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【EVシフトに学ぶSC革命 6】日本の勝ち筋 — 米テック企業の設計戦略に学ぶ「協調的設計」の可能性

 前回までの議論で、EVシフトにおける競争の核心が、**「ハードウェアの製造力」から「ソフトウェアと高性能チップの設計能力」**へ完全に移行したことを確認しました。

EVシフトに学ぶSC革命:サプライチェーンの未来図、「垂直統合モデル」と「日本型生産」の対決 - Into The FUTURE

 SDV(Software Defined Vehicle)の時代、車両の性能や機能の進化は、車載SoC(System-on-Chip)の設計品質によって決まります。

 垂直統合モデルの中国企業やテスラが強いのは、チップ設計を内製化し、ハードウェアとソフトウェアを垂直に統合しているからです。この流れに対し、日本の水平分業モデルが単に「高品質な部品」を提供するだけでは、未来はありません。

 

 

 日本企業が取るべき道は、従来の「擦り合わせ」を「デジタル時代の協調的設計」へと進化させることです。そのヒントは、半導体設計で世界をリードする米国のテック企業の戦略にあります。

🇺🇸 米テック企業に学ぶ「設計支配型SC」のロジック

 米国のテック企業は、自社のエコシステム(ソフトウェア)を最大限に活かすために、チップ設計において**「設計支配型サプライチェーン」**という戦略を確立しました。

Apple:最高の顧客体験のための垂直設計

 Appleは、自社のスマートフォンやPCのOS(iOS/macOS)と、その上で動作するアプリケーションを最適化するために、自社でSoC(Aシリーズ、Mシリーズ)を設計しています。製造(ファウンドリ)はTSMCなどに委託しますが、設計の主導権は決して手放しません。

  • 教訓: EV時代、自動車メーカーも**「顧客が求めるデジタル体験」を究極まで高めるため、その核心となるチップのアーキテクチャ定義と設計(デザイン)を自社で握る必要があります。ソフトウェア開発者が求める性能と機能を、チップ設計に直接反映させる「垂直的なフィードバックループ」**が不可欠です。

(画像:Apple
Google/Amazon:AI時代に向けた特化型チップ設計

 GoogleはAI処理に特化したTPU(Tensor Processing Unit)を、Amazonクラウドサービス向けにGravitonチップを設計しています。彼らは、汎用的なチップではなく、**自社の競争優位となる機能(AI処理、クラウド効率)**に特化したカスタムチップを設計することで、圧倒的な効率とコストメリットを実現しています。

  • 教訓: 日本の自動車メーカーやTier 1も、自動運転や次世代HV制御といった**「自社の競争領域」に特化したカスタムSoCを設計・開発することで、垂直統合モデルの汎用EVチップに対抗する「非対称な優位性」**を築くことができます。

🇯🇵 日本の活路:「協調的設計」による水平連携の進化

 米テック企業の教訓を踏まえ、日本企業がSDV時代に勝つための戦略は、**「チップ設計の内製化」と「協調的設計」**の組み合わせにあります。

① チップ設計の内製化とラピダスの役割

 日本が国策として推進するラピダスは、次世代の高性能チップの製造基盤を国内に確保する役割を担いますが、その恩恵を最大限に受けるのは、自社でチップを設計できる顧客企業です。

  • SCへの提言: 自動車メーカーやTier 1は、チップ設計部門を強化し、ラピダスのような製造パートナーと開発の初期段階から連携する**「協調的設計」を実行する必要があります。これにより、製造技術の制約を理解した上で最適なチップを設計し、開発リードタイムの短縮と高性能化**を両立させます。
② 異業種・協調設計によるバーチャルな「戦略的垂直統合

 垂直統合モデルに対抗するため、日本企業は**「全内製化」ではなく、バーチャルな「戦略的垂直統合」**を目指すべきです。

  • 異業種連携: 自動車メーカー、Tier 1、半導体メーカー(ローム富士電機)、そして日本の化学/素材メーカーが、「次世代バッテリー」「高性能SiC」など、特定の戦略要素技術に特化して共同で設計・開発する体制を構築します。
  • 目標: 「チップ設計」と「モジュール化」の主導権を自動車産業側が握り、製造は効率の良いパートナー(例:ラピダス、外部ファウンドリ)に委託するという、「日本型」の設計支配モデルを確立してもいいのではないでしょうか。

 

 

まとめ:擦り合わせから「アーキテクチャの定義」へ

 日本の強みだった「擦り合わせ」は、完成品間での微調整ではなく、**「ソフトウェア、チップ、ハードウェアのアーキテクチャ(設計思想)を定義し、それを協調して具現化する能力」**へと進化しなければなりません。

 米テック企業が示したように、設計の主導権を握ることこそが、SDV時代における新たなサプライチェーンの付加価値を創造する唯一の道筋です。

 

 

「参考文書」

モービルアイがティア1へ、26年末にVW向けECU E2E自動運転で方針転換 | 日経クロステック(xTECH)