出来レース。そんな印象だろうか。そうであるなら、透明性のあるプロセスなどといわず、最初からそうしてしまえば、後腐れもなかったのではないか。
その手続きに透明性はあったのだろうか。
もう少しサプライズがあってもよさそうなものだ。「えっ、そこまで多様性を重視して対応するの」、となれば、外野がちょっかいを出す意味があるというものだ。
何でもかんでも人事に首を突っ込むのは筋違いだろう。
意見が違うからこそ、そこに多様性が生まれるし、切磋琢磨も始まるというものだ。違いを尊重し、それを束ねるのが真のリーダーシップだろう。人事を掌握し、人を動かそうとしているのであれば、ずいぶんと古ぼけた手法と言わざるを得ない。
個人に特別悪い感情を持っているわけではないが、後任はたいへんな重荷に背負ったのではなかろうか。
第一義は別なところにあるのかもしれないが、透明性と多様性の十字架を担いでいるようなものだ。このままで終わらせてしまったら、ダイバーシティ&インクルージョンがいつまでも進歩しないことになりかねない。
わかっているふり
たとえ頭でジェンダー平等を理解しても、個人が信奉するものは、何気ない態度や言葉節に現れたりする。それが人間というものだ。前の会長にそんな姿を見たような気がする。
一度それが露呈してしまったら、もう組織のトップに居座ることはできないのだろう。その組織がダイバーシティやジェンダー平等を尊び、その実現を目標にしているのならば、なおさらのことだ。
トップ自らその実現に動くことはまずないのだろう。目標は等閑になり、トップの関心事がいつも組織の課題になってしまう。
気づかないでいられる人々
BuzzFeedがこの問題を解説する記事を出す。
「多くの人が『自分たちは森さんじゃない』と思いたいかもしれない」と、疑問を投げかけるのは社会学者のケイン樹里安さん。日本におけるレイシズムにくわしいという。
「気付く」「気付かない」はもちろんですが、悪気もなく、本当に「知らない」という問題もあるのではないでしょうか?とBuzzFeedは質問をぶつける。
「特に日本における人種差別では顕著ですが、そもそも「見えていない」から否認してしまうという問題もあります」と答える。
工事現場や農家には不当な労働を強いられた技能実習生が、コンビニには留学生がいて、クラスメイトや職場の同僚に外国にもルーツをもつ人々は、たしかにいる。
けれど、どこか自分から遠くに離れた問題として考えてしまうんですね。
「日本は単一民族国家」という戦後に広まった紋切り型の言葉や、血統主義的なニュアンスを強く帯びた「日本人」という言葉が繰り返し使われ続けていることも背景にあるでしょう。 (出所:BuzzFeed)
「これは、気にせずにすむ人たちが、レイシズムを身近な問題として考える機会が相対的に少ないままにされてきたからなのかもしれません。見えづらくされてきた、とも言えるでしょう」とケイン樹里安さんは指摘する。
「大きな組織のトップが、ステレオタイプに基づいて、女性たちが発言・活躍する機会をそもそも奪ってきたといえます」と、今回の問題を指摘する。
「そのうえで、そうした判断を正当化する発言を行ったわけです」とケイン樹里安さんはいう。
自民党の場合
同じようケースが自民党でも起きている。
自民党の二階俊博幹事長が役員連絡会で、党所属の女性国会議員を5人程度ずつ、党の幹部会議にオブザーバーとして出席してもらうことを提案したという。
出席を想定している会議は、党としての方針を機関決定する総務会や、党幹部らが情報共有を図る役員連絡会など。ただ、党幹部らによるとオブザーバーとして出席する女性議員には発言権はなく、あくまで「見学」にとどまる見通しだという。
二階氏は同日の記者会見で、女性のオブザーバー参加の狙いについて、「どういう議論がなされておるかを十分ご了解いただくことが大事。それをご覧に入れようということだ」と説明した。 (出所:朝日新聞)
本人は何も気づいてはいないのだろう。そうであるから、悪気もなく、堂々とこうした発言ができてしまうのだろう。
マジョリティは、社会に不公正・不平等があるという問題を、そもそも気付くことができない。
もしくは気付いたとしても、スルーできる、立ち去ることができる。
そうして、意図せずともそのような構造の維持や再生産に加担してしまうのです。さらには、問題を見て見ぬフリをすることで、利益を得ることもあります。
一方でマイノリティは、進学や就職、昇進など、日々の生活の様々な局面で、情報や資源、機会へのアクセスを阻まれたり、不利益を被ったりしています。したがって、社会の問題点を「気にせずにはいられない」のです。 (出所:BuzzFeed)
ケイン樹里安さんの指摘する言葉が的を得ている。
誰一人取り残さないために
ようやく問題が「見える」ようになったにもかかわらず、問題の否認することで、「気付かずにいられる人たち」を免罪し、問題を放置してはならないのです。
生活の機会や未来への可能性を現在進行形で奪われている人たちがいるのは紛れもない事実です。
そうした不公正・不平等はちゃんとフェアにしていかなければならない。それが豊かな社会のはずです。 (出所:ブルーBuzzFeed)
SDGsでは、「誰一人取り残さない」といい、その根底にダイバーシティ&インクルージョンがあり、17の目標に展開されていく。
SDGsに取り組む企業が増えたと聞く。どこまで、その本質が理解され、実行に移されているのだろう。
「ジェンダー・ギャップ指数2020」で、日本は153か国中121位だという。
頭数を増やすだけのような対応ではジェンダー平等とはいわないだろう。
今回の騒動が、真にダイバーシティ&インクルージョンを考えるきっかけになって欲しいと切に願う。