昨年、中国とユーロ圏で輸出と輸入が過去最高を記録し、米国の対中貿易も輸出と輸入で記録的な水準に達したそうです。
まだまだ世界経済が統合拡大し、国境を越えた財、サービス、資本の移動が進む「グローバル化」が進んでいるのではないかと思ってしまいます。
コラム:「脱グローバル化」は誇張、逆風下でも好調な世界貿易 | ロイター
グローバル化は、その勢いが弱まったとはいえ、終焉を迎えたという報道はかなり誇張されたものではないだろうか。(出所:ロイター)
しかし、グローバル化は行き詰まっているとの見方をする専門家が多数いるともいいます。
脱グローバル
過去30年間は低インフレ、金融緩和、中国の世界経済への統合、比較的平和な時代背景の下でグローバル化が進んできたといいますが、パンデミック、大衆迎合主義的な政治の台頭、欧州での戦争、軍事面や経済面、技術面における中国の強大化により、世界は「外」ではなく「内」向きの傾向が強くなってきていると記事は指摘しています。
UNCTAD 国連貿易開発会議のエコノミストは、貿易構造の変化は避けられず、「脱グローバル化」あるいは「地域化」に向かい、そのプロセスは産業や国によって「選択的」となり、5年から10年の時間を要すると予想しているそうです。
2つの生態系
絶対的だった米国の経済力が揺らぎ、一方で中国が圧倒的な勢いでその勢力範囲を拡大しています。米中関係は悪化の一途です。このまま中国と米国の経済、貿易、金融の結びつきが緩んでいけば、今後は「地域化」の流れが強くなるだろうとの見方が強まっているようです。
米国と中国という2つの「生態系」に分かれた世界経済、あるいはさらに多極化した世界では、おそらく全体的にインフレが起こりやすくなり、金利は構造的に上昇し、成長率は低下するだろう。(出所:ロイター)
米国は、インフレ抑制法や半導体業界支援法などを成立させ、グリーンエネルギー、ハイテク、半導体など対象に「自給自足」の動きを強めています。中国も同様な動きを見せるとともに、さらにその影響力拡大に余念がないようです。
中国BYD 急成長する世界2位のEVメーカー
また、ここ最近においては供給網サプライチェーンを近場で完結させる「ニアショアリング」や同盟国・友好国で完結させる「フレンドショアリング」の動きが早まっているようです。
中国の電池メーカであり、世界2位のEV 電気自動車メーカーでもあるBYD(比亜迪)の新工場建設を巡って、フィリピン、ベトナム、インドネシアが誘致合戦を繰り広げているそうです。
記事によれば、BYDは、タイに東南アジア初のEV生産工場を建設することがすでに決まっているそうです。さらに、BYDの代表者らが、昨年末にフィリピンを訪問して工場用地の候補地を調査し、第2四半期中に決定を下す可能性があるそうです。
また、インドネシア側も、EV工場への投資の可能性について「BYDとの協議が続いている」といいます。
インドネシア政府は、BYDがタイなどの近隣国ではなく、自国に工場を建設するよう説得するため、多くの税制優遇措置やインセンティブ、バッテリー原材料の調達を提案しているという。(出所:NEWSPICKS)
EVシフトで中国が優位に立つ中、東南アジア諸国はEV関連の投資を呼び込もうと競い合っていると記事は指摘しています。
ニッケル争奪にみる新たな経済圏
インドネシアとフィリピンは、世界のニッケル埋蔵量のほぼ半分を占めており、EVメーカーや、ニッケルが主要部材であるEV向け電池メーカーにとって好都合の土地柄をいいます。
またインドネシアには中国企業が相次いで進出し、ニッケルの確保を進めているといいます。中国企業は現地企業との合弁などでニッケルの製錬所などを次々と建設しているそうです。
中国企業との結び付きを強めるインドネシアのニッケル産業。加工されたニッケルの多くは中国へと輸出され、電池の部材などとして加工されます。中国が世界をリードするEVの心臓部は、その巨大経済圏の中で生産が完結できる仕組みが作られつつありました。(出所:NHK)
競合の日本の大手非鉄金属メーカーは中国企業同様、現地企業と新たな製錬所の建設に向けた交渉を行っていたそうですが、交渉は破談し、2022年に新たに権利を獲得したのは中国企業だったといいます。
「心配なのは、自給自足が進むと、貿易相手国との妥協点を探るインセンティブが薄れることだ」と、専門家の声をロイターは紹介しています。
日本企業ばかりでなく、日本の基幹産業である自動車の行く末も心配になります。
「参考文書」
中国「強国」戦略の脅威 “ターゲットは日本の得意製品” | NHK | ビジネス特集 | 経済安全保障