レジ袋が有料化されたり、石炭火力発電など石炭政策が変化してきた。ここ最近、エコフレンドリーな施策が目に付くようになってきた。
その火付け役である小泉環境相がたびたびメディアに登場し、その背景や経緯を語っている。
「.....なぜ(レジ袋の有料化が)始まったのですか?」と問われた小泉環境相は、杉村太蔵氏との対談で「きっかけ」と答える。
目的が違うんです。
目的は、レジ袋有料化をきっかけに、世界的な課題になっているプラスチックに問題意識を持ってもらうこと。
杉村さんも「有料化して何の意味があるんだろう?」と疑問を持たれた時点でプラスチックゴミのことを考えているとも言えますよね (出所:NEWSポストセブン)
メディアがプラごみ問題が取り上げることで、問題が深耕され、疑問を投げかけることで、学びの機会になっているのかもしれない。
バイオマスプラスチックの裏側
文春オンラインは、有料化対象外となった「バイオマスプラスチックも放置すれば「永遠のごみ」と指摘し、日本経済新聞は、「原料となるバイオマス(生物資源)の安定供給について注意しておきたい」という。
「レジ袋有料化ルール」3つの抜け道
国が定めたレジ袋有料化のルールには、三つの抜け道が用意されている。
一つは、厚さが0.05ミリメートル以上のもの。使い捨てではなく繰り返し利用できるという理由だ。
二つめは、ごみとなって海に流れ込んでも自然に分解されて消滅する「海洋生分解性プラスチック」だけでできているもの。
そしてもう一つが、バイオマス素材が重さにして25%以上含まれているものだ。 (出所:文春オンライン)
農地でバイオプラスチック用の作物を作れば食料供給を圧迫するうえ、大規模な農地開発は森林減少によるCO2放出や生物多様性の問題を招く。 (出所:日本経済新聞)
バイオマス産業がさかんなブラジルの実態
南米の農業大国ブラジルでは以前よりバイオマス利用がさかんであったと聞く。
ガソリン代替としてサトウキビを原料とするバイオエタノールなどを利用する。石油価格高騰でバイオエタノール生産に拍車がかかったようだ。
耕地が膨大でサトウキビを作付けする余地の大きなブラジルでは、サトウキビがエタノール生産の原料となった。
特に、同国では、1970年代の石油危機の時の苦い経験から、石油への依存度を下げるためガソリンに20%~25%のエタノールを混合することを義務付けている。 (出所:独立行政法人農畜産業振興機構)
生産が増えれば、当然原料となるサトウキビの増産も必要になる。
環境問題への影響として政府は、サトウキビであれば食料や環境との競合は少ないとみている。
ただ、バイオエタノール生産拡大によるサトウキビ栽培の拡大が、牧草地への大豆栽培を促し、大豆農家に牧草地を売った牧場主は更にアマゾンの奥地に牧場を求めて森林を伐採しながら移動するという、玉突き的な「森林破壊のサイクル」が生じているとの指摘がある。
とはいえ、長期的なエネルギー不足や地球温暖化が懸念されるなか、ブラジルのバイオエタノール産業は、将来的にも世界の再生エネルギー分野を先導する産業であるといえよう。 (出所:独立行政法人農畜産業振興機構)
進むブラジル アマゾンの森林破壊
ブラジル アマゾンの熱帯雨林南端のパンタナル湿原で、今年7月から発生する火災件数が、観測史上最も多いとAFPが伝える。
パンタナル湿原は、ブラジルからパラグアイ、ボリビアにまたがり、生物多様性が高いという。
環境問題専門家らは、気候変動に懐疑的なブラジルのジャイル・ボルソナロ(Jair Bolsonaro)大統領が、保護地区での農業や採掘を促進する政策を取っていることで、国の重要な天然資源を破壊していると非難している。 (出所:AFP BB NEWS)
バイオベースで作られるプラスチックスは、こうした環境破壊のリスクもあるということなのだろう。
ユーグレナ 非可食バイオマスプラスチックスの開発
サトウキビやトウモロコシなど可食成分に頼らず、非可食バイオマスからなるバイオマスプラスチックスの研究開発も進む。
ミドリムシのユーグレナ社は、環境省が推進する「脱炭素社会を支えるプラスチック等資源循環システム構築実証事業」を通して、「ミドリムシ(ユーグレナ)の培養に、古紙や食物残渣などから分解した糖化物を栄養分として使用する非可食バイオマスによる資源循環システムの構築を目指します」と公表した。
8月6日、ユーグレナ社は、「微細藻類ユーグレナ成分を配合したバイオマス含有度50%のユーグレナ・プラスチックを開発」と発表した。
研究成果のバイオマスプラスチックスを公表するが、実用化にはもう少し時間がかかるのだろうか。
汎用プラスチックの一種であるポリプロピレン(PP)とユーグレナ脂質抽出残渣を混錬し均一分散させたバイオマス含有度50%のユーグレナ・ポリプロピレン複合体(図1)を開発しました。
本研究で開発したユーグレナ・ポリプロピレン複合体の物性上の特長は、100%石油由来ポリプロピレンと比較し、曲げ試験における最大曲げ応力と曲げ弾性率の向上が見られ、強さと硬さが付与されました。開発したユーグレナ・ポリプロピレン複合体を用いて射出成型によりフォーク等のサンプルを作成し、一般的な射出成型機での成型が可能であることを確認しました(図2)。今後、食品容器や成型材料など様々な用途への展開が期待されます。 (出所:ユーグレナ)
こうしたバイオマスプラスチックスの開発を環境省が補助事業や委託事業で後押しをする。ユーグレナ社以外でも非可食バイオマス利用のプラスチックスの研究開発が進むが、商用化にはもう時間がかかりそうだ。
プラスチックスの未来
「化石燃料、化石資源を使って生み出されるプラスチックにこれだけ依存している社会のあり方を私たちは変えられるかどうか」と、小泉環境相は、NEWSポストセブンで語りかける。
さらに、「これができれば私たちの経済社会は生活の質を落とさずに、なおかつ環境には負荷が低くなる。産業としてもより持続可能になります」と述べ、「もはや、環境に取り組むことは経済や雇用の重荷ではなく、競争力の源泉です」と続ける。
杉村氏は、「それにしても、なぜ環境問題に取り組むと批判する人が出てくるのでしょうか」と訊ねる。
「これをやって意味があるんですか」ということだと思います。
地球規模で解決しないといけない課題にもかかわらず、アクションが圧倒的に小粒に見える。
だから、「それって自己満足なの?」と思われるし、「やっている感」のツッコミが入りやすい。 (出所:NEWSポストセブン)
「レジ袋有料化をきっかけに、そんな認識が広がっていくように取り組みを進めていきたいと思います。杉村さんも読者の皆さんも、一人一人ができるところから行動を始めてみませんか?」という言葉で、小泉環境相は、NEWSポストセブンでの対談を終えた。
プラスチックスが登場し、生活は圧倒的に改善された。しかし、そのプラスチックスが重荷になり始めている。
プラスチックス産業のバリューチェーン全体を作り替えることで、それが競争力の源泉となり、持続化可能な産業へと変化していく。しかも、地球環境に負荷をかけることがない。
できることなら、そうした世界の方が、今ある世界よりいいのかもしれない。
誰もが参加して、プラ消費を少し抑えることで、その実現が早まっていくことになるのだろう。
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