Into The FUTURE

未来はすべて次なる世代のためにある

日本の宇宙産業はなぜ世界に遅れたのか?—H3ロケットとSpaceXの「50億円の壁」

「宇宙へのロマン」、「はやぶさ」や「SLIM」などの無人探査成功のニュースを聞くとワクワクします。将来、日本人宇宙飛行士が月や火星表面に立つことを夢したりします。先日も、新型宇宙ステーション補給機(HTV-X)を搭載した国産主力大型ロケットの「H3」7号機の打ち上げに成功しました。

H3、打ち上げ形態拡充 商業受注拡大へ―能力最大型が成功:時事ドットコム

 多くの国民は喜びの声をあげました。メディアは日本の技術の粘り強さを紹介します。しかし、その裏側には日本の宇宙産業が直面する厳しい現実があります。日本は世界に誇れる「ものづくり」の技術力がありながら、ロケットの打ち上げコストでは世界に圧倒的な差をつけられています。世界では「10億円」で大型ロケット1基打ち上げることができるのに対し、日本のH3ロケットは「50億円」といわれています。

 なぜこんなに大きな差が生まれてしまったのか? その原因を探ることにしましょう。

 

 

輸送コストの衝撃:「50億円 vs 10億円台」の現実

H3ロケットの奮闘と限界

「H3」ロケットは、H2Aロケットからコスト半減を目指し、目標を約50億円に設定しました。これは日本の産業界にとって画期的な挑戦でした。しかし、この移行にはおよそ11年間の時間を要しました。新型エンジン「LE-9」の開発が難航したことによります。LE-9エンジンは、低コスト化と高性能化を両立させるための非常に難易度の高い設計を採用しています。特に、ターボポンプの駆動方式として採用された「エキスパンダーブリードサイクル」は、低コストで高い燃焼効率を目指す画期的なものでしたが、技術的な壁が非常に高いといわれ、技術的な挑戦の難しさでもありました。

SpaceXの「常識破壊」コスト優位性(Falcon 9)

 H3ロケットの成功で、国産インフラを維持にはなりましたが、一方で、日本の衛星の多くが、米国のSpaceX社の大型ロケット「ファルコン9」で打ち上げられているという事実があります。国際宇宙ステーションISSに宇宙飛行士を送っているあのロケットです。その打ち上げ価格は、ロケットの再使用などの工夫で、10億円台といわれています。日本の5分の1の価格です。これでは勝負にならない、これが実態になっています。

 この圧倒的なコスト差は、どこから生まれたのか? 日本が誇る「ものづくり」が敗因になっているのでしょうか?

コスト差の根源:「垂直統合」と「再使用」の哲学

なぜか?—それは単なる技術ではなく、「生産哲学とマネジメントシステム」に違いがあるようです。

SpaceXの「垂直統合」モデル

 SpaceXは、ロケット製造と打ち上げを自社で一元管理し、サプライチェーン上の「ムダ」を徹底的に排除しています。「アジャイル」、失敗から速く学ぶことで、開発コストと時間を劇的に短縮しています。TPSトヨタ生産方式をもとにし、米国で発展した「リーン生産方式」の哲学が活かされているようです。

日本の「官主導・分業」モデル

 日本では、ロケット開発が「国家プロジェクト」として始まりました。三菱重工や協力企業と分担する分業体制が定着しています。一方で、それは硬直化した開発、生産体制を生む温床になっていそうです。失敗を極度に恐れるため、試行錯誤のスピードが遅く、安全確実な「高品質・高コスト」路線から脱却できなくなっているようにも見えます。SpaceXとの決定的な差になっていそうです。

 結果として、「宇宙へのアクセス権」のコスト競争力に敗れ、海外との差が開く要因になっているようです。

 

 

まとめ

 H3ロケットの成功は技術的な快挙ですが、ビジネス・商業的な勝利ではないのが事実のようです。日本の敗因は、SpaceXが採用した「リーン生産方式」の思想を、取り入れられなかったことにありそうです。

 輸送インフラのコスト競争力喪失は、今後の日本の安全保障・経済安全保障に暗い影を落とすことになるのではないでしょうか。

 輸送インフラで出遅れた日本は、より重要性が増す「通信インフラ」の分野でも決定的な危機に直面しています。日本の通信キャリア全社が衛星通信において、海外依存する事態です。この件を含めて徹底的にに掘り下げていきたいと思います。

 

「参考文書」

搭載量、使い勝手とも向上 月探査への貢献も視野―新型補給機HTV―X:時事ドットコム

H3ロケット成功で再使用に布石 JAXAが三菱重工への移管を急ぐ理由:日経ビジネス電子版

H3ロケット7号機、26日に打ち上げへ 宇宙基地向け補給船を搭載 - 日本経済新聞