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【連載 最終回】不確実性増す世界におけるレアアース供給網の再構築

 2026年1月、衆議院解散を表明した記者会見において、高市首相は「経済的威圧」への強い懸念を表明しました。これは、中国によるレアアースの輸出管理強化、および軍民両用品の制限措置を念頭に置いたものです。

 首相が示した「安保3文書の前倒し改定」という覚悟は、国家の意思として重要なのかもしれません。しかし、対抗心をむき出しにしたところでレアアースの供給は改善しません。逆に緊張は高まり、経済活動への負荷を高め、国民生活にはマイナスの影響を及ぼすだけではないでしょうか。

 政治の「不確実性」を前提とした戦略構築

 今、私たちが問うべきは「いかに中国に勝つか」という感情的な対立ではありません。経済活動を維持するための、「政治の不確実性に振り回されない、強靭な構造(レジリエンス)構築」が問われています。

経済は単なる繁栄の手段ではなく、制裁・規制・供給網を通じて“武器”として利用される。この「武器化される経済」の時代に、依存を減らす戦略的自律性が不可欠である。

バリューチェーンの「中流工程」を掌握し、孤立を避ける

 南鳥島で資源を「掘る」だけでは不十分です。真の自律とは、精製・精錬という「中流工程」を自ら制御することにあります。

小野田経済安保相、レアアース泥採取で高コスト許容 南鳥島近海 | 毎日新聞

「安保上の観点から、商業ベースでは引き合わない高コストであっても、国内での供給網構築を優先する」という方針が示されました。(参考:毎日新聞

  • 戦略的精錬拠点の多角化 中国が独占する精錬工程を、国内、あるいは信頼できるパートナー国との間で分散・確保する必要があります。これは「環境コスト」を自国で引き受ける新たな覚悟を伴う、極めて実務的な変革です。

  • 孤立を避ける「実効的な連携」: トランプ政権の自国第一主義により、米国の同盟国であっても自国益のために中国へ接近する動きが見られています。日本の孤立をさけるためにも、共通のリスクを抱える国々と、精錬技術や備蓄を融通し合う「実利のネットワーク」の構築が求められます。

重要性増す都市鉱山、産業化の推進

 使用済みの家電製品や電子機器などに含まれる貴重な金属資源を、都市にある鉱山に見立てた「都市鉱山」は、これまで主に環境保護の文脈で語られてきました。しかし、今後はこれを資源調達の要として再定義し、強力に推進すべきです。

  • 資源の「循環型備蓄」: 都市鉱山においては、日本は世界有数の資源埋蔵量を誇り「資源大国」と呼ばれます。2026年4月に施行される改正法などを起点に、廃棄製品からレアアースを回収するプロセスを「国家的な供給インフラ」として確立していくべきです。海外情勢に左右されない「国内循環」の制度を整えることにより、真の自立に近づいていきます。

政治を読み解き、最悪のシナリオに「備える」

 現代において、政治の不確実性は経済活動においても避けえないものになっています。米国ばかりではなく、日本もまた不確実性の震源地になりつつあるようです。この政治の論理を読み解き、最悪の事態(完全な供給断絶や経済封鎖)を想定内に置くことが、企業の生存に不可欠になっています。

  • インテリジェンスによるリスク回避: 以前私が経験した「アンチモン不足を設計変更で乗り越えた」例のように、リスクの予兆を見逃さず、常日頃より、代替案を検討、準備する。この「備え」があるからこそ、不測の事態が起きても早期に回復(レジリエンス)することが可能になります。

  • 早期回復の仕組み作り: 政治が供給を遮断する「最悪のシナリオ」をシミュレーションし、サプライチェーンの最適化、アップデートを続けること。この日頃の改善活動があれば、不測の事態が起きても、その影響を最小にとどめ、事業を継続することが可能になります。他者が立ち往生する中、誰も早く立ち直ることになるのです。

まとめ:自律とは「責任ある選択」の積み重ね

 レアアースを巡る問題は、単なる資源の争奪戦ではありません。それは、私たちが『ブラッド・コバルト』に象徴される「外部への犠牲」を止め、自国でバリューチェーンの全責任を負う覚悟があるか、という問いでもあります。

 経済安全保障とは、声高に「覚悟」を叫ぶことではありません。政治の不確実性を冷徹に読み解き、高度な設計と他国との賢明な連携によって、「他者の意思に左右されずとも、日本の産業が立ち行ける構造」を静かに、かつ着実に作り上げることです。

 このレアアースショックを、日本が真にインテリジェンスに基づいた強靭な国へと進化する契機にできるのか。今、私たちの知略が試されているのです。

 

「参考文書」

「レアアース泥」試験採取成功 南鳥島沖深海底から―海洋機構など:時事ドットコム

南鳥島沖レアアース泥「事業化」へ試掘成功 経済安保の〝課題〟解決へ重要な一歩 - 産経ニュース

地政学リスクに揺れる時代、リーダーにとって「先見の明」は最も価値ある能力に | Forbes JAPAN 公式サイト(フォーブス ジャパン)