Into The FUTURE

未来はすべて次なる世代のためにある

【脱炭素と経済安全保障】実用化が近づく次世代型太陽電池「ペロブスカイト」

 

 米ラスベガスで開催されていた電子機器見本市「CES2023」に、パナソニックホールディングスが「グリーンインパクトシティ」をテーマに、関連製品や技術などを提示したそうです。

 目玉は2026 - 27年度めどに実用化を目指すペロブスカイト太陽電池。世界最高レベルのエネルギー変換効率17.9%を実現したモジュールの試作品や透過率別、グラデーションのモジュールなどを提案したといいます。

目玉は次世代太陽電池「ペロブスカイト」、パナソニックがCESで提案するモノ|ニュースイッチ by 日刊工業新聞社

 そのパナソニックのブースには、再生可能エネルギーを生み出すペロブスカイト太陽電池で構成されたコンセプトツリーが展示されたといたそうです。

 

 

発電する木、ペロブスカイト太陽電池

この太陽電池は、フィルムのように薄くて軽く、折り曲げられるのが特長といわれます。この電池を発電できる葉に見立て、コンセプトツリーは約1000枚で構成されていたそうです。葉1枚当たり約7ワットの電力を発電することができるといいます。

(写真:パナソニックグループ

東京都も実用化を目指す

 東京都も化学メーカーの積水化学工業と、フィルム型のペロブスカイト太陽電池の実用化を目指し共同研究するといいます。

フィルム型ペロブスカイト太陽電池の共同研究を東京都と開始 | 積水化学工業株式会社

 ペロブスカイト太陽電池の特徴を活かせば、ビルの壁面や耐荷重の小さい屋根、曲面といった場所を選ばずに設置でき、大掛かりな設置工事も不要になるといいます。

研究を進めるのは、ヨウ素を主原料とする「ペロブスカイト型」の太陽電池。薄さは1ミリ程度で自由に折り曲げられ、重さはシリコンを使ったパネル型の約10分の1。(出所:JIJI.com)

 

 

 都はまず下水処理場を活用した実証実験を始め、再生可能エネルギーの導入を加速させるといいます。

(画像:積水化学工業

 JIJI.comによれば、ヨウ素の世界産出量の約3割は日本国内で、パネル型では中国製品が大きなシェアを占める中、主原料を安定的に自給できるため、実用化すれば「経済安全保障」の観点からも意義は大きいといいます。

脱原発

 政府が開発を進めようとする次世代原子炉に比し、ペロブスカイト太陽電池発電効率は悪く、その発電量は微々たるもので、エネルギーを安定的に供給するには資することもないのかもしれません。

 しかし、塵も積もれば山となることもあるのではないでしょうか。

 巨費を投じて開発する必要もなく、莫大な建設費も必要なくなるのもかもしれません。

 ムダ使いばかりでとかく財源確保に困る昨今を思えば、当座はこうした技術で代用するのもありではないのでしょうか。まして政府が説く「経済安全保障」にも貢献しそうです。

 倹約しようという精神もなく、浪費癖のついた政府にはこうした技術の有用性を理解することはないのかもしれません。

 

「参考文書」

ウクライナ新興企業、CESで注目…停電頻発時に役立つ太陽光パネルなど開発 : 読売新聞オンライン

「薄くて曲がる」太陽電池研究 再エネ拡大、実用化目指す―東京都:時事ドットコム

ペロブスカイト太陽電池 共同研究の開始|東京都

 

【成長しない国、日本】特効薬はイノベーションだけなのか

 

 正月休暇が明け、新たな年が動き出しました。首相が年頭会見を行い、企業に国内投資を促し、競争力強化に取り組む方針も示したそうです。

 半導体人工知能、バイオ技術、クリーンエネルギーなどの戦略産業を挙げ、「強固な官民連携を打ち立て、国内で大胆に投資を進めていく」と語ったといいます。

 他方、伊藤忠商事の岡藤CEOは、日本の株価が伸び悩んでいる背景からすると、いつまでも変わらない「ものづくり至上主義」があるといいます。

伊藤忠・岡藤会長「天才より凡人経営で、最悪に備え重心を低く」:日経ビジネス電子版

 米国の株価指数「S&P500」を構成する企業の時価総額の合計はこの10年で3倍になり、GAFAMの5社が米国の株価全体を押し上げたと指摘、日本は、GAFAMのような企業を生み出せていないことが問題といいます。

 

 

 首相の選んだ4つの戦略産業で、日本の競争力が高まることはあるのでしょうか。

あるメーカーの経営者が、「いい素材さえ抑えておけば、素材を使う商品が変わっても売れ続ける」とおっしゃっていましたが、海外勢は日本の部品や素材を集めてきて、デザインとブランドでもって製品やサービスを生み出し、利益を得ています。日本は安く買いたたかれる部品や素材を作っているわけです。(出所:日経ビジネス

「川下の最終製品に価値を加えるために、日本の頭脳と技術が利用されているが、日本企業は残念ながら「技術は一流、商売は二流」。縁の下の力持ちのままでは、伸び悩んだままと岡藤氏はいいます。

求められているのイノベーションなのか

 グローバル化の名の下、日本などの先進国と新興国の格差は縮小し、貧困が減少しているといわれます。ここ10~20年の間で科学は進歩し、遺伝子工学やAI人工知能などは飛躍的な発展を遂げています。

 しかし、日本はこうした世界的な動きから取り残されてはいないでしょうか。極端に悪くなっているということはないのかもしれませんが、徐々に他の先進国との差が開き、一方で途上国との差が縮んでいるいそうです。こうした現実からして、これまで同じアプローチではじり貧であることは間違いなそうです。

 こうした現状に効く薬は、やはりイノベーションなのでしょうか。

 

 

企業は将来のために人と設備に投資をしなければ、米国や中国のように伸びることはできません。

日本経済が活力を取り戻すには、企業と従業員が成長への執念のようなものを持たなければなりません。(出所:日経ビジネス

 アマゾンはEC業界にあって、倉庫や物流のムダを徹底的に省き生産性を向上させ、もっとも効率的でスピーディな配送のしくみを作り、ライバルを圧倒し、確固たる地位を築きました。

 それを支えたのは、トヨタ自動車のものづくりの仕組みを研究した「リーン生産システム」です。

 もしアマゾンが自分たちの商売を小売業に決めつけていたなら、製造業の知見を取り入れることはなかったのかもしれません。こうした大胆な発想があってこそ、人と企業は成長するのでしょう。

 

 

 人がその知識を学びその知見を活用し、それを活かすために企業が投資すれば、そこから成長が始まるのではないでしょうか。

ひらめきは学びから、それがイノベーションの素

「楽してお金をもうけようという風潮はいかん」と伊藤忠 岡藤CEOはいいます。また「本来、人間は懸命に働いてもうけるべきでしょう」ともいいます。

 それはモーレツに働くということを意味するのではないのでしょう。より効果的に、効率的に働くというではないでしょうか。そのために、「学び」があるのかもしれません。

 画期的なアイデアやひらめきがある日突然ひらめくことはないのでしょう。学び得た知見を活かそうときに浮かんでくるものではないでしょうか。それは思考しているときであったり、読書中に突如して現れたりするのでしょう。

 

 

「参考文書」

イーロン・マスクやビル・ゲイツは「読書の鬼」、知識の幅を武器にした天才たち | 日経クロステック(xTECH)

岸田首相、インフレ率超える賃上げを-「異次元」の少子化対策も - Bloomberg

 

【停滞する日本】SF思考、失われた時間を埋め合わせる想像力が求められている

 

 日本が世界から置いていかれようになって思えてなりません。その根底には発想力の乏しさがあるのではないかとの意見もあるようです。

 そうした背景もあってのことでしょうか、「SF思考」に注目があつまっているようです。

 昨年12月に「イノベーションを創造する─SF思考で学ぶ発想力─」とのビジネス講演会が催され、SF作家でITコンサルタントの樋口恭介さんが登壇したそうです。

「人間の脳はフィクションを求める」 発想力が足りないから世界に負ける――“SF思考”が日本再興の鍵に?:SFプロトタイピングを語る(1/2 ページ) - ITmedia NEWS

「SF思考」とは、SF サイエンス・フィクションの持つさまざまな力を活用して、産業の活性化やイノベーション創出を目指す考え方といいます。

 

 

 OODAループで「仮説」を立てるときに、この手法を取り入れてもいいのかもしれません。

 データ重視であるべきなのでしょうが、それだけに頼ると、あたり前の発想になってしまうこともあるのかもしれません。

 また、その仮説を実行するにあたっては、周囲を説得しなければならず、データ重視でつまらない内容にまとめるのなら、そこに少しSFの持つフィクション性を取り入れることで面白い内容になったり、説得力が増すことがありそうです。

人間はフィクションを作るものだし、フィクションによって現実の外を考えるものです。

それなのに、そこが抑圧され、与えられた役割の枠組みから動けなくなってしまっている。それが社会的にも企業組織にも良いことだとされてしまう。でもそのままではいけないんです。(出所: ITmedia NEWS)

 人間が想像し得るものは何でも実現できるという人もいます。有史以来人間が様々な発見、発明をしてきた事実からすれば間違いことなのかもしれません。

 遠く離れた太陽の大きさや重さを正確に知ることができるようになったのも人に想像力があったからなのでしょう。遠い昔であれば、まさか月に人類が到達することなども夢にも考えなかったのでしょう。

 しかし、それもそれまでに進歩を続けてきたことで、それをさらに飛躍させる想像力があったからこそ成し得た偉業なのでしょう。

 想像が創造に変わるとき進歩があるのでしょう。

「想像」とは、実際には経験していない事柄などを推し量ることであり、また、現実には存在しない事柄を心の中に思い描くこととされます。想像する当の本人にとっては、遠くない未来に実現できるフィクションではないでしょうか。

 

 

 数多くの企業が実際に「SF思考」や「SFプロトタイピング」を活用、研究を始めているようです。

ヒトとロボットの“柔らかな”関係をつくりたい。SFプロトタイピングから見えた、ブリヂストン・新規事業の向かうべき先とは?

SF小説から未来の時間をヨム|Sci-Fi Diving|パナソニック株式会社デザイン本部 未来創造研究所

 30年も時間が経過すれば、これらが現実化することはあるのでしょうか。

 

 

 30年以上前に吉田拓郎さんが「30年前のフィクション」という歌を歌っていました。

 1960年代、電話はまだ固定電話でときに混線があったりしたといいますが、それが1990年にはFAXでやり取りするようになったとのフレーズがあります。60年代からすれば90年代はまるでSFの街というのもわかります。

30年前のフィクション-歌詞-吉田拓郎-KKBOX

 インターネットが当たり前になったとはいえ、未だFAXが活躍しているのが現代です。そう意味ではこの30年の進歩は少しばかりスローだったのかもしれません。

 それともこれは日本に限った話なのでしょうか。想像力をたくましくしていかねばならないのでしょう。

 

「参考文書」

“SF思考”のビジネス活用広がる 事例が続々 22年の「SFプロトタイピング」まとめと展望:「SFプロトタイピング」で“未来のイノベーション”を起こせ!(2/2 ページ) - ITmedia NEWS

 

【米中覇権争い】半導体規制、中国に流出していく半導体技術者たち

 

 米国が中国の半導体関連企業への規制を強化しています。

 BIS 米国商務省産業安全保障局が、中国半導体メーカーのYMTC 長江存儲科技など中国と日本に拠点を置く中国の36の事業体を輸出管理規則上のEL エンティティー・リスト(取引制限リスト)に追加したと発表しました。日本拠点はYMTCの日本法人で、他はの在中国の企業になっているそうです。

米商務省、中国のAI半導体関連企業などを輸出管理対象に追加(中国、日本、米国) | ビジネス短信 ―ジェトロの海外ニュース - ジェトロ

 その理由は主に、中国軍の現代化への支援によるものとされ、その阻止が狙いと祝われます。

「EL エンティティー・リスト」とは、米国政府が「米国の国家安全保障または外交政策上の利益に反する行為に携わっている、またはその恐れがある」と判断した団体や個人を掲載したリストで、それらに米国製品(物品、ソフトウエア、技術)を輸出・再輸出・みなし輸出などを行う場合には、BISの事前許可が必要となるといいます。

 

 

米中の覇権争いと半導体

 米国は中国の台頭を恐れ、AI 人工知能や5Gで米国を凌ぐようになれば、国家安全保障の脅威になるとみているようです。

 中国の軍事力強化を阻止するには、両技術に欠かせない先端半導体の製造できなくする必要があり、またそれがパワーバランスの変更の抑止につなげる狙いもあるといいます。

米国が中国の先端半導体導入を徹底阻止、背景に軍事的パワーバランス | 日経クロステック(xTECH)

 記事によれば、YMTCについては、NAND型フラッシュメモリーを手掛けており、コストが優位性が高く、品質も優れることから、米アップルの中国市場向けiPhoneでの採用が進んでいたそうです。しかし、米連邦議員が米国の安全保障にもたらすリスクを分析・検証するよう求めるなどの動きもあり、採用凍結になったといいます。

 民生品への影響もさけられないということなのでしょうか。

 きな臭いことは好ましいことではありませんが、これもまた現実なのでしょう。状況が好転するまで米国は規制を強め、中国はそれに対抗しようとするのでしょう。

中国半導体メーカに転職する技術者たち

 日本人半導体技術者の中国企業への転職が相次いでいるといいます。特に、パワー半導体業界で顕著のようです。

 役職定年や定年が見えてきた50代以降のベテラン技術者が、多額の給与と豊富な研究開発資金などから転職する例が後を絶たないそうです。

パワー半導体産業の強化を急げ、このままではロジックの二の舞い | 日経クロステック(xTECH)

パワー半導体やパワー半導体関連の材料などを研究する日本の大学に留学した中国人留学生も、卒業後、中国企業に次々と就職するという。「かつては日本企業に就職する場合がほとんどだった。だが、報酬の面や福利厚生、仕事の裁量などの面で中国企業は日本企業を上回るので、彼らが中国企業に就職するのは仕方ないと思う」と、ある大学教授は肩を落とす。(出所:日経クロステック)

 

 

 一方で、パワー半導体でも中国企業の台頭が顕著で、ELに記載されている華為技術(ファーウェイ)も、パワー半導体分野の研究開発に力を注いでいるといいます。また、中国ではこうしたパワー半導体に、多額の公的な予算も付いているといいます。

敵に塩を送りながら、増税して防衛費増額する矛盾

 他方、政府は、防衛力の抜本的な強化のため防衛3文書を閣議決定し、増税してまで大幅に防衛費を増額する方針だといいます。戦後の安保政策の転換につながる歴史的な決定で、その背景には、同盟国の能力向上を急ぐ米国の「変心」があるそうです。

防衛力強化促した米国の変心 「統合抑止」で反撃能力容認: 日本経済新聞

防衛費の大幅な増額は「対米公約」(出所:日本経済新聞

 バイデン米大統領は、こうした日本の動きを「平和と繁栄への日本の貢献を歓迎する」と称賛したといいます。

 遠く離れ中国と国境を接する国にそう求めるのは筋なことなのかもしれません。しかし、それに従って猛進するようでは損な役回りではないでしょうか。

 

 

 敵に塩を送りながら、米国にいい顔するのはどうなのでしょうか。

 それとも戦国武将上杉謙信気取りで「長期的な利や理」を求めているつもりなのでしょうか。

 それでいて国民負担を求めるようでは矛盾があるのでしょう。思考が停止しているのかもしれません。課題と優先順位が整理されていないのでしょう。これではいつまでも日本が復活することはあり得ません。

 

世界が感動に満ちることはあるのか、ソニーがR&D再編、研究テーマを刷新

 

 閉塞感あふれる社会になっているような気がします。「こうあらなければならない」だけでは息苦しくなるだけです。もう少し文化的要素が加えて、潤ったものにできないのでしょうか。

 ソニーグループは「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす」というパーパス(存在意義)を掲げています。また、R&Dは「我々の文明を進歩させ、惑星を持続可能にする」というミッションを掲げます。

 そのソニーグループが、R&D 研究開発の体制を大幅に再編すると発表し、AIとデータドリブンカンパニーとして変革していくといいます。

 

 

 感動が生まれる場所がバーチャルへと拡張し、「フィジカルとバーチャルがシームレスにつながる」、それが今後のR&Dのテーマになるようです。

 社内技術交換会「Sony Technology Exchange Fair(STEF)」を開催し、その内容説明があったそうです。

ソニーグループポータル | ニュースリリース | 「Sony Technology Exchange Fair(STEF)2022」と研究開発方針説明会を開催

 センシング、AI、仮想空間の3領域が、中核となり、現実空間のセンシング、仮想空間の構築、そしてその2つから学習し、それぞれにフィードバックするAIの3領域の連携を目指すそうです。また、この3領域の進化と連携を加速させるため、大規模AIモデルの開発にも着手するといいます。

(資料:ソニーグループ)

現実世界のセンシングによって獲得したデータをAIが学習し、現実世界での画像・音声認識の精度を高めるループを強化する。同時に大規模なデータやAIによって、仮想空間やコンテンツを生成することが可能になり、そこから新しいデータが生まれてAIにフィードバックされ、現実世界のAIを強化するループが生まれる。こうした大規模AIを中心としたループをベースに、現実空間と仮想空間での事業価値の最大化を目指す。(出所:日経クロステック

 仮想空間がこれからの成長分野になるのかもしれませんが、浮世離れするのではなく、また、これまでのようにビジネスの色彩が強くするのではないのなら、新たな感動が生まれるのかもしれません。未だに企業も個人も利益ばかりを追求し過ぎていないでしょうか。真の意味での豊かさをもっと生活のあちらこちらで感じるようにすべきのような気がします。

 

 

 仮想空間のゲームを手掛ける米ソニー・インタラクティブエンタテインメントが、現実空間のエンターテインメント分野に参入しようとしているそうです。

ソニーG、次世代エンタメ創出は2足歩行ロボットで | 日経クロステック(xTECH)

 小型ロボットから始めるようです。機敏な動きを武器に、次世代のエンタメを創出するといいます。

 中世ヨーロッパでは、多様性を失った抑圧された社会の中からルネッサンスが興り、芸術や文化が復興しました。

 現代はあまりにも利便性や効率性を追求し過ぎることにより、文化的な要素が欠落し、真から感動することを忘れてしまっているのかもしれません。そんなことを強く感じる2022年だったような気がします。

 

「参考文書」

ソニーが「AIありき」の開発体制・再編に向かうワケ…ソニーG 北野CTOインタビュー | Business Insider Japan

ソニーGが研究開発体制を大幅刷新、中核は「センシング」「AI」「仮想空間」 | 日経クロステック(xTECH)

 

国のスタートアップ育成計画に数値目標は必要なのだろうか

 

 政府による「スタートアップ育成5か年計画」が11月末の「新しい資本主義実現会議」で決定されたそうです。この計画に1兆円の予算が計上され、支援が強化されるといいます。

 この5か年計画で、2027年度にスタートアップへの投資額10倍超の10兆円、ユニコーン100社、スタートアップ10万社創出、シリコンバレーなど海外への派遣人数1,000人などの数値目標を政府が掲げているといいます。

岸田政権のスタートアップ立国戦略に欠けているもの:日経ビジネス電子版

 スタートアップを活気づかせるために政府が数値目標を掲げることにはどうにも疑問を感じます。それより求められていることは、新しい技術が生み出され、生産性向上の原動力となり、日本経済を活性化させ、可能であればそれが新しい産業となって、それが新たな成長の起点となればいいのではないでしょうか。また、あわよくば日本発のイノベーションの創出にもつながって欲しいということなのでしょう。

 

 

「スタートアップ育成5か年計画(案)」には次のように記されています。

次世代の産業の核となりうる新産業分野のディープテックについては、重点分野等を明確化していくこととする。また、農業や医療などのディープテックの個別分野に特化した起業家教育・スタートアップ創出支援に関する取組みの強化を図る。(出所:スタートアップ育成5か年計画(案)

 政府が重点分野を指定することは、そこにおいては政府支援に資金のもとで活性化させることはできるのでしょうが、それでは官製の新技術開発に過ぎず、それが果たして「真の創造」に繋がるのかには疑問があります。

 新しい技術とは、その時々の環境と社会課題が相まって、志を高く掲げた人によって、生み出されるのものではないでしょうか。過去の事例を学べば、そのことは明らかです。

 政府が示す重要分野がまったくの的外れということはないのでしょうけれども、スタートアップを育成するにあたっては、何よりも安心して挑戦でき、偏見がなく資金調達ができる環境を整えるべきなのでしょう。

公的支援を行った事実は、支援を受けたスタートアップへの認証効果(お墨付き)の役割を果たし、さらなる民間投資を喚起するとされる。(出所:スタートアップ育成5か年計画(案)

 慧眼、鋭い眼力に欠ける投資家たちは、政府の意見に左右され、それがあたかもこれからの成長産業になると確信するのではないでしょうか。それが正しいということは何をもって証明できるのでしょうか。確かな目を自ら養わない限り、何が新たな産業に育つかは判断できないはずです。何がなんでも国の判断が正しいとは限らないのでしょう。

 

 

「スタートアップ育成5か年計画」においては、以下の3つが取り組みの大きな柱となっています。
① スタートアップ創出に向けた人材・ネットワークの構築

② スタートアップのための資金供給の強化と出口戦略の多様化

③ オープンイノベーションの推進

 これはこれでいいことなのかもしれませんが、国の役割は規制緩和と規制によって、これらを実現へと導くべきなような気がします。

 国がこうした施策を発表すると、目ざとい輩たちは、こうしたものを新たな金のなる木にしようとするようです。

これらの政策が進むにともなっては、周辺領域で新たなビジネスチャンスが生まれることも期待されます。(出所:Forbes)

 育てるべきスタートアップに吸い付こうとしているように見えます。それで育成することにつながるのでしょうか。そうならなければ、本末転倒になってしまいます。

 国が過剰に資金を投じることの弊害に思えてなりません。

 

 

 居食屋「和民」が急成長を遂げる前のこと、「君は3店舗の器だから」と、渡辺社長ががある銀行から冷たく融資を断られた経験談を語っていいます。

「君は3店舗の器だから」銀行員に言われたこと ワタミの社長:「伴走者」は大事に(1/2 ページ) - ITmedia ビジネスオンライン

悔しくて銀行を出た交差点の信号の色が、涙でにじんだことを覚えている。

「器」という抽象的な言葉で、人の夢を否定するものではない。(出所:ITmediaビジネスオンライン)

 その後、ワタミのメインバンクとなる横浜銀行の新宿支店長が、「君の夢に賭けるよ」と融資をしたことで急拡大したといいます。銀行行員の目が確かであるということはないのでしょう。

 渡辺社長はこれまでの雇用と納税など、ワタミの社会貢献を力説します。

 鋭い眼力をもって支援がなされてきているのであれば、もっと早く日本経済は元気になったのかもしれません。この点の改善がなければ、お金を浪費しかねないのでしょう。

 

「参考文書」

スタートアップ育成5か年計画と資産所得倍増プラン:新しい資本主義の各施策の一体化に期待 | 2022年 | 木内登英のGlobal Economy & Policy Insight | 野村総合研究所(NRI)

 

【経済安全保証】高まる中国脅威論、増税してまで防衛力を強化するのがよいのでしょうか

 

 国家安全保障戦略に関し、政府が月内に改定し、中国の軍事動向などを「最大の戦略的な挑戦だ」と明記する方針といいます。

中国は「最大の戦略的挑戦」 国家安保戦略で政府調整:時事ドットコム

 記事によれば、2013年策定の現行の安保戦略では、中国の動向について「わが国を含む国際社会の懸念事項として慎重に注視する」と記述だったといいますが、今回の政府案は、中国に対する警戒をより強めた表現になっているそうです。

 もうまともに競い合っても勝てる相手ではなくなってはいないでしょうか。それでも、中国が脅威と煽って危機といい、増税が伴う防衛費増額の根拠にしたいのでしょうか。

 

 

 その中国では、ゼロコロナ政策を巡って若年層のデモが活発化、社会が混乱し、また、その政策による厳しい移動制限が経済活動を阻害し、内需を下押ししているといわれます。

中国ゼロコロナ緩和、経済減速に焦り 感染増で修正も: 日本経済新聞

 ついに中国政府はゼロコロナ政策を緩和することになりました。

 消費動向を映す小売売上高の11月の市場予測ではマイナス幅が4%近くに拡大することが見込まれているといいます。雇用の悪化で所得不安が強まり、節約志向が広がれば、外食などサービス業への打撃も大きいそうです。また、高止まりする若年失業率への警戒感もうかがえるといいます。

 中国の弱点ということなのでしょうか。国民を厳しい監視下におくことは厭わないのに、経済の停滞などによって国民の不満が高まることに強く警戒しているようです。

 日中の有識者らが参加して両国関係の課題を議論する「東京―北京フォーラム」が開かれていたといいます。

 参加した垂秀夫駐中国大使は、中国公船による領海侵入などを例に、「こうした行為が続けば、(日本の中国に対する)国民感情は容易に改善しない」と指摘した一方で、両国の関係改善に向け「あらゆるレベルで意思疎通を積み重ねる」ことの重要性を訴えたといいます。

駐中国大使「あらゆる意思疎通を」 日中有識者フォーラム閉幕:時事ドットコム

 中国の孔鉉佑駐日大使は「互いに協力パートナーであり、一部の人が唱える中国脅威論に対しては重大な懸念を表明したい。冷静に中国を見つめ、両国の共通認識を行動に移すことを願う」と話したといいます。

 政府が中国を警戒することは理解できない訳ではありませんが、中国大使が言うように冷静に今の中国を知るべきではないでしょうか。SWOT分析ではないですが、脅威と機会を知って抜け目なく賢く、時にずる賢い対応が求められるのでしょう。垂大使が述べた通り、まずは首脳間の頻繁な意思疎通による政治的相互信頼の基盤を固めるところから始めるべきなのでしょう。

 

 

 フォーラム閉幕では、日中が共同で世界やアジアの平和構築に努めていくとする「平和協力宣言」を発表したといいます。

 日中双方とも経済依存度が高く、関係をこじらしてしまえば、どちらもその悪影響を被ることになります。日本にとっては中国における反日感情が高まれば、インバウンド需要に大きく影響を及ぼし、また物流が滞るようになれば、経済活動への影響も避けられません。それはコロナ渦でより明らかになったことではないでしょうか。

 中国においても同様なのでしょう。ロシアのように中国が国際社会から孤立するようになれば、経済への影響は甚大で、それによって国民感情が暴発することを中国はひどく警戒するのではないでしょうか。

 

 

「コロナ規制の緩和で経済活動が正常化すれば、内需の回復に伴って中国の輸入も持ち直し、世界経済にプラスとなる可能性はある」と日本経済新聞はいいます。

 中国を念頭に経済安全保障を十分考慮する必要はあるのでしょうが、生かさず殺さずちょうどよい頃合いでつき合っていくのが肝要なように思われます。刺激することは慎むべきではなのでしょう。ましてそのために増税にするようになれば、論理も何もない、とんでもない話なってしまいます。