政府による「スタートアップ育成5か年計画」が11月末の「新しい資本主義実現会議」で決定されたそうです。この計画に1兆円の予算が計上され、支援が強化されるといいます。
この5か年計画で、2027年度にスタートアップへの投資額10倍超の10兆円、ユニコーン100社、スタートアップ10万社創出、シリコンバレーなど海外への派遣人数1,000人などの数値目標を政府が掲げているといいます。
岸田政権のスタートアップ立国戦略に欠けているもの:日経ビジネス電子版
スタートアップを活気づかせるために政府が数値目標を掲げることにはどうにも疑問を感じます。それより求められていることは、新しい技術が生み出され、生産性向上の原動力となり、日本経済を活性化させ、可能であればそれが新しい産業となって、それが新たな成長の起点となればいいのではないでしょうか。また、あわよくば日本発のイノベーションの創出にもつながって欲しいということなのでしょう。
「スタートアップ育成5か年計画(案)」には次のように記されています。
次世代の産業の核となりうる新産業分野のディープテックについては、重点分野等を明確化していくこととする。また、農業や医療などのディープテックの個別分野に特化した起業家教育・スタートアップ創出支援に関する取組みの強化を図る。(出所:スタートアップ育成5か年計画(案))
政府が重点分野を指定することは、そこにおいては政府支援に資金のもとで活性化させることはできるのでしょうが、それでは官製の新技術開発に過ぎず、それが果たして「真の創造」に繋がるのかには疑問があります。
新しい技術とは、その時々の環境と社会課題が相まって、志を高く掲げた人によって、生み出されるのものではないでしょうか。過去の事例を学べば、そのことは明らかです。
政府が示す重要分野がまったくの的外れということはないのでしょうけれども、スタートアップを育成するにあたっては、何よりも安心して挑戦でき、偏見がなく資金調達ができる環境を整えるべきなのでしょう。
公的支援を行った事実は、支援を受けたスタートアップへの認証効果(お墨付き)の役割を果たし、さらなる民間投資を喚起するとされる。(出所:スタートアップ育成5か年計画(案))
慧眼、鋭い眼力に欠ける投資家たちは、政府の意見に左右され、それがあたかもこれからの成長産業になると確信するのではないでしょうか。それが正しいということは何をもって証明できるのでしょうか。確かな目を自ら養わない限り、何が新たな産業に育つかは判断できないはずです。何がなんでも国の判断が正しいとは限らないのでしょう。
「スタートアップ育成5か年計画」においては、以下の3つが取り組みの大きな柱となっています。
① スタートアップ創出に向けた人材・ネットワークの構築
② スタートアップのための資金供給の強化と出口戦略の多様化
③ オープンイノベーションの推進
これはこれでいいことなのかもしれませんが、国の役割は規制緩和と規制によって、これらを実現へと導くべきなような気がします。
国がこうした施策を発表すると、目ざとい輩たちは、こうしたものを新たな金のなる木にしようとするようです。
これらの政策が進むにともなっては、周辺領域で新たなビジネスチャンスが生まれることも期待されます。(出所:Forbes)
育てるべきスタートアップに吸い付こうとしているように見えます。それで育成することにつながるのでしょうか。そうならなければ、本末転倒になってしまいます。
国が過剰に資金を投じることの弊害に思えてなりません。
居食屋「和民」が急成長を遂げる前のこと、「君は3店舗の器だから」と、渡辺社長ががある銀行から冷たく融資を断られた経験談を語っていいます。
「君は3店舗の器だから」銀行員に言われたこと ワタミの社長:「伴走者」は大事に(1/2 ページ) - ITmedia ビジネスオンライン
悔しくて銀行を出た交差点の信号の色が、涙でにじんだことを覚えている。
「器」という抽象的な言葉で、人の夢を否定するものではない。(出所:ITmediaビジネスオンライン)
その後、ワタミのメインバンクとなる横浜銀行の新宿支店長が、「君の夢に賭けるよ」と融資をしたことで急拡大したといいます。銀行行員の目が確かであるということはないのでしょう。
渡辺社長はこれまでの雇用と納税など、ワタミの社会貢献を力説します。
鋭い眼力をもって支援がなされてきているのであれば、もっと早く日本経済は元気になったのかもしれません。この点の改善がなければ、お金を浪費しかねないのでしょう。
「参考文書」