Into The FUTURE

未来はすべて次なる世代のためにある

ムーンショット目標、それが目指すべき日本のイノベーションか

 

 長く日本発のイノベーションが標榜され続けている。「科学技術立国」に向け、岸田政権が「10兆円大学ファンド」を立ち上げ、世界トップレベルの研究に国がファンドの運用益を配分するそうだ。

 山際経財相も、「新しい資本主義」において、イノベーションは成長戦略の一番太い柱になると、日本経済新聞のインタビューでそう述べている。求められているイノベーションが生まれるのだろうか。

 

 

ムーンショット

 もうひとつイノベーションを目指す政策がある。内閣府が2020年に設定した「ムーンショット目標」。

 従来技術の延長にない、「あり得ない」を現実にする野心的な目標だという。日本の科学界が現在、この「ムーンショット型研究開発」を進めているそうだ。

ムーンショット」とは、「月に向けて打ち上げる」という意味。ジョン・F・ケネディ米大統領の時代に進められたアポロ計画が由来となっているという。

内閣府の野心的「ムーショット型研究」は高齢化社会を救えるか?:日経ビジネス電子版

当時からすると、あり得ない夢物語とされていた月着陸。

そんな、あり得ないかもしれないが、実現すれば大きく世界が変わる研究目標をムーンショット目標と呼んでいる。(出所:日経ビジネス

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(資料:内閣府

ムーンショット目標 - 科学技術政策 - 内閣府

 優れたムーンショットは、「Inspiring」人々を魅了し、「Imaginative」創意にあふれ斬新であり、「Credible」信憑性があるという。

 将来の社会課題を解決するため、「Quality of Life(生活の質)の向上」と「Human Well-being(人々の幸福)の達成」を目指し、「社会」「環境」「経済」の3つの領域から、具体的な9つの目標を決定したという。

 

 

 内閣府の「ムーンショット型研究開発事業」は、欧米や中国が日本と桁違いの投資規模でハイリスク・ハイインパクトな挑戦的研究開発を強力に推進している現状を鑑みて企画されたとニュースイッチは指摘する。

日本で技術革新を起こすなら“竹槍”は捨てリスクマネーに挑む必要がある|ニュースイッチ by 日刊工業新聞社

 しかし「ムーンショットはムーンちょっと」と、関係者がささやく冗談があるという....

「国の研究開発投資は破壊的イノベーションを掲げて予算を確保するものの、リスク管理のために細分化して分散投資する」と、ニュースイッチは国の予算措置を批判し、また、研究者は海外のリスクマネーにアクセスせず、国の科学技術振興を訴える現状を指摘する。

デジタル社会はIBMメインフレームから始まった 

量子計算では、計算をたまに間違える計算機は商品になりえるのか。NISQをネットワークでつないで規模を大きくするとしても、そんな巨大な計算機どうやって維持するんだ。という話を聞くと、未来のある基礎研究だなと思います。

そんな段階の技術でも未来を変えうるテーマには数百億円の投資がなされる大国と競争しています。(出所:ニュースイッチ)

 IBMが1960年代、メインフレームの原型といわれる「システム360」を開発した。この開発が世界をデジタル・コンピューティングの世界に導いたといわれる。

 このメインフレームの前のコンピューターは、部屋を占拠するほどの大型機械で、エネルギー効率は悪く、信頼性は低く、製造コストもたかった。これらの問題は当時発明されたばかりの半導体チップで解決できた。それに着目したのがIBMだった。半導体IBMの発明品ではないが、複数のコンピュータの機能をその小さなチップに収められることに気づいた。

 それまでにコンピュータといえば、同じ会社であっても他の製品と互換性がなく、周辺機器も専用化され、システムごとに異なっていたという。それを見ごとに解決にしたのがIBMのシステム360だったという。

システム360を思いつくこと自体、並大抵のことではない。それを実現するには、人類を月に送る計画に匹敵するくらい努力が必要だ。コストもほぼ同じだ。ワトソンの回想録によれば、システム360の投資額は50億ドルにのぼり(60年当時の50億ドルだ)、マンハッタン計画(原爆開発)を上回っていたという。(引用:巨象も踊る P159)

 このIBMの開発物語こそ、ムーンショットといっていいのだろうか。

 ただIBMは特にこれといった発明をしていない。発明されたばかりの半導体をコンピュータに利用し、それを莫大の費用と時間をかけて実用化した。

 それがイノベーションということなのかもしれない。

 

 

 こうした事例からすれば、たゆまない基礎研究があり、そこから発明が生まれ、その上で、それを何か利用するという発想があって、なおかつ、実用化のプロセスがあって、イノベーションに育っていくのだろう。

日本のベンチャー投資は、米国や中国に比べ一桁二桁小さく、投資家に基礎研究を事業に育てる力はない。

ITやSaaS(サービスとしてのソフトウエア)など手離れのいいビジネスに投資が集まっている。(出所:ニュースイッチ)

 さて、日本でイノベーションを育てる力はあるのだろうか。

「今後、40年までに、少しでも「月(ムーン)」に近づくことができるのか、はたまたネーミングだけが残るのか、今後が注目される」と日経ビジネスもいっている。

 

「参考文書」

経財相×日立・三菱商事・DeNA 新しい資本主義で対談: 日本経済新聞

みずほリサーチ&テクノロジーズ : ムーンショットが描く2050年の未来像

ムーンショット型研究開発制度が目指す未来像及びその実現に向けた野心的な目標について(案)