喜劇王 チャップリンは1936年の映画「モダン・タイムス」で、人が機械の取り込まれる姿が描きました。資本主義社会や機械文明を題材とし、労働者個人の尊厳が失われ、機械の一部分のようになっている世の中を喜劇として表現していたといいます。
AI 人工知能が一大ブームとなり、短期間に多額の資金が市場の一角に流入し、かつてのITバブルの初期を彷彿とさせる状況になりつつあるといいます。このAI の急速な台頭で、今度は知識労働者がAIに取り込まれるのではないかといわれます。
AIブームは生産性加速の到来を告げ、 一部の人にはより大きな繁栄をもたらす一方、主にナレッジワーカー 知識労働者の仕事には深刻な混乱が生じるだろう、と米国のコンサルティング会社マッキンゼー・アンド・カンパニーが分析しているといいます。
AIブーム最大の被害者は知識労働者とマッキンゼー-過去と正反対か - Bloomberg
営業やマーケティング、顧客オペレーションなどビジネス活動の全体が、ソフトウエアに組み込まれるようになるとみられる。(出所:ブルームバーグ)
記事によると、新技術が顧客満足度を向上させ、意思決定を支援し、監視が強化され不正を軽減するため、銀行業界だけでも生産性の向上から2000億-3400億ドルの追加の利益を生み出し得るようになるとマッキンゼーは分析しています。
こうした影響で従業員は、別の仕事を割り振られるか、あるいは仕事がなくなることもあり得るとし、「労働者には新しいスキルを学ぶための支援が必要になるだろう」と指摘、「一部の人は転職となろう」とも予想しているといいます。
同じような論調がますます増えてきているようです。 こうした変化は以前の分析では、2027年頃になるだろうと予測されていたのが、今年それが起こるとマッキンゼーは見ているそうです。
また、「長年かけた学位取得の努力が無に帰す恐れがある」とも指摘しているといいます。
『モダンタイムス』に象徴される機械化は、資本家と消費者を豊かにした。安価な製品を大量に提供して便利になった。しかし、労働者はチャップリンのように単調な作業を強いられていく。学校教育も大量生産の工業化に適合できるような人材を育てるものとなり、結果的に没個性を求める社会となった。(出所:Forbes)
人間を機械にしない!「幸福な近未来」への道を見てきた | Forbes JAPAN 公式サイト(フォーブス ジャパン)
これから始まるAI化は、「大量生産時代の機械化」と同じなのか、それとも何か違うものをもたらすのか。「その答えを一言で言うならば、「誰を幸せにするか」の違いではないだろうか」と記事は指摘します。
物質的な幸せの裏側で過酷さを生みだし、人が機械扱いされていた20世紀的社会を、AI社会では、機械が人間に取り込まれる社会にしなければならないといいます。
米国際政治学者のイアン・ブレマー氏が、生成AIの国際ルールについて「拘束力のある国家レベルの規制が必要」と述べたそうです。民主主義の価値観を持つ国が主導する国際機関の設立を提言し、科学的根拠に基づいた合意によって規制をつくるよう求めたといいます。
生成AI、国家レベルで規制を 米政治学者のブレマー氏 | 共同通信
生成AIについて「偽情報や雇用の破壊といったリスクはかつてないスピードで拡大しており、政策的な対策が必要だ」との認識を示し、「偽情報対策とAIの影響から子どもを保護することを最優先で考える必要がある」と強調した。(出所:共同通信)
一方で、生成AIは製品の研究開発では、生産性を10-15%押し上げる可能性があるといいます。ライフサイエンスや化学業界などにおける新薬や新素材の開発プロセスにおいては特にそうであると、マッキンゼーは推計し、製薬会社や医療品メーカーの利益は最大25%増加する可能性があると報告しているといいます。
こうした利用を促進していくためにも、生成AIの自由競争はあって然るべきなのかもしれません。
他方、AIを正しく理解できずに、目的や効果があやふやになり、人が操られようなることは避けなければならないのでしょう。そういう視点からは、ブレマー氏が言う通り、規制を設けることにも理由があるように思われます。
いずれにせよ、規制は後追いでしか作ることはできません。今認識されている問題をベースに規範となるルールが求められているように思えます。
「ビジネスリーダーは、どの活動を変えることができ、それをどのように再考したいかを理解する必要がある」とイー氏は述べた。「それはリーダーが選択し実践するものだ」という。(出所:ブルームバーグ)
これまでもテクノロジーは様々な社会課題を解決してきた一方で、必ずといってほどにそこからまた新たな課題を生み出してきました。
地球温暖化、公害、交通事故など例をあげればきりがありません。こうした問題を抑制するには規制が必要であることはいうまでもないことです。生成AIも然りなのでしょう。ビジネスにおけるメリットな面だけを強調することがあってはならないような気がします。
「参考文書」
「AI導入で人員削減」 独最大手紙、電子化へかじ:時事ドットコム
【ESGまとめ読み】大和証券を選定、AIブーム、バークレイズ調査 - Bloomberg