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脱炭素を目指す「スチールゼロ」は鉄鋼業界を動かすのか

 

 環境省が、2019年度の温室効果ガス排出量の速報値を発表した。それによると、2019年度の温室効果ガスの総排出量は12億1,300万トン(二酸化炭素(CO2)換算)で、前年度比2.7%減少し、2013年度比で14.0%減、2005年度比12.2%減だったという。6年連続で前年度を下回り、過去最少を更新したという。

 

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(資料出所:環境省「2019 年度(令和元年度)の温室効果ガス排出量(速報値)」

 

 NHKによると、鉄鋼や機械などの製造業で生産量が減少し、エネルギーの消費量が減ったことや太陽光や地熱といった再生可能エネルギーの利用が拡大したことなどが理由と環境省は説明しているという。

 2050年のカーボンニュートラル達成という目標は、現在の取り組みを続けるだけでは実現するのは難しいと環境省は見ていているという。NHKによれば、今後30年以内に目標達成するには、ライフスタイルの転換や革新的な技術開発が必要だと小泉環境相が述べたという。

 

 

 

 スチールゼロ立ち上がる

 英国のNGO クライメートグループなどが、二酸化炭素(CO2)の排出がゼロの鋼材利用を促進する団体「スチールゼロ」を立ち上げたと日本経済新聞が伝える。2050年までにCO2ゼロの鋼材を100%使うことを目指すという。

 デンマークの洋上風力発電世界最大手のオーステッドの他、需要家8社が参加し、今後は、建設・電力のほか、自動車業界など鋼材利用の多い企業の参加を募るという。

クライメートグループは事業活動で使う電力の全量を再生可能エネルギーで賄うことを目指す「RE100」で知られる。

鉄鋼は世界のCO2排出の7%を占めており、温暖化対策には鉄鋼の脱炭素化が必要と判断した。 (出所:日本経済新聞

 

 「スチールゼロ」は、CO2ゼロの鋼材の市場をつくることで、鉄鋼会社に技術の確立やコスト削減の加速を促す狙いがあるという。

 

www.nikkei.com

 

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日本製鉄は

 ブルームバーグによると、日本製鉄は、国内で自動車用鋼板などの高級鋼を生産する電炉を新設する可能性があることを明らかにしたという。 すでに、兵庫県姫路市の製鉄所に電炉を建設中で、22年の稼動予定で、EV電気自動車用モーターなどに使われる電磁鋼板や自動車鋼板を生産する予定だという。

電炉は鉄鉱石と石炭を原料に鉄鋼を生産する高炉と違い、鉄スクラップを原料として再利用された鉄を生産する。高炉に比べ生産規模が非常に小さく、建設コストも安い。 (出所:ブルームバーグ

 

www.bloomberg.co.jp

 

 鉄はリサイクルのチャンピオンというらしい。鉄スクラップを原料とする電炉での生産が拡大すれば、サーキュラー・エコノミー循環型経済へ近づくし、使用される電力が再生可能エネルギーを利用するようになれば、カーボンニュートラルにも近づく。

 しかし、現実はそう甘くはないのだろう。電炉だけで、鉄の需要をカバーできないのかもしれない。CO2を大量に排出する高炉を使用した鉄鋼生産も続けていかなければならいのだろう。

 

 

 

 「スチールゼロ」はこんな背景も鑑みて立ち上がったのだろうか。石炭、コークスと鉄鉱石を主原料に使う鉄鋼は未だCO2をゼロにする技術は確立されていない。水素還元技術の利用の早期実現が求められるが、鉄鋼メーカからは2050年というターゲットさえ見えてこない。大規模な投資が必要なことも足枷になっているのだろうか。産業界全体での投資負担を求めたいとの発言もあった。

 何かこのままでは、国際的に批判された「石炭」の二の舞にならないだろうか。

 

dsupplying.hatenadiary.com

 

 ブルームバーグによれば、日鉄の宮本副社長が、「国内では電気料金が高いため電炉の生産コストが高くなるなど課題がある」と指摘したという。それは産業界みなが感じていることではなかろうか。自ら率先して、再生可能エネルギー拡大などのアクションを起こす必要があるのではなかろうか。

 自社の業績ベースで話をする時代ではなくなっているように感じる。みなが鉄鋼はどう脱炭素に挑戦するのかを知りたがっているのではなかろうか。

  

 

「関連文書」

dsupplying.hatenadiary.com

 

「参考文書」

www3.nhk.or.jp