず」と甘くみたトヨタの失敗 - M&A Online - M&Aをもっと身近に。