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高炉の火を消す鉄鋼業界、好調な業績、鉄鋼にとって脱炭素は重石か

 

日本製鉄の呉地区の高炉の火が消えたという。再稼働の予定はなく、2023年9月末までに製鉄所が閉鎖されるそうだ。

涙を拭き、急ぐ再就職 日本製鉄呉の「高炉の火」、60年の歴史に幕:朝日新聞デジタル

 朝日新聞によれば、呉の製鉄所の閉鎖方針は、中国などの台頭による激しい競争を受けての措置という。

 そんなニュースを読むと、少しばかりおセンチになったりするが、日本製鉄はもっとしたたかなのではなかろうか。

 

 

 足下、原料炭は高騰する一方で、鉄鋼石は急落しているという。コロナ後の世界の経済回復を受けて、引き続き好調のようで、業績が上振れする可能性があるという。

 トヨタをはじめとする取引先との強気の価格交渉で成果を上げたこともその一因なのだろう。報道内容からすれば、供給カットなどをちらつかせ、2010年度以降で最大の値上げ幅になったという。

 日本経済新聞によれば、「価格交渉をリードしてきた両社の間で亀裂が広がっている」という。この交渉に不快感を強めたトヨタは輸入材などの調達拡大も検討するそうだ。

 禍根を残すような交渉をしないのが鉄則に思われるが、それだけ日鉄側にも不退転の決意があったのだろう。来期の交渉はどうなるのだろうか。

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 世界の鉄鋼価格の鍵を握る中国は、かなり厳しい状況下におかれているようだ。中国政府が鉄鋼生産による環境への影響を避けようと、生産抑制を強化しているという。この需要の減退が鉄鋼石下落の要因という。ずいぶんと鉄鋼における環境が変化してきているようにも見える。この先、中国鉄鋼の復活はあるのだろうか。新技術による「脱炭素」鉄鋼が実現すれば、状況は変わるのだろうか。

 

 

 国内の鉄鋼業界は、産業部門のCO2排出のうち、実に40%(国全体のCO2排出の14%)を占めているといわれる。本業の鉄鋼生産がその主要因で、その脱炭素なくして国の脱炭素目標達成はないのかもしれない。

 その決め手になるのが、「水素還元製鉄」と言われる。

 日本鉄鋼連盟が公表した「我が国の2050 年カーボンニュートラルに関する日本鉄鋼業の基本方針では、「水素還元製鉄」を以下のように説明している。

水素還元製鉄は、有史以来数千年の歳月をかけて人類が辿り着いた高炉法とは全く異なる製鉄プロセスであり、まだ姿形すらない人類に立ちはだかる高いハードルである。各国も開発の途についたばかりの極めて野心度の高い挑戦となる。
また、実装段階では現行プロセスの入れ替えに伴う多大な設備投資による資本コストや、オペレーションコストが発生するが、これらの追加コストは専ら脱炭素のためだけのコストで、素材性能の向上にも生産性の向上にも寄与しない。 (出所:経済産業省

 

 

 随分と横柄な説明に聞こえてしまうのなぜだろうか。「脱炭素」は地球温暖化の抑制のためであり、国家を越えた地球規模での取り組みであるはずだ。日本の鉄鋼業界だけが、「脱炭素」しなくてもよいということにはならないはずである。言い訳じみたことを発信するのではなく、もっと素直なものの見方をすれば、見える景色も変わるのではなかろうか。国をリードするくらいの気概をもって「脱炭素」を進めてもらいたいと感じてしまう。

 日本製鉄は、本業外では様々脱炭素活動に取り組んでいる。先日も、NSユナイテッド内航海運の保有する石灰石運搬船「下北丸」の後継船として、天然ガス専焼エンジンとバッテリを組み合わせたハイブリッド推進システム船として建造すると発表した。

内航石灰石運搬船 天然ガス専焼エンジン+バッテリハイブリッド推進システム船建造について

 日本製鉄によれば、この船は2024年2月運航開始予定で、国内初の天然ガス専焼主機とリチウムイオンバッテリを搭載した船だという。この新しい船のCO2排出削減効果は、従来の同型船と比較し、23.56%(常用出力時約30%)となり、天然ガス専焼エンジンの排気ガス中にSOx成分はほとんど含まれず、NOx排出量は3次規制値を大きく下回るという。また、積出港や揚港では、バッテリーによるゼロエミッション運転を行なうそうだ。

 もっと素直に「脱炭素」に積極的である姿勢を示せば、得られる協力も増えるのではなかろうか。それだけの技術と能力を保有している会社なのだから。