Into The FUTURE

未来はすべて次なる世代のためにある

進むアパレルの構造改革 大量の売れ残り問題は解決に向かっているのか

 

 苦しい状況になれば生き残りをかけて改革を実行するのが世の常だったりする。ただ思い描くようなV字回復を誰もができる訳ではない。アパレルの名門レナウンが経営破綻したと聞いたとき、名をはせた企業も倒れることがあるのだと改めてそう思った。調べてみれば、破綻するにはそれなり理由があるのだろう。弱点や悪い事例を仔細に分析もせず、成功ばかり夢みて改革を実行しても成果が上がるはずがない。脇が甘いというか、浅はかなことが瓦解に繋がっていくのかもしれない。

 メディアはアパレルの危機という。このコロナ渦ということもあるのだろう。どのアパレルも崩壊してしまうような論調で記事を書く。状況証拠になるようなネタはたくさんある。

 アパレルがこの先どう変化していくのだろうか。自分が選んできたブランドがどうなるかは気になるものだ。

 

 

 

 

相次ぐ大手アパレルの構造改革

大手アパレルのTSIが構造改革に伴う希望退職を発表した。百貨店向けアパレル大手3社そろって、希望退職を募ったことになるそうだ。

  調査会社東京商工リサーチTSRによると、TSIHDは、百貨店やファッションビルで主に展開する「ナチュラルビューティーベーシック」や「パーリーゲイツ」、セレクトショップの「ナノユニバース」や「ビーセカンド」など50以上のファッションブランドを擁し、2020年2月期の売上高は1700億6800万円だったという。今回の希望退職の対象人員は人員削減プログラム全体で300人。TSIHDは、2020年2~9月までの上期で88店舗を閉店し、下半期も子会社の解散や撤退するブランドを含め122店の閉店を明らかにしているという。

 売れない、利益確保が難しいということであれば、避けえないことなのだろう。

  

 

 

 ファーストリテイリングの柳井氏も日経ビジネスのインタビューで、「消費行動が変わると、出店の考え方も変わりますか」と問われると、「そうですね。やっぱりダウンサイジングしていくと思いますね。アップサイジングできる要素はないでしょう」と答えている。

 

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大量売り残りからの出口戦略か オンワード「オフプライスストア」進出

 2月に350人の希望退職者を募ったオンワードHDが矢継ぎ早に様々施策を打ち出しているようだ。

 WWD Japanによれば、今度はオフプライスストア業態「オンワード・グリーン・ストア(ONWARD GREEN STORE)」を千葉県柏市に開いたという。当面は自社のブランドを販売するが、順次、他社が展開するブランドも含めて取り扱いを広げるそうだ。

 また、2009年から定期的に実施してきたオンワード製品を回収し、リユース、リサイクルする「オンワード・グリーン・キャンペーン」の常設拠点の機能も持たせるという。このキャンペーンには過去約90万人が参加し、約480万点を引き取ってきたそうだ。

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コロナ禍の長期休業や消費低迷によって、アパレル業界では在庫過多の問題が深刻化。複数の企業やブランドの在庫を集めて値引き販売するオフプライスストアは、大量の売れ残りを抱えるアパレルメーカーの出口戦略として注目を集めるようになった。 (出所:WWD Japan)

  

www.wwdjapan.com

 

 先にワールドがこのオフプライスストア業態に進出している。恒常的に発生するようになった在庫をリサイクルなどで2次利用するよりは、そうしたものにニーズがあれば、オフプライスで販売するほうがよいということなのだろう。

 しかし、在庫過多を生み出す「しくみ」から改善しなければ、いつまで在庫過多の問題はなくならない。ビジネスモデルが陳腐していたにもかかわらず、今まで変化が乏しかったということだけなのかもしれない。

 

 

 

海外にみる古着の実態

 欧米から寄付として集まった大量の古着が廃棄されている問題があった。良かれと思っていた行為が現地のニーズとミスマッチ、大量の廃棄につながったりするようだ。その一方で、古着ビジネスとして、集まる古着を再販売したり、再加工して販売する動きもあるという。

 

古着の寄付には様々な問題が伴う。

そもそも、先進国での衣類の生産量は必要とされる量をはるかに上回って多く、それに対する消費者の衣類の購入の回転スピードも速いなど、衣類の余分が多いのが現状だ。実際、イギリスでは毎年約540憶米ドルが衣類の購入のために支出されているが、そのうちの30%は着用されずにタンスの肥やしとなっている。

そして着なくなった古着も様々な方法で回収されてはいるが、回収量が再利用できるレベルを上回っていたり、寄付されたものでも使えないものが多かったりなど、結局ゴミとして焼却処分されるパターンも多い。 (出所:GNV)

 

globalnewsview.org

  

 GNVによれば、「イギリスでは年間140万トンの衣類が埋め立てられている」と指摘、「このような衣類の大量生産・大量消費のサイクルは古着産業としての問題にとどまらず、環境問題にも繋がっていくのである」という。

 

  ファーストリテイリングの柳井氏も「重要なのは環境問題」という。日経ビジネスのインタビューでは、「行き着くところまで行きつつあるんじゃないでしょうか」。「環境問題に関しても、もっと発言し、実行しないといけない」と指摘する。

 つい先日、ユニクロは「RE.UNIQLO」を発表し、服から服へのリサイクルを推進するという。

 

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オンワードが考える「地球環境の保全

「この地球(ほし)を想う。この服をまとう」。

 それがオンワードのビジョンだという。今回オープンした「Onward Green Store」は、“つくった製品(服)には最後まで責任を持ち、廃棄することなく循環させることにより、地球環境に貢献していく”オフプライスストア”だと発表している。

オンワードの経営の重要課題は「地球環境の保全」。

 2009年から展開してきた<オンワード・グリーン・キャンペーン>を新店舗に常設したことは、そのあらわれなのであろうか。このキャンペーンでは、引き取った衣料品をリサイクルしてRPF(固形燃料)に再生したり、繊維製品の原料となるリサイクル糸を作り毛布や軍手を生産しているという。

 

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 毛布は日本赤十字社の協力のもと、過去12回、国内外の被災地や開発途上国へリサイクル毛布による支援活動として実施してきたという。東日本大震災被災地や中国・四川大地震被災地などへ累計37,500枚を寄贈したそうだ。軍手は、災害支援、森林保全、啓蒙活動など様々な場面で配布してきたという。

 

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 また、まだ使用できる衣料品は、環境コンセプトショップ「オンワードリユースパーク」でチャリティー価格で販売、その収益を環境・社会貢献活動に役立てるという。

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まとめ

 「コロナのため時計の針が早く回っている。みんな危機感を持っている。企業自体が生き残れないかもしれないと思っている」。

「だから今、変われないと二度と変われないんじゃないですか」と、柳井氏は日経ビジネスのインタビューで話をしていた。

  

business.nikkei.com

 

 企業は、その時代に合わせた変化が求められる、大手アパレル3社もそれぞれがそれぞれの道を選択し始めたということなのだろう。

 オフプライスは、WWD Japanが指摘した通り、「売り残り」に焦点を当てればひとつの出口戦略になるのかもしれない。その一方で、「大量の売れ残り」を現金化するしくみにすることができれば、その後の構造改革も進めやすくなったりもするのだろう。これをステップアップのための機会にできるかということなのだろう。確実な成長戦略が描けるまでは、構造改革は続くものだ。

 メディアが囃し立てるようなアパレル破綻の連鎖はあるのだろうか。

 

 

「参考文書」

www.onward-hd.co.jp