Into The FUTURE

未来はすべて次なる世代のためにある

【連載 第4回】レアアースショック、地政学リスクが変えるマクロ経済

 これまで、日本のマクロ経済政策、特にリフレ政策の多くは「需要を喚起すれば、供給はそれに応じて拡大する」という前提に立ってきました。通貨供給量を増やし、期待インフレ率を高めることで、経済を成長の軌道に乗せるというシナリオです。

 しかし、サプライチェーンの最前線で起きていることは、この「論理」を覆す「物理的」な限界です。中国によるレアアースやデュアルユース品の輸出管理強化は、単なるコスト増ではなく、**「お金を払っても、物資そのものが手に入らない(あるいは極めて限定される)」**という、物理的な供給の壁を出現させました。

 「良いインフレ」と「供給制約下のインフレ」の峻別

 リフレ政策が目指したのは、需要が供給を上回ることで起きる「良いインフレ」でした。しかし、現在懸念されるのは、戦略物資の目詰まりによる「供給制約下のインフレ」です。

  • 成長の「心臓部」が止まるリスク: EV、精密ロボット、次世代半導体。日本の成長戦略の主役はいずれもレアアースという「物理的資源」を前提としています。供
  • 給網が遮断されれば、どれほど低金利で資金を供給しても、成長の果実を得ることはできません。
  • コストプッシュの恒久化: 前回論じた南鳥島開発やサプライチェーン多角化(フレンド・ショアリング)は、安価な資源依存からの脱却を意味します。これは一時的な物価高ではなく、安全保障コストを内包した「恒久的なコスト構造の上昇」です。

日本経済の「信認」と地政学リスク

 ここで、ドイツ銀行などの海外金融機関が時折発する「日本経済の脆弱性」への警告に目を向ける必要があります。

 サプライチェーンの専門家として見れば、一国の経済の信認とは、通貨の流通量だけでなく、**「その国がいかに確実に、価値を生むための物資(リソース)を確保・制御できているか」**という実力に裏打ちされます。

 中国の戦略的優位に対し、日本が「行き当たりばったり」の対応に終始し、供給網の自律性を確立できなければ、それは日本の製造業の優位性の喪失を意味します。その先にあるのは、実体経済の衰退を背景とした、円や国債に対する「信認の揺らぎ」という厳しいシナリオです。

私たちは「高コストな自立」を許容できるか

 今、私たちに求められているのは、「デフレかインフレか」という二元論的な議論ではありません。

真の課題は、**「安価な外部依存を捨て、安全保障コストを織り込んだ『高い自律的経済』へと移行する覚悟があるか」**という点にあります。これは、金融政策だけで解決できる領域をはるかに超えており、産業構造そのものの再定義を必要とします。

まとめ

 かつて、アンチモンの供給不安というミクロな危機を、設計変更という戦略的な知略で乗り越えたように、今、マクロ経済全体にも同様の「知略」が求められています。

 物理的な資源の制約を所与のものとして受け入れ、その中でいかに付加価値を最大化するか。リフレ政策という「紙(通貨)の論理」を、サプライチェーンという「物の論理」で補完・修正していく視点こそが、今、最も見落とされていることではないでしょうか。