東京大学が、「CO2に対する気候感度の不確実幅が低減」という研究成果を発表した。
少しばかり期待したが、なかなかそういう結果は得られないようだ。
IPCC 5次報告書で、1.5―4.5℃となっていた気温上昇幅が、様々な証拠を組み合わせることで、その幅が2.6―3.9℃となったという。
1.5℃が2.6℃になったので驚くしかない。
急激に増加する二酸化炭素濃度
東京大学が示した過去80万年のCO2濃度の変化のグラフを見ても、近年のCO2濃度の上昇が尋常ではない。
20世紀以降の観測された気温データ、氷期など過去の気候における気温変化の推定、全球気候モデルによるシミュレーション、衛星観測データや雲の詳細な数値モデルから得られる気候システム内部の物理プロセス理解などに基づく気候感度の推定を複数行い、統計理論を用いてそれらを重ね合わせて統合的に気候感度の幅を推定しました。
その結果、2℃よりも低い、あるいは4.5℃よりも高い気候感度の可能性は非常に低いことが明らかになった。 (出所:東京大学公式サイト)
(資料出所:東京大学公式サイト 過去80万年間の大気中CO2濃度
紀元前80万年前から現在までの大気中CO2濃度の変遷。青線は南極での氷河や氷床から得られたデータ、赤線はハワイマウナロア島で観測された1958年以降のデータを示す。20世紀以降のCO2濃度の上昇が過去80万年間に見られなかったレベルであることが明らかにわかる。
© 2020 吉森正和(元データはアメリカ大気海洋庁およびスクリプス海洋研究所のウェブサイトより取得))
キーワードは2050年のカーボンニュートラル
EUは2050年までにCO2 二酸化炭素排出を実質的にゼロにする「カーボンニュートラル」を目指す。
国内でも多くの自治体が「ゼロ・カーボンシティ」を宣言し、2050年のカーボンニュートラルを目指すという。
しかし、CO2の回収、貯留が進まなければ、大気中のCO2濃度に変化はないのでなかろうか。
石油メジャーのBPは、2月に、 2050年までに温暖化ガスの排出量を実質ゼロにする目標を発表した。その達成に向けた具体的な経営目標を提示したと日本経済新聞が報じる。
「BPは30年までに全く別のエネルギー企業になっているだろう」
日本経済新聞によれば、石油やガスの生産は段階的に縮小していくという。石油やガスの生産量は、石油換算ベースで、19年実績の260万バレルから4割減らし、30年で日量150万バレルにする。新たな国での資源探査は行わない方針だという。
化石燃料への依存度を徐々に下げ、新エネルギー分野に軸足を移す。再生可能エネルギーによる発電容量を19年の2.5ギガ(ギガは10億)ワットから、30年までに50ギガワット規模に増やす。
生物資源に由来するバイオ燃料の生産量を日量2万2千バレルから10万バレル超に引き上げる。同時に電気自動車(EV)の充電施設は7500カ所から7万カ所へ広げる。 (出所:日本経済新聞)
経済産業省の回心 カーボンリサイクル本格化か
昨年、経済産業省は、化石燃料から排出されるCO2の問題に正面から取り組む必要があるとし、CO2を再利用するカーボンリサイクルに係る技術開発のロードマップを策定した。
(資料出所:経済産業省公式サイト「「カーボンリサイクル技術ロードマップ」を策定しました」)
これに合わせるかのように、国の委託事業として、いくつかのカーボンリサイクルの技術開発が始まっている。
「カーボンリサイクルロードマップ」の性質上か、石炭など化石関連会社に技術開発を委託しているようだ。
日本製鉄 CO2 を原料とするパラキシレン製造開発に着手
日本製鉄は、富山大学や三菱商事など6社と共同で、「CO2 を原料とするパラキシレン製造に関する開発に着手」したという。
パラキシレンは、高純度テレフタル酸(PTA)をを経由してポリエステル繊維やペットボトル用樹脂等に加工される化合物で、工業上、重要な基礎化学品だ。
パラキシレンの世界需要は約4,900万トン/年あり、仮に現在の世界のパラキシレンの需要を全てCO2原料に切り替えた場合のCO2固定量は1.6億トン/年になるという。
(資料出所:日本製鉄プレスリリース「CO2 を原料とするパラキシレン製造に関する開発に着手」)
委託元は NEDO(国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)で、委託プロジェクトは、「カーボンリサイクル・次世代火力発電等技術開発/CO2排出削減・有効利用実用化技術開発/化学品へのCO2利用技術開発」。
トクヤマ 炭酸塩製造にCO2利用
トクヤマは双日などと、CO2を活用するための技術開発を進めるという。
日本経済新聞によれば、トクヤマは板ガラスなどの原料になる炭酸塩を生産するという。
炭酸塩の製造工程では石灰石由来のCO2を原料として使用する。
このCO2をトクヤマが持つ石炭火力発電所由来のCO2に一部置き換える。
年間3万トンのCO2を有効利用する計画だ。発電所の燃焼排ガス中のCO2を吸収する技術を3社で開発する。 (出所:日本経済新聞)
ユーグレナ 廃食油の有効活用
カーボンリサイクルロードマップにも取り上げられている微細藻類バイオ燃料を手がけるユーグレナは、ファミリーマート一部店舗の使用済み食用油(廃食油)を原料の一部とする「バイオディーゼル燃料」を、ファミリーマートの配送車両に使用する循環型の取り組みを共同で実施すると発表した。
(資料出所:ユーグレナプレスリリース)
ユーグレナが目指す航空機のバイオ燃料化 GREEN OIL JAPAN宣言
2018年10月、ユーグレナのバイオ燃料製造実証プラントが竣工した。この時、ユーグレナは、「GREEN OIL JAPAN(グリーンオイルジャパン)」を宣言、「日本をバイオ燃料先進国にする」ことを目指すとした。
ユーグレナは当初、2つの目標を設定していたと聞く。
・2020年までに実証プラントで製造したバイオ燃料を陸・海・空における移動体に導入する。
・2025年までに25万kL/年規模で経済性を有する商業生産体制を整える
「ユーグレナのバイオ燃料のCO2削減効果」
既存の化石燃料由来の燃料を、ユーグレナのバイオ燃料に置き換えることで、約80%のCO2削減効果がある。
25万kL/年生産することで、約50万ton/年のCO2削減効果を目指す
(出所:資源エネルギー庁「カーボンリサイクル技術事例集」)
そして、2030年までにバイオ燃料を製造・使用するサポーターを日本中に広げることで、バイオ燃料事業を産業として確立することを目標にしているという。
ANA ESG中長期目標公表
「GREEN OIL JAPAN」宣言に賛同したANAが、2050年までに達成するESG関連の中長期目標を公表した。
航空機の運航で発生するCO2排出量を2005年比で50%削減(2019年比で66.6%削減)
・航空機の技術革新により開発された、省燃費機材や改良型エンジンの導入等
・運航方法の工夫やエンジン洗浄等によるオペレーション上の改善
・SAF(Sustainable Aviation Fuel)の導入
・排出権取引制度の活用航空機の運航以外で発生するCO2排出量をゼロ
・空港車両等へのハイブリッド自動車、電気自動車、燃料電池自動車の導入
・自社施設や設備等の省エネ機器へ更新
・省エネを実施したうえで、再生可能エネルギーへ移行資源類の廃棄率をゼロ
・プラスチックや紙等を中心に、資源類の利用量削減、再利用、リサイクルの3R注3を推進機内食などの食品廃棄を50%削減
・食材の調達、調理、食事の提供、廃棄を通した製品ライフサイクルの中で食品廃棄を削減(出所:ANA公式サイト プレスリリース)
コロナの影響で苦境にあることは理解するが、30年後の目標だ。もう少し野心的な目標にはならなかったのだろうか。CO2削減効果の大きい国産バイオ燃料を積極的に活用して欲しいものだ。