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【新疆綿】アシックスの対応は「ダブルスタンダード」なのか

 

 中国は、欧米と同様に人権を尊重しており、どの国であれ中国の政策を批判する立場にはないと主張している。それに同意しないのであれば、外国企業に代償を支払わせるというのが中国政府のスタンスだとブルームバーグが伝える。

 さらに、中国で事業を行う外国企業は、いや応なしに地政学的リスクの最前線に立たされるという。

世界中の投資家が環境・社会・ガバナンス(ESG)を重視する中で、人権問題には口を出すなと北京側から圧力を受ける恐れがある。 (出所:ブルームバーグ

www.bloomberg.co.jp

 中国では、今までの欧米の言い分を否定するアプローチは「弱腰な防衛」と見なされているという。これまでの経済活動など内政面での成功が中国政府を強気にさせていると指摘があるという。 

反論することで欧米が対中批判をやめる公算は小さいと認識する中国政府だが、一層の強硬姿勢により、共産党が「中国権益の最善かつ最も確固たる守り手」だと国民に対しアピールできるとの見方を示す。つまりは「非難の応酬が続き、中国と米国、ひいては中国と西側をさらに遠ざける可能性がある」との見立てだ。 (出所:ブルームバーグ

 新冷戦ということなのだろうか。

 

 

 英BBCは、新疆ウイグル自治区政府のスポークスマン徐貴祥氏の記者会見での発言を伝える。

 それによれば、「企業は、経済活動を政治化すべきではない」と述べたという。さらにスポークスマンは「H&Mは中国市場で収益を上げ続けることができないだろう」と述べ、「新疆綿」の購入をやめるという決定は、「リーズナブルではない」、「石を持ち上げて自分の足に落とす」ようなものだと言ったという。

www.bbc.com

 このスポークスマンの発言は、世界最大の市場の1つにおけるスウェーデン企業の将来に疑問を投げかけているとBBCは指摘する。

 BBCH&Mからのコメントを得られていないという。H&Mはこの問題にどのように対処していくのだろうか。

 

 

 スポーツ用品の大手アシックスが、中国で「引き続き新疆綿を購入する」と発表したという。

 さらに、台湾は中国の一部分とする「一つの中国原則を堅持」し、「中国の主権と領土を断固として守り、中国に対する一切の中傷やデマに反対する」と表明したとハフポストが伝える。 

「中国国内で発売されているローカル商品にのみ、ごく微量の新疆綿が使われていることは事実。

アシックスとしては人権や労働環境に配慮した生産委託を大前提にしている」と話した。日本のTwitterではこの声明に批判的な投稿もあるが、今のところ撤回の予定はないという。 (出所:ハフポスト)

www.huffingtonpost.jp

 ビジネスジャーナルは、中国のアパレル事情に詳しい専門家のアシックスの対応についてのコメントを紹介する。

中国国内では、新疆ウイグル自治区産の綿花を使用しないと公言した企業に対する批判や不買運動が起きています。アシックスは中国でのビジネスを重視して、当局を刺激しないように今回の発表をしたと考えられますが、これは諸刃の剣となる可能性があります。EUや米国はウイグル人虐待を原因として制裁を発動しているため、中国がこれを認めてウイグル人を解放しない限り、欧米と中国の対立は続くとみられます。

 しかし、中国政府がウイグル人虐待を認める可能性は限りなく0に近く、この問題は長引くと考えられます。そうなると、究極的には欧米でのビジネスを取るか、中国でのビジネスを取るか、という選択をしなければなりません。中国政府の見解を支持する声明を出したアシックスは、欧米での市場を失うリスクをはらんでいます (出所:ビジネスジャーナル)

biz-journal.jp

 アシックスは、ビジネスパートナー管理方針で強制労働の項を設け、「ビジネスパートナーは、囚人労働、債務労働、奴隷労働などの形態を問わず、強制労働につながる可能性がある状況を排除するため、雇用費用の雇用主負担の原則及び責任ある雇用の慣行を遵守するものとする」(出所:アシックス)と規定する。

 ローカル商品に使われている「新疆綿」がこの規定に反していないことをどう証明するのだろうか。

 ダブルスタンダードが存在するようにみえる。

 ただ中国政府が人権問題は存在しないとしている以上、アシックスの対応が100%コンプライアンス違反とは指摘し難い面もあるのであろう。

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 ブルームバーグが指摘したように、地政学リスクの最前線に立たされているというのが現実なのであろう。中国ビジネスがこの先どう変化していくのか目が離せなくなった。

 

2021.4.1追記

「アシックス、ウイグル問題めぐる声明を削除。「中国法人が了解得ず出した」当初の説明から一転」とハフポストが報じる。

 本社の了解を得て出したと説明していた中国のSNS・ウェイボーでの投稿「中国に対する一切の中傷やデマに反対する」が、広報担当者の認識が間違っていたとして「中国法人が許可を得ず出した」と一転させたという。

 ハフポストによれば、その理由を「広報担当者の認識が間違っていた」とし、「全ての原材料がアシックスの定める調達ポリシーに合致していることを確認しています」と強調したという。

中国のネット空間では当初、声明は歓迎されたが、削除されると一転し「態度を改めた」などと批判の声が上がっている。タレントの李易峰さんは29日、アシックスとの提携を解消すると発表した。 (出所:ハフポスト) 

www.huffingtonpost.jp

 

 オーストラリアでは、東京五輪で代表選手が着用する公式ユニホームを発表したと、AFPが伝える。しかし、そのユニホームがアシックス(ASICS)製だったことで、オーストラリアオリンピック委員会(AOC)にも批判が及んだという。

www.afpbb.com

 アシックスの広報は、当初のコメントは本社が許可したものではなく、会社としての立場を示すものではないと、AFPの取材にもそう答えたという。

 AOCのイアン・チェスターマン(Ian Chesterman)副委員長は、「豪選手団のユニホームに、その地域(新疆)産の綿が一切使われていないと保証された」と述べた。 (出所:AFP BB NEWS)

 対応のまずさは企業の信用を棄損させる恐れがある。結果からすれば、アシックスの「ビジネスパートナー管理方針」は守られていたとみることができそうだ。会社の顔となる「広報」が、この管理方針を知らなかったということなのだろうか。

 AFPによれば、共産党機関紙・人民日報(People's Daily)系の環球時報(Global Times)は30日、アシックスが当初のコメントを撤回したことで、中国で不買運動の対象に加わり「壊滅的損失」を被っていると報じたという。

 問題の深刻さを見極めずに、対処を間違えると、取り返しのつかないことになる好例なのかもしれない。「他山の石」とすべきなのだろう。