Into The FUTURE

未来はすべて次なる世代のためにある

イプシロンS燃焼試験で再び爆発事故、日本の宇宙・防衛産業が成長産業という疑問

 JAXA 宇宙航空研究開発機構が開発中の小型固体燃料ロケット「イプシロンS」の開発試験で爆発事故が発生しました。秋田県能代市で昨年実施した試験での事故に続き、同種の失敗が繰り返されたようです。能代市の実験場が事故で使用できなくなったため、今回は種子島宇宙センターで試験が行われたそうです。この事故で種子島の施設も失うことになり、「イプシロンS」の開発の遅れは避けられないといいます。両施設とも復旧には数か月かかるそうです。

「安全保障にも関係する宇宙開発体制の強化」、政府にとって重要な政策といわれています。そんな中での致命的な事故、汚点になったのではないでしょうか。問題の真因を特定し、抜本的な見直しが迫られていそうです。

 

 

正しく原因が究明されていなかった
2回目となる2段目エンジンの燃焼試験は26日午前8時半に始まった。JAXAによると、燃焼開始20秒後から予想していた燃焼圧力を上回りはじめ、49秒時点で爆発したという。予想していた数値を上回り爆発した現象は、前回の爆発時と同じだという。また、記録されていた燃焼圧力は、モーターケースの耐圧圧力を下回っていたが、爆発した。これも前回と同じ現象だという。(出所:日経ビジネス

小型ロケット「イプシロンS」爆発に人手不足の影 15万人足りない宇宙人材:日経ビジネス電子版

 技術蓄積が浅い新興企業ならともかく、経験豊かな歴史ある企業が、なぜこのような致命的なミスを犯してしまったのでしょうか。

人手不足

 政府の宇宙基本計画では、国内市場規模を20年の4兆円から30年代に8兆円へと倍増させることを掲げているそうです。今年の宇宙関連予算は6000億円を超え、この10年間で2倍以上に拡大させてきたといいます。一方で、人員不足が課題となっているようで、天文観測衛星「ジャスミン」の打ち上げ時期を遅らせる事態にもなっているそうです。JAXAの職員数が減るだけではなく、関連する国内メーカの人員も同様の傾向といいます。

 

 

 JAXAが先に公表した「マネジメント改革検討委員会報告書」によれば、22年のイプシロン6号機、23年のH3初号機と2つの打ち上げ失敗の根本要因に人員不足を挙げ、「役割と事業の拡大にふさわしい人材強化をしてこなかった」との記載があるそうです。

 繰り返される事故、慢性的な人手不足、無謀なマネジメントが事故の原因になっているということなのでしょうか。専門家は「日本は研究者や開発者が多すぎる」との問題点を指摘し、宇宙開発を進めるためには研究者だけでなく、実際に現場で働き、研究者とのパイプ役になる技術者が必要と指摘しています。

成長産業への期待

 政府は宇宙や防衛関連を成長産業にすることを望んでいるのでしょうか。国産を重視し、巨額の政府予算をつければそれも叶うのかもしれません。

 実際、防衛関連企業の売上高は増加しています。防衛関連産業を担う重工業大手3社 三菱重工業川崎重工業IHIの防衛関連事業の売上高は、2025年3月期に前期から25%増加する見通しといいます。防衛産業は、年平均4~5%の成長率が見込まれているそうです。

 

 

 爆発事故を起こしたイプシロンSの開発などに関わっているのは、IHI傘下のIHIエアロスペース。政府の支援を受けて事業強化を図るのも悪いことではないのでしょうが、一方で、それに見合うリソースを含め事業環境を適正に整えることができなければ、事業を担う資格があるのかとの疑問も生じます。

 功を焦って失敗する。問題を見誤っては効果的な対策を打てずにまた失敗する。今回の失敗を受けて一時、IHI株が売られたそうです。

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 政府が掲げる宇宙や防衛の計画があまりにも現状からかけ離れた妄想になっていないかと心配になります。そこに巨額の税金が投入されては単なる無駄遣い、生産性が極めて低い政策で、許容できるものでありません。

 実現できるものでなければ、解決できない問題を生み出してしまいます。それが明らかになっていそうです。政策マネジメントに疑問符がついたのではないでしょうか。

 

 

「参考文書」

小型ロケット「イプシロンS」燃焼試験で爆発 火災発生 去年に続き2回目 JAXA状況調べる 種子島宇宙センター | NHK | 宇宙

次世代小型ロケット「イプシロンS」試験で爆発 JAXA - 日本経済新聞

IHIの株価急落 「イプシロンS」試験で火災 - 日本経済新聞

政府、防衛産業戦略策定へ 基盤強化、装備輸出推進 | 共同通信

三菱重の4━9月期営業益86.7%増、防衛・宇宙など寄与 通期は維持 | ロイター

三菱重工の純利益17%増 4〜9月、防衛・原発で成長続く - 日本経済新聞

重工3社、防衛25%増収 今期、政府予算拡大で 傷んだ供給網の再生急務 - 日本経済新聞

三菱重工など防衛関連株が下落、イスラエルとヒズボラに停戦観測|会社四季報オンライン

 


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【中国】宇宙強国とものづくり、世界初、月の裏側でサンプル採取し帰還

 宇宙においても米中の競争が激しくなっています。月の裏側 南極に近い「南極エイトケン盆地」に着陸した中国の無人探査機「嫦娥6号」が、試料1935.3gを持ち帰ってきました。世界初の快挙といいます。

 中国は今後、試料の分析を本格化させるそうです。試料の分析で、月の起源や太陽系初期の歴史の解明を進めたい考えで、基礎科学分野でも中国の存在感がさらに高まることになるといいます。

 

 

 中国は「宇宙強国」の建設を掲げているそうです。今後、2026年に「嫦娥7号」、28年に「嫦娥8号」を打ち上げ、30年までに有人月面探査を成功させ、希少資源の水が豊富に存在しているとされる南極付近に研究基地を建設するとの目標を掲げているといいます。

 このほかにも、無人探査機「天問」シリーズを打ち上げ、25年前後に2号で地球近くの小惑星から、30年前後には33号で火星から、それぞれ試料を持ち帰る計画といいます。また、4号は木星探査も予定しているそうです。

 H3の打ち上げに成功し、今年1月には「SLIM」がピンポイント着陸に成功しましたが、中国との力の差が拡大しているようにも感じます。

宇宙技術・装置開発

「アルテミス計画」、米国が主導するプロジェクトに日本も参加しています。このプロジェクトの目的地もまた月の南極といいます。水の存在を示す決定的な証拠をいち早くつかみ、26年までに有人探査を始めたい考えといいます。

スペースウォーズ1 シリーズ:解剖 経済安保:日本経済新聞

月の持続的な開発には人員や機材を送り込むためのロケット、安全に着陸できる宇宙船、地球や月面とデータをやりとりする情報通信、高精度な観測・測位を可能にする人工衛星、月面の生活に必要なエネルギー生成など、様々な先端技術が必要となる。(出所:日本経済新聞

 中国に先んじて宇宙技術の開発が必要になるといいます。また宇宙関連技術は将来、民間分野にも活用されるようになり、国際競争を勝ち抜く基盤となるそうです。さて日本の技術開発のポジションは今どのあたりにあるのでしょうか。

 

 

日本企業は高度経済成長期やバブル期など過去の成功体験に縛られ、未来に対応できていません。日本はものづくりに強みがあるのだという「ものづくり幻想」から、いまだ脱却できていないのです。(出所:東洋経済オンライン)

池上彰が警告「時代に乗り遅れた」日本企業の末路 2040年世界時価総額トップ50に日本は入れるか | リーダーシップ・教養・資格・スキル | 東洋経済オンライン

 「ものづくり幻想」から脱却せよと池上彰氏はいいます。中国は「世界の工場」と化し、今ではハイテク、クリーンテックなどありとあらゆる製品で世界を飲み込もうとし、価格、品質で太刀打ちできなくなりつつあるように感じます。

「ものづくり」から脱却してしまったよいのでしょうか。宇宙技術の開発も、その後の装置生産が必要ですし、それこそ「ものづくり」です。

「ハードからソフト」、ものづくりからコンテンツと池上さんはいいますが、いまさらとの感が否めません。ITバブル旺盛のころならいざ知れず、AIバブルの今、GAFAMを含め、半導体や端末機器を開発、生産・販売しています。池上さんご指摘のソニーもまた同様です。もちろんコンテンツ関連に力は入れていますが。

 

 

 西側諸国でのものづくりが衰退する反面、中国があらゆる分野で力をつけ、凌駕しています。その中国とウィンウィンの関係で互いの発展を約束できればいいのでしょうが、熾烈な競争し合う間柄になり、日に日に分断の恐れが高まってきています。いち早くサプライチェーンバリューチェーンを再構築して闘いに備えなければならないのではないでしょうか。

 

「参考文書」

月の裏側から試料1935・3g持ち帰る…中国の無人探査機「嫦娥6号」 : 読売新聞

中国の無人探査機「嫦娥6号」が帰還 月の裏側で試料採取 - CNN.co.jp

 

水があいた技術力、月裏側の着陸に成功した中国の月面探査機、熾烈な自動運競争

 中国の無人月面探査機「嫦娥6号」が月裏側の南極域の着陸に成功、ロボットアームやドリルを使って月面や地中にある土壌や岩石を採取し、容器に入れて地球へ運ぶといいます。世界で初めてのことになるそうです。

中国の探査機「嫦娥6号」が月面離陸、月の裏側で初の試料採取(1/2) - CNN.co.jp

 「宇宙強国」を掲げ中国は計画を成功させ、米国やインドなどと競争が激化する宇宙開発をリードしたい考えといいます。この分野でも中国が世界のトップに躍り出たということでしょうか。大きく水をあけられたように感じます。

 

 

 国威をかけ、集中的に技術者、資金を投入、技術の向上を急いだ結果でしょうか。宇宙やEV(含む自動運転)、AI、全ての分野で一歩抜きん出ていくことになるのかもしれません。

 しかし、このままおめおめと米国がトップの座を譲るとは考えにくく、対立が激しさを増していきそうな気もします。

日米「先端技術、中国より先に」 宇宙・核融合の陣営強化 転換期の日米㊦ - 日本経済新聞

 その立ち位置を日本は慎重に考える必要がありそうです。何も米国一辺倒が正解でなくなっていそうな気もします。

自動運転

 4月下旬に開催された「北京モーターショー2024」では、ファーウェイが存在感を示したといいます。ブースには、LiDARやミリ波レーダーといった自動運転(AD)/先進運転支援システム(ADAS)の関連技術を中心に、電動パワートレーンや熱マネジメントシステムなど電動化・知能化にかかわる部品・システムを幅広く展示されていたそうです。スマートフォンで培ったブランド力を武器に主役級に躍り出たといいます。

トヨタ・ホンダも近づくHuawei自動車エコシステム、自動運転で主役級に | 日経クロステック(xTECH)

中国市場では現在、市街地での走行中にハンズオフもできるような高度な運転支援システムが競争軸となっており、Huaweiはこの領域での評価が高い。AD/ADASを手掛ける中国自動車部品大手の担当者は、中国におけるAD/ADASでは「Huaweiが最も優れている」と話す。(出所:日経クロステック) 

 中国の大手自動車メーカーはADASの採用を視野にいれ、こぞってファーウェイとの協業に乗り出しているそうです。日本勢も中国における消費者のニーズに対応するためファーウェイに接近しつつあるといいます。

 

 

 この自動運転を巡って、ファーウェイだけでなく、ドローン世界最大手のDJI傘下の「DJI Automotive(大疆車載)」も名乗りを上げ、資金調達で激しく競い合っているそうです。

高度な運転支援システム、ドローンのDJIとファーウェイの二強時代に | 36Kr Japan | 最大級の中国テック・スタートアップ専門メディア

 ファーウェイはスマートカー事業部門をスピンオフし、自由に資金調達ができるようにし、中国の自動車メーカー長安汽車合弁会社を設立したそうです。また、奇瑞汽車や北京汽車集団、ベンツ、アウディ第一汽車などにも合弁会社への出資を求めているといいます。一方、DJI Automotiveには 新エネルギー車NEV最大手のBYDと自動車メーカーの中国第一汽車集団が出資の意向を示しているといいます。

 

 

 自動運転の「目」となる部品「LiDAR(ライダー)」でも、中国企業の特許出願数で日米企業を大きく上回り、市場シェアも過半を握り、存在感が強まっているそうです。日米欧企業の動きは遅く、独ボッシュなどが開発から撤退し始めたといいます。

日系大手やシャオミも採用 中国の格安「自動運転の目」:日経ビジネス電子版

「ここまでの低価格を打ち出すとは……」。日系の自動車メーカー関係者は、中国企業が打ち出した、障害物などを検知する高性能センサー「LiDAR(ライダー)」の価格に驚きの声を上げる。(出所:日経ビジネス

 価格攻勢を仕掛けるのは中国の禾賽科技(ヘサイテクノロジー)と速騰聚創科技(ロボセンス)の2社で、その価格は200ドル(約3万円)程度で、現行品の半額となり価格破壊を起こすことになりそうだといいます。

 日本の基幹産業である自動車も安泰とは言えそうにありません。このまま指をくわえ、坐していくしかないのでしょうか。

 まだまだ日本にもポテンシャルがあると信じたいですが、その力を発揮するには政治を含めてリーダーをこぞって変える必要があるのかもしれません。そうでないと取り返しがつかなくなって挽回できなくなりそうな気もします。

 

 

「参考文書」

中国探査機、月裏側に着陸 世界初のサンプル持ち帰りへ | 共同通信

車載好調続くファーウェイ 自動運転部品納入遅れの波紋:日経ビジネス電子版

自動運転の「目」、中国が特許首位 ボッシュは開発中止 - 日本経済新聞

ファーウェイ、制裁乗り越え完全復活へ PHV・スマホがヒット:日経ビジネス電子版

謎多き中国「半導体国産化」の実態 ちらつくファーウェイの影 | 毎日新聞

「中国と日本は補完的な関係」日本に学ぶ中国のビジネススクール:日経ビジネス電子版

 

【チャイナショック2.0】過剰生産される中国太陽光パネルと日本のエネルギー計画

 温室効果ガスを世界で最も排出している中国、温室効果ガス排出を正味ゼロにする目標を2060年に設定しています。他の多くの国が2050年を目標とし、それに比し遅いとの批判がありますが、今その中国が急速に再生可能エネルギーを拡大させているそうです。

中国、再生可能エネルギー利用が急拡大 2050年には88%に | Forbes JAPAN 公式サイト(フォーブス ジャパン)

 現在の中国の発電総量における再生可能エネルギー電力の割合は30%で、それが2035年までに55%となり、2050年には88%に達するといいます。地球温暖化のペースを考えると、決して早いということはないのかもしれませんが、単に遅いと批判できるものでないような気もします。実績ベースで、2022年に世界で設置された太陽光と風力の発電施設の約40%が中国のものだったといいます。

 

 

 世界の太陽光パネルの9割は中国製といわれています。中国には年産100GWかそれに近い規模で量産するメーカが10社近くあるそうです。これらが激しいシェアを争い、それもあって、太陽光パネルの価格は右肩下がりで下落しているといいます。こうした低価格に供給する能力があって中国の再エネ計画が成立しているのかもしれません。

 一方で、欧米はこれを過剰生産能力と指摘、中国政府による補助金によるものだと批判し、「チャイナショック2.0」と呼んでいるようです。

 欧州の業界団体代表は、「政治が手を打たなければ、数カ月で大半の企業がつぶれる」と対応を求めているといいます。

脱炭素「中国抜き」でやれるのか 太陽光パネルで欧州ジレンマ、産業界は悲鳴 - 産経ニュース

 一方で、太陽光パネルにおいては中国リスクは薄いと指摘する欧州シンクタンクの研究員もいるといいます。補助金EU企業を支えても競争力はつかず、脱炭素化を遅らせるだけだとして、「欧州は一定量の在庫を確保しながら、光吸収効率の向上など技術開発に重点を置くべき」と訴えているといいます。

 ドイツの風力発電などを手が欠ける再エネ大手シーメンスエナジーのCEOも中国とのつながりを断つことは不可能に近く、そうした動きは再エネへの移行を危うくするとの見方を示しているといいます。

「中国抜きのエネルギー転換はありえない」独再エネ大手トップの見解 | Forbes JAPAN 公式サイト(フォーブス ジャパン)

中国からの供給なしで風力タービンを作るのは不可能に近い。中国抜きのエネルギー転換はうまくいかない。(出所:Forbes)

さらに、「対等な国際貿易のための解決策は、米国で台頭しつつある激しい保護貿易主義と自由市場の間で妥協点を見出すことだろう」とCEOは指摘しています。

 

 

 日本では、エネルギー基本計画の議論が始まったようです。足元では電気料金が再び高騰をはじめ、また再エネ賦課金もアップされることになるといいます。

太陽光発電が国内最安の電源に、供給価格が4円/kWh台まで低下 | 日経クロステック(xTECH)

「チャイナショック2.0」といって、中国の過剰生産能力が問題視し、それを政治問題化することはかえってリスクとなり、エネルギー計画を歪めることにならないか心配になります。中国製太陽光パネルなどをどう扱い、次のペロブスカイト太陽電池を活用策を明確にし、どう移行していくのかがはっきりさせる必要がありそうです。太陽光パネルと同じ失敗を繰り返すことは許されないはずです。拡大するばかりの中国との差を埋めていかなければならないのでしょうから。そのためにずる賢く中国製を時に上手に利用することを必要ではないでしょうか。

 

 

 エネルギー計画の基本的な考えは『S+3E』といいます。「S」は安全性、「E」は安定供給、経済性、環境の3つだといいます。これらを政治問題化させては国民生活がますます脅かされることになってしまいます。

 

チャイナショック2.0、かつての日本のように米国に締め付けられる中国

ジャパン・アズ・ナンバーワン」、1979年に刊行され、一世を風靡したといいます。米国の社会学者が「黄金期」の日本を分析した本で、副題は「アメリカへの教訓」だったといいます。現在においても、日本経済の黄金期~1980年代の安定成長期、ハイテク景気〜バブル景気を象徴的に表すことばとして「ジャパン・アズ・ナンバーワン」が用いられています。それほどに当時は日本はまるでナンバーワンになるかのような勢いがあったということなのでしょうか。

 

 

 それほどに勢いがあり、あたかも力を得たかのようになると、羨望の的になり、邪魔だてする者が現れるのが世の常なのでしょうか。1985年にもなると、当時のレーガン米大統領が為替政策の円切り上げを求めたり、その後は対日貿易措置が取られ、自動車や半導体が標的となったといいます。

 その当時と同じような環境に米国が陥っているようだといいます。ただし今回の標的は日本でなく、中国に向けられているといいます。

人民元安に助けられた中国が安価な輸出品を世界に溢(あふ)れさせるのをうろたえながら見ている。米国の貿易赤字は、昨年の大半まで縮小していたが、再び拡大している。(出所:ダイヤモンド・オンライン)

 同じようなことを繰り返すのが米国らしさというところでしょうか。イエレン財務長官が繰り返し中国を訪問しては警告を繰り返しているようです。

安価な中国製品による新産業の破壊、米国は認めず=財務長官 | ロイター

「中国製品の大量流入で米製造業で約200万の雇用が失われた2000年代初頭の「中国ショック」の再来をバイデン大統領は許さない」とイエレン財務長官が4月初旬の訪中時に述べていました。4日間にわたる中国当局者と会談し、EV電気自動車、バッテリー、太陽光産業などへの「大規模な政府支援」に支えられた過剰投資、過剰生産に懸念を表明したそうです。

 

 

 しかし、中国は当時の日本ほど純朴ではないようです。これまでの成長で中国は自信を深め、おいそれとは米国のいいなりになることはなそうです。

中国EVメーカー、外資企業に技術を提供する時代に | 36Kr Japan | 最大級の中国テック・スタートアップ専門メディア

中国のEV開発力は十分にあり、これまでとは逆に外資企業に技術を提供し市場を拡大することができるという確固たる自信がついた。そして実際には当記事で挙げたようにさまざまな提携形態を通して、中国企業が技術を輸出する側にまわったのである。(出所: 36Kr Japan )

 外資を引き入れてはそこから学びを得て、自国の技術力を高める、あって当然のことなのですが、それが中国ではありとあらゆる産業で、世界中の国が集まって大規模に行われたのですから手が付けられない事態になったのではないのかなと思います。世界の工場とまくしたて、そこから利益をむさぼってきたのですから、何を今さらと中国はいいのもわからないことでもありません。

 記事は日本の商用EVを手がけるスタートアップが、中国企業OEMしている事例を紹介しています。

 もしかしたらかつての米国のように、日本は中国の成功事例をつぶさに分析・研究して、学びを得る必要があるのかもしれません。何しろハイテク分野は全敗に近い状態に追い込まれているのですから。

 

 

 それに加え、激しく対立する米中に不用意に近づき、それに巻き込まれるのは避けた方がよさそうな気もします。百害あって一利なし、それよりはもっとしたたかに漁夫の利をひそかに狙うべきなのではないでしょうか。そのためにも、米中が競い合う「GDPレース」からあえて離脱してみるのがいいのかもしれません。何か違った景色がみえそうな気がします。

 

 

「参考文書」

チャイナ・ショック2.0の背後に「元安とデフレ」~人民元の実質ベースの弱さが、他の輸出国を犠牲にする形で中国の輸出を加速させている(ウォール・ストリート・ジャーナル)

 米経済はナンバーワン、それが問題だ | WSJ PickUp | ダイヤモンド・オンライン

苦しむ日本へ 「ジャパン・アズ・ナンバーワン」著者息子からの教訓:朝日新聞デジタル

 

台頭する中国のテクノロジー、懸念深める米国防総省、置いてけぼりの日本

 米中対立が激しさを増すばかりです。米国は保護主義色を強め、「デカップリング」、経済の切り離しに発展、国内回帰を進めているよう。

 そんな中、半導体受託生産大手のTSMC 台湾積体電路製造が中国に掌握されるようなことになれば、米経済にとって「間違いなく壊滅的な」ものになると、レモンド米商務長官が米下院公聴会で述べたそうです。

中国のTSMC掌握、米経済に「間違いなく壊滅的」=商務長官 | ロイター

 中国による台湾侵攻、起こるかどうかわからない事態を想定しての議論のようです。米国は現在、最先端半導体の92%をTSMCに頼っているそうです。

 

 

 米国防総省も中国の様々な脅威を感じているようです。防衛産業基盤評価では、米国経済の「着実な産業空洞化」により、軍事関連で使用される重要な鉱物や部品の国内生産を強化することに国防総省が関与せざるを得なくなっていると指摘したそうです。

「中国テック企業の台頭」が米国防総省の懸念となる理由 | Forbes JAPAN 公式サイト(フォーブス ジャパン)

あまりに多くの企業が製造拠点を国外に移したため、軍需サプライチェーンの大部分において、生産に不可欠なものの国内供給源は1つしか残っていない。(出所:Forbes)

 そればかりでなく、米国防総省は、軍事的ライバル国より一世代先行し続けることを可能にするイノベーションを求めているが、米国の製造業がそうした優位性を提供できる可能性は低いとみているようです。

 日本も同様なのかもしれません。そんな中、ロケットから防衛装備品、火力発電のタービンまで手がける三菱重工がひとり気を吐いているのでしょうか。

ベンチャーしのぐ短期決戦、三菱重工が進める「ピボット開発」 | 日経クロステック(xTECH)

 三菱重工は事業部ごとにあった研究部を集約して「総合研究所」を2015年に創設したそうです。約700の技術と500以上もの製品を抱えているといいます。700分野の専門家を有し、何千人も人員を抱えているといいます。効率的な研究・開発体制が求められ立ち上がった研究所といいます。

 国の力強い支援で優遇されていそうですが。もしそうであるのなら、常に結果が求められるべきなのでしょうが、必ずしもそれが伴っていないようです。

 日本よりはるか先を行く国が存在し、先行する分野が数少なくなるばかりに見えます。

 

 

 米国防総省はAIソフトウェアのような最先端のイノベーションにも危機感を抱いているようです。

 中国が台頭してくる一方で、これまでイノベーションを支えてきた巨大テクノロジー企業に規制をかけようとする動きが強まり、これが国の安全保障に破壊的な影響をもたらす可能性があるとみているといいます。

 こうした現実を突きつけられると、日本のありさまがあまりにも貧粗ではないでしょうか。ハードウエアもだめ、ソフトウェアもだめ、日本の安全保障はますます厳しくなり、湯水のようにおカネが消費されていきそうです。

エヌビディア

 GPU画像処理半導体などを手がける米半導体大手のエヌビディアが、AI人工知能向け半導体を含むいくつかのカテゴリーにおいて、中国通信機器大手のファーウェイ 華為技術を最大の競合企業として認定したそうです。

米エヌビディア、中国ファーウェイを最大の競合企業と認定 | ロイター

エヌビディアによると、ファーウェイは画像処理半導体GPU)、中央演算処理装置(CPU)、ネットワーキング半導体などAI向け半導体の供給で競合している。ファーウェイはAIコンピューティングを向上させるために独自のハードウエアとソフトウエアを設計しているクラウドサービス企業とした。(出所:ロイター)

 かつて技術立国といわれたことが懐かしく思い出されます。あの頃の創造性はどこに行ったのでしょうか。政府も企業も大切なものを失っていないでしょうか。

 何か違う道を探してみてもいいのかもしれません。もう同じ土俵で戦うことすらできないのですから。

 

 

「参考文書」

インテルとクアルコム、ファーウェイ向け半導体輸出ライセンス取り消し | Forbes JAPAN 公式サイト(フォーブス ジャパン)

 

 

定着しそうな「安いニッポン」、ドル円150円が新たな日常か

 米雇用統計の発表を受け、円が対ドルで上昇、一時151円台を付けましたが、その後はまた153円台で推移しているようです。

円が対ドルで一時151円台に上昇、米雇用統計後-介入警戒感和らぐ - Bloomberg

 雇用統計が市場予想を下回り、年内の利下げ観測が高まったことに反応したといいます。「日本の財務省と円安を阻止する彼らの闘いにとっては朗報だ」との市場関係者の声があるようです。

 

 

GDP1%規模の為替介入、焼け石に水

 GW期間中、 政府日銀は何とか円安を阻止しようと市場介入に動いたのではないかといわれます。GDPの1%にもなる為替介入を行っても円安の流れが止まりませんでした。切り返されては繰り返し介入したようです。

アングル:ドル売り浴びせ、早朝の奇襲に介入観測再び 最大効果狙う | ロイター

 神田財務官が焦燥感をもって孤軍奮闘しているだけのようにも見えます。

米国の政策金利は5%超。対する日本はゼロで、日銀は動く構えすら見せない。資本逃避的な円売りが発生しているにもかかわらず、焼け石に水と分かっている介入しかないのか。(出所:ロイター)

 円安が進むのは、為替トレーダーに需要があるからなのであって、投資から利益が見込まれるなら企業も行動を起こします。為替トレーダーも企業もやっていることと本質的は変わらないような気もします。

円の弱体化

為替介入をしたとしても円の継続的な弱体化を防ぐことはできない。円安は、日本経済が弱く、輸出企業の競争力がますます低下している結果だからだ。(出所:東洋経済オンライン)

円急落よりマズい「円弱体化」が進む日本の末路 多くの国民の生活水準が腐食しかねない | 政策 | 東洋経済オンライン

 円は暴落しているわけではないといいます。問題は、円が大暴落するようなリスクではなく、円安が日本の国際競争力と多くの国民の生活水準が腐食し続けることにあるといいます。円安が今の水準より進むことになれば、輸入物価は上昇し、今年の実質賃金の上昇分を帳消しにするほど全体のインフレ率が上昇する可能性があります。すでに実質賃金は23カ月連続で前年同月を下回り、消費者の購買力が下がり続けています。こんな状態が長引いて、経済が健全に成長するわけがないといいます。

 

 

日銀の次の利上げ

 GW明け日銀は何か対応をみせるのか、気になります。GW前の植田総裁の記者会見内容を手がかりにして、専門家たちが様々な予測をはじめています。

日銀の利上げペース、市場想定より速まる可能性も-物価予想通りなら - Bloomberg

 日銀による次の利上げは9月との予測がもっぱらのようですが、市場が想定するペースより速まる可能性があるといいます。日銀が現状をどう分析するか次第でもあり、その動向に注目が集まるといいます。

 米国FRBが予想通りに利下げをはじめ、また日銀が早期に利上げを実施すれば、金利差の縮小が意識され、短期的にはトレンドに変化があるのかもしれません。一体適正な円の水準は何円くらいなのでしょうか。

 今の水準が維持されるとの予測がある一方で、165円まで、1986年以来の円安水準まで下落するリスクがあるとみる市場関係者もいるようです。

円は1986年以来の低水準に落ち込む可能性、1ドル=165円も-RBC - Bloomberg

 当局が介入し、円を買い支えても弱気心理を完全に鎮めることができないといいます。

財務省がすべてを「投機筋」のせいにすることで、根本的な原因を見失ってしまうことだ。(出所:東洋経済オンライン)

 やはり日本経済が活況となり、力強さを回復しない限り、円安トレンドを脱することは出来ないということでしょうか。

 

 

かつて世界を席巻した日本の産業の多くは、輸出価格を大幅に下げない限り競争力を失いつつある。(出所:東洋経済オンライン)

 政府は株式市場が史上最高値を更新し、日本経済は30年ぶりに明るい兆しを見せていいます。そんな呑気なことで、国民生活を守ることはできるのでしょうか。生活水準を犠牲にすることはあってはならないし、許されることでは絶対にないのだから。

 このまま安いニッポンが定着することになるのでしょうか。

 

 

「参考文書」

【コラム】日本は介入で慎重にショット選択を、バズーカ砲不要-モス - Bloomberg

「時間稼ぎ」の円買い介入、それでも通貨安定に役立つ-ゴールドマン - Bloomberg