インドのコロナ危機が深刻だ。感染爆発とそによる医療危機は、インドにアウトソースを進めきた銀行のバックオフィス機能を脅かしているという。
ブルームバーグによれば、UBSはポーランドに業務を移し、ムンバイとプネ、ハイデラバードの従業員計8000人の多くが欠勤しているという。スタンダードチャータードは一部の業務をクアラルンプールや天津、ワルシャワに移し、バークレイズもインドから英国に一部機能をシフトしているそうだ。
グローバル化が進展した以降、過去数十年かけてバックオフィス機能をインドにアウトソーシングしてきた銀行にとって、想定外のもろさが露呈したとブルームバーグは指摘する。コロナ禍が収束すれば、またもとに戻るのだろうか。
コロナ渦がこれまでのバリューチェーンの脆弱性をあぶり出している。そして、今、米中対立の地政学リスクの高まりがバリューチェーンのありかたを問う。
バイデン米大統領が4月28日に議会演説を行った。演説の随所随所に中国との言葉が登場し、中国を深刻なライバルとみていることを理解する。
考えてみて欲しい。風力タービンのブレード(羽根)を北京ではなく(米東部ペンシルベニア州)ピッツバーグで製造できない理由はない。理由は全くない。全くだ。理由は全くない。
電気自動車や電池の生産で、米国の労働者が世界を主導できない理由はない。米国には世界で最も聡明(そうめい)で訓練を受けた人々がいる。
・・・(中略)、中国や他の国々が急速に迫ってきている。我々は未来の製品や技術を開発し、優位に立たねばならない。先進的な電池、バイオテクノロジー、コンピューターチップ、クリーンエネルギーなどにおいてだ。(出所:日本経済新聞)
東西冷戦が終焉した後の融和ムードはふき飛び、再びイデオロギー対立が起きているかのようだ。米国は独立の精神を尊び、中国は中華(夏)思想を重んじているのかもしれない。
バイデン大統領の演説を受け、中国外務省の汪副報道局長が29日の記者会見で、「相手に足払いをかけたり、わなにかけたり、たちが悪い競争を行ったりすべきではない」と強調し、「米国は中国に対して負け惜しみの気持ちを持たず、穏やかで理性的な心で中国の発展に対応し、大国らしく振る舞うよう望む」と述べたという。
共産党機関紙・人民日報系の環球時報は29日の社説で、就任100日を迎えるバイデン氏の対中政策について、予測可能性は高まったが、米中間の科学技術分野のデカップリング(切り離し)は進むと予想。同盟国を加えた対中圧力も続き、「われわれは中米の極めて非友好的な雰囲気の常態化に順応せねばならない」と指摘した。 (出所:JIJI.COM)
汪氏の言葉に礼節を重んじる中華思想を感じたりする。
変わり始めるバリューチェーン
東芝と米GE(=ゼネラル・エレクトリック)が戦略的提携契約を締結したと発表した。東芝によれば、洋上風力タービンの製造プロセスの主要な工程を日本国内で行うという。
東芝はGEから技術や部品の提供を受け、横浜市内の工場で風車の基幹設備などの生産に乗り出す計画とNHKは報じる。
米IBMは、2nm(ナノメートル)の半導体技術を開発したという。ロイターによれば、製造パートナーと協力して「2~3年以内に」2ナノメートル半導体の生産を開始するとの見通しを示したという。
ソリューションカンパニーになったはずのIBMが半導体技術の開発を続け、その技術を起点として、他国に強く依存しないバリューチェーンを構築することになるのだろうか。
こうした動きは、中国一辺倒からの脱却の始まりになるのだろうか。
プラザ合意で円高が一気に進み、グローバル化に火がつきバリューチェーンが変化した。ベルリンの壁が崩壊し、東西冷戦が終焉することでグローバル化がさらに進んだ。その後のインダストリー4.0で製造業の自国回帰の期待もあったが、大きな変化にならなかった。そこには巨大な中国市場の存在があったからなのかもしれない。
今起きている環境変化は再びバリューチェーンを変化させるのだろうか。しかし、そこには大きくなり過ぎた中国の存在がある。かつて日本は米国を過小評価し戦争に敗れた経験が持つ。誤った評価によることなく、中国との関係を模索すべきなのだろう。自分たちの主張を押し通すだけでは対立が生まれる。常に現実的な対応が求められている。