Into The FUTURE

未来はすべて次なる世代のためにある

【連載:日本はもう一度、世界をワクワクさせられるか?】最終回:信頼を「輸出」する ― デジタル地政学と日本の生存戦略

 連載の締めくくりに、象徴的なニュースが飛び込んできました。ソニーグループがテレビ事業を本体から分離し、中国・TCLとの合弁会社へ承継するという報道です。

ソニーグループ、テレビ事業を分離 中国TCLとの合弁に承継 - 日本経済新聞

 かつての「テレビの王者」が、ついにその物理的な「身体(製造)」の主導権を外部に委ねる道を選んだのです。

 これは、日本が「自前主義」という呪縛から解き放たれ、新しい戦い方へ移行するための「痛みを伴う脱皮」なのか。それとも、単なる退却なのでしょうか。

中国の「すごいメカ」と、経済安全保障の壁

 現在、中国は圧倒的なコスト競争力と垂直統合モデルを武器に、CES 2026でも見たような「すごいメカ(ロボティクス、EV、AI家電)」を次々と世に送り出しています。

中国視察で考えた 「すごいメカ」が来る未来 | Forbes JAPAN 公式サイト(フォーブス ジャパン)

 

 ソニーがTCLと組むのも、その圧倒的な生産エコシステムを取り込まなければ、もはや戦えないという冷徹な現実判断があるからでしょう。

 しかし、ここで忘れてはならないのが**「経済安全保障」**という壁です。 私たちの生活を24時間スキャンし、データを収集するAI端末やヒューマノイドにおいて、「どこで作られ、誰がデータを管理しているのか」という問いは、もはや個人のプライバシーを超え、国家の安全保障に直結しています。中国製デバイスへの依存に世界が警戒を強める中、日本企業には「第3の選択肢」としての巨大なチャンスが残されています。

「信頼(Trust)」という名の付加価値を輸出する

 日本が目指すべきは、中国とコストで競うことでも、米国と演算力で競うことでもありません。それは、**「世界で最も信頼されるAIインフラ」**を構築し、それをグローバルに輸出することではないでしょうか。

 これらをパッケージ化し、データ主権を重んじる欧州や、中立を保ちたいアジア諸国へ届ける。それこそが、日本がデジタル赤字を解消し、世界に貢献できる唯一の道です。

具現者は「あなた」の中に

 ソニーがテレビ事業を分離し、ノジマVAIOを手に入れ、ニトリが住宅から生活をデザインする。一見バラバラに見えるこれらの動きは、すべて**「誰がユーザーの生活というラストワンマイルを責任を持って具現化するか」**という主権争いです。

 今の日本に必要なのは、GAFAMの模倣ではありません。万博で石黒教授が見せた「人間とロボットの境界」のような深い思索を、ソニーの美学で形にし、ニトリの身近さで私たちの生活に届ける。そんな**「日本発の垂直統合」**を、企業の壁を超えて実現する狂気的な意志です。

「もう一度、世界をワクワクさせられるか?」

 その答えは、技術の優劣にあるのではありません。私たちが「この未来を実装したい」と本気で願い、行動を起こすかどうかにかかっています。日本にはまだ、世界を驚かせるためのピースは揃っているのです。

 エヌビディアのジェンスン・ファンCEOは、かつてのAIサミットでこう語りました。 「メカトロニクスにおいて、日本ほど優れた技術を持つ国は世界にない。これは日本にとって大きなチャンスだ」

 世界が「脳(AI)」の進化に熱狂したフェーズは終わり、今、投資家たちの視線も急速に「身体」へとシフトしています。AIが現実世界で価値を生むには、命令を実行するための強靱な身体――ロボット、センサー、モーターが不可欠になっているからです。

 

 

「参考文書」

フィジカルAI元年 日本株の勝ち筋は(馬渕磨理子) - 日本経済新聞