Into The FUTURE

未来はすべて次なる世代のためにある

データ重視になるばかりに人を道具にしていないか、忘れられた人間的考察の重要性

 

 高度成長期といわれる時代があって、日本は中進国から先進国の仲間入りをすることができました。その後のバブル崩壊を機に、「失われた30年」が始まり、経済成長から遠ざかっています。

 得意だったはずの科学的手法による生産性の向上や効率化がすっかり影を潜め、欧米諸国に追い抜かれてしまったようです。欧米ではこうした科学的手法がアップデートされ、最新化し、生産性の向上に大いに役立てのでしょうか。

 

 

不安だ、不安だ、と言いながら政府の補助金ばかり当てにして、現状維持にきゅうきゅうとしていては何も始まらない。いつまでも既存事業にしがみついて、前年度比業績アップばかり考えるのは、もうやめようじゃないか。(出所:JIJI.com)

 現状維持は「衰退死」であると作家の江上剛氏がJIJI.comで指摘しています。

破壊的イノベーション、日本を成長へ導くのはこれしかない【江上剛コラム】:時事ドットコム

 また、政治学者の白井聡氏の言葉を借りて、アベノミクスを「ごった煮」政策と批判し、経済成長に役立つと従来言われてきた政策を全部やったに過ぎないと、問題指摘します。

 一方、優良企業も、官僚主義、自己満足、リスク回避土壌など、組織的問題点を抱えていると指摘し、イノベーションの必要性を説きます。

イノベーションとは「経済成長の原動力となる革新、生産技術の革新、資源の開発、新消費財の導入、特定産業の構造の再組織化」ということ。すなわち、創造力を発揮してリスクをとり、新しいことに挑戦する意味なのだろう。(出所:JIJI.com)

 

 

 イノベーションというと、安易に革新的な製品やサービスのことを想像してしまいます。日本にもかつてはウォークマンコンビニエンスストアなどの幾多の輝かしいイノベーションがありました。しかし、そればかりに目を奪われてはならないのでしょう。

 高度成長期は長く続いたイノベーションの時期だったのかもしれません。「経済成長の原動力となる革新、生産技術の革新」によって支えられていたいってもいいのではないでしょうか。

 それ以前は、熟練工や事務のエキスパートが奮闘し、芸術的には優れたところはあっても、工業品としては「安かろう、悪かろう」で、その評価は惨憺たるものだったといいます。

 それが、生産技術や事務の処理技術が、科学的な手法のIE(インダストリアル・エンジニアリング)やQC(品質管理)を通じて進化、普及するにつれ、それまでのイメージは一新され、「安くて、良い製品」として世界を席巻するようになったといいます。

 日本のこうした成功がやがて欧米の研究対象となり、日本が用いた科学的な手法は欧米で進化し、「リーン方式」や「6シグマ」として活用されるようになります。こうした手法が今日の欧米での生産性向上の基礎をなすようになったのでしょうか。

 

 

「脱炭素」に「SDGs」、それに加え「デジタル化」、そうした新しい価値への移行がもとめられるようなっています。こうした移行もまた、やはり科学的な管理手法とそこから生じる創造性によって成し得ることではないでしょうか。

 かつて住友電工の北川会長は、「情報時代への移行は、IEを基礎とする管理技術と、コンピュータの活用を通じて行わなければならないし、創造性の基礎となるのもIEである」といい、さらに「それは模倣だけのIEであってはならないし、単なる技術としてIEをみるだけでもいけない」といっていました(参考:「IEの基礎」序文)。

IEの基礎

IEの基礎

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「GX」に「DX」、そして「SX」、〇Xという言葉をよく耳にするようになりました。「X」はトランスフォーメーション、変革を意味しています。

 こうした変革も科学的な手法抜きに推進することはできないのでしょうし、それには科学的な手法を一部の専門家のためではなく、みなが理解できるようにアップデートし、最新化すべきなのでしょう。

長く続いたイノベーションの時期だったのかもしれません。

 

目的を果さんとするマネージャは、人間および心理的過程の探究者であらねばならない。

間断のない知性の向上、複雑化する人間関係、企業の社会性増大、経営における人間の要素は、その重要性を無気味なほど増大しつつある

そして、そのことを計算にいれない管理システムは決して成功しないであろう。(引用:IEの基礎 藤田彰久)

 基礎の普遍的な価値は変化せずとも、変わりゆく時代に合わせて論理をアップデートさせる必要はあるのでしょう。また、科学的な手法によりデータをより重視するようになっても、人間的考察を忘れてはならないのでしょう。人を道具にして見てはならないはずです。もしかしたら、このことをおろそかにしてきたのかもしれません。