シャープの元社長である町田勝彦氏が日本経済新聞のインタビューで、2016年の鴻海(ホンハイ)精密工業による買収について「マイナスだった」と発言していました。
シャープ元社長の町田勝彦氏、鴻海による買収「マイナスだった」 - 日本経済新聞
買収直後のシャープは、鴻海流の圧倒的なコスト削減とスピード経営により急速な黒字化を果たし、「日台アライアンスによる再生の成功モデル」と称賛されました。しかし、近年の液晶市場の環境激変と業績の再悪化により、堺工場の大型パネル生産停止をはじめとする再度の構造改革を余儀なくされています。
この発言を単なる心情論とするのではなく、一次情報として捉え直したとき、日本のハイテク製造業が直面している構造的課題が浮かび上がってきます。
韓国勢との対比で見える構造的敗北
中国勢による液晶パネルの過剰供給と価格破壊が進む中、「パネルの単体製造そのものが、成立しにくい構造に陥っていた」という見方があります。
しかし、同じ市場環境の変化に晒されながらも、業績の構造転換を果たしたサムスン電子やLGディスプレイといった韓国勢と比較すると、異なる側面が見えてきます。
韓国勢が生き残ることができた背景には、主に3つの構造的要因が存在します。
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投資の早期シフト:液晶の価格競争に深入りせず、プレミアム領域である有機EL(OLED)へ迅速にリソースを集中させたこと。
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圧倒的な自社端末(キャプティブ市場)の存在:グローバル市場で年間数億台を販売するスマートフォン(Galaxy等)やテレビという「自社グループ内の巨大な需要(出口)」を保持していたこと。
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部品と製品の割り切り:汎用パネルは外部から安く調達し、高付加価値領域に特化する柔軟なポートフォリオ管理を行ったこと。
対するシャープは、国内中心の限られた端末市場しか持たず、巨大なパネル工場の稼働率を維持するために外部顧客(外販)に依存せざるを得ないリスクを抱えていました。自社端末のグローバルなスケールが足りないまま巨大な固定費を抱え続けたことで、行き詰まりを迎えたのではないでしょうか。
受動的な委託から「能動的な使い倒し」へ
日本の電機メーカーが事業環境の悪化に直面した際、よく取られる選択肢が「固定費削減のためのODM/EMS(受託開発・製造)活用」です。「全機能を外部委託して効率化する」という名目が掲げられますが、実態は自社の企画・開発力や投資余力の減退をカバーする「受動的な外注化」に留まるケースが少なくありません。
自社内に明確な付加価値を残さないまま製造や設計を丸投げすれば、社内には不要となった人員やミスマッチが残り、配置転換や早期退職といった内向きの構造調整に追われることになります。自社に残るのはロゴマーク(ブランド)と販売網だけとなり、製品の差別化ができず利幅(マージン)も削られていく。縮小均衡で事業継続はかなうのかもしれませんが、ただそれだけのことす。
一方で、Appleに代表されるような「バーチャルな垂直統合モデル」は対照的です。
彼らはファブレス、工場を持たないものの、コアとなる設計やユーザー体験、そしてGSM(グローバル供給管理)やSQE(サプライヤー品質エンジニアリング)という調達・品質の根幹機能を自社で所有、それを強みにしています。Foxconn(鴻海)などの巨大な製造・調達インフラを「自社の戦略を実現するための道具」として能動的に管理、コントロールすることで、高い利益率と差別化を両立させています。
シャープにとって親会社である鴻海は、世界最大級の製造・調達プラットフォームです。単に「作ってもらってブランドを貸す」という受動的な依存に終わるのか、それともアップルのように開発と調達統制の主導権を握り、鴻海のスケールを自社の武器として使い倒すのか。ここに、付加価値の有無を分ける境界線が存在します。
まとめ
シャープが現在掲げる「AIインフラ・サーバー」「衛星通信端末」「家まるごとAI家電」といった成長領域も、本質的には一定以上の「規模」が要求される事業領域です。
自前で巨大な工場や開発体制を抱え込む過去のメーカー型モデルに戻れば、液晶と同じ歴史を繰り返すことになるのではないでしょうか。
日立の白物家電やVAIOを買収したノジマのように顧客接点(流通)をもつこともなく、Googleのようにユーザー体験の場となるグローバル直営店があるわけでもありません。
グーグルが表参道に「世界最大の直営店」をつくった理由──AI時代のブランド価値創造 | Forbes JAPAN 公式サイト(フォーブス ジャパン)
シャープが生き残る道は、過去の成功体験や「メーカーとしての自前主義のプライド」を捨て、鴻海というプラットフォームを対等かつ能動的に使いこなすという新たなスキーム、ビジネスモデルへと脱皮できるか。それに加え、ノジマやGoogleのような顧客接点の強化も求められるのではないでしょうか。
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「かつて世界一だった」という記憶を語る段階を過ぎ、自らの付加価値機能、競争優位性をどこに置くのか。日本のハイテク産業が過去の亡霊を払い、真の再成長を果たすための挑戦は、その実践から始まるのでしょう。
「参考文書」
シャープ、AIや衛星に託す液晶の次 革新性の「らしさ」は見えぬまま - 日本経済新聞
Googleが東京に直営店 副社長「変化が速く、体験の場が重要に」 - 日本経済新聞

