米テスラがS&P500に追加されるという。これを受け、テスラの株価が上昇している。TechCrunchによれば、11月20日以降、テスラの時価総額は520億ドル(約5兆4300億円)以上増加し、時価総額は年初から5倍の5150億ドル(約53兆7900億円)にまで上昇しているという。
ガソリン車と原油時代の終焉なのか
ここ最近のニュースを見ていると、テスラ、そしてEVにとっては順風満帆のように見える。
英政府は17日、ガソリン車とディーゼル車の新車販売を2030年までに禁止すると発表した。カナダのケベック州もガソリン車の新車販売を禁じる。
中国なども規制に乗り出しており、電気自動車(EV)など新エネルギー車の普及が進みそうだ。 (出所:日本経済新聞)
ロイターによると、IEA 国際エネルギー機関が、中国の自動車販売でEVが占める割合を2030年までに40%、インドその他の新興市場では20%になると予想しているという。このIEAの予想は「控えめな」シナリオだという。
このシナリオをベースにすると、世界の原油需要伸び率が2030年までに70%縮小し、「原油時代」の終焉が後押しされるとの調査結果をシンクタンクのカーボン・トラッカーが発表したという。
EV時代の到来なのか
2050年のカーボンニュートラルが世界の潮流になっている。日本を含め、既に約120ヶ国が宣言し、来年には米国も宣言するという。次世代エネルギーとして、水素に注目が集まり、水素を燃料とするFCVへの期待も高まる。
一方、テスラのイーロン・マスクは、水素燃料電池を活用するFCVに冷ややかな目を向け、ブルームバーグによれば、今年6月には「燃料電池(Fuel cells)=ばかな売り物(Fool sells)」とツイートしたほどだという。
イーロン・マスクの狙いは何であろうか。警告なのか、それともいつもの口撃なのか。それなりにFCVに脅威を感じるているのだろうか。
今月2日に公表された(中国の)新エネルギー車に関する15カ年計画で、国務院は燃料電池のサプライチェーン構築と水素を動力源とするトラックとバスの開発に軸足を置くことを明らかにした。 (出所:ブルームバーグ)
中国のFCV市場について、トヨタは乗用車よりも、トラック・バスが中心になるとみる。「これは政府の支援を受けた非常に大きなトレンド」と、トヨタのプロジェクトマネジャー吉藤知里氏が述べたとブルームバーグは紹介する。
イーロン・マスクの発言は杞憂なのだろうか。
中国は、2035年を目処に、すべての新車販売を環境対応車にする方向で検討するという。ガソリン車をゼロにし、新エネルギー車(EV、PHV、FCV)を50%にし、HV車が50%とする方針だという。
中国の政策が、EVを含め世界の自動車市場の趨勢を左右することになるのだろうか。
国内 HVが主流か
日本経済新聞によれば、英国の調査会社のLMCオートモーティブは、世界の新車市場におけるHVの割合は20年の7%から30年には26%に上昇すると予測する。
その表れなのだろうか、日産は、新型「ノート」を発表、今後はHVハイブリッド車専用とし、ガソリン車の設定をなくすと表明したという。
日本経済新聞によれば、星野朝子副社長は「日産はゼロエミッション社会をリードするため、電動化に(経営資源を)集中させる。その象徴がノートだ」と述べたという。
一方で、英国は、ハイブリッド車(HV)を排出ゼロの規制をクリアしたもの以外は35年までに販売を禁止するといい、独フォルクスワーゲン(VW)など欧州系の自動車大手はEV対応を急ぐ。
テスラに死角はないのか
脱炭素社会を目指す世界とって水素は次世代エネルギーになり得るのかもしれない。しかし、まだコスト問題など解決すべきも多々あるようだ。FCVは、まずは物流を担う大型トラックから普及が始まるという予測が穏当なのだろうか。乗用車について言えば、その後、水素インフラが整ってからの流れなのであろうか。
(写真:トヨタ)
今しばらくは、減少が予想されるガソリン車の市場をEVとHVで浸食していくことになりそうだ。それでも、2030年時点でまだガソリン車が半数近く残るとの予想もある。
EVとテスラの未来は視界良好のように思われるが、意外なところに落とし穴があるのかもしれない。
ロイターが、「テスラが米誌信頼度で下から2番目に転落」と報じる。それによると、米有力専門誌が発表した自動車ブランド信頼度調査で、テスラは総合ランキングを前回から2ランク落とし、26ブランド中25位となったという。1月に生産を開始したSUVスポーツタイプ多目的車「モデルY」の品質に消費者から厳しい評価が下されたことが影響したという。
モデルYのオーナーからは、車体パネルがうまくはめ込まれておらず、修理が必要とされたことや、塗装の不具合などに苦情が寄せられた。
コンシューマー・リポートの自動車検査担当シニアディレクター、ジェイク・フィッシャー氏は、モデルYの問題がなければ、テスラの総合ランキングがもう2つか3つ上だったと指摘。
新車の信頼度に疑問が出てくるのはよくあることだが、モデルYの場合、塗装やパネルなどごく初期段階で対処しているはずの基本的な問題が出てきたことに驚きを隠せないし、失望を感じると述べた。 (出所:ロイター)
そのテスラが11月24日、「Model Y」のリコールを、米運輸省の全米高速道路交通安全局(NHTSA)に届け出てたという。17日は「Model X」のリコールも届けていたとIT media NEWSが報じる。
Model Yは、ステアリングのボルトが適切に締められていない可能性があるという。また、Model Xは、ルーフの化粧パネルの接続に不備があり、パネルが外れる可能性があるそうだ。
製造上の初歩的なミスともいえそうな内容だ。こうした些細なことと思われることが、信頼を大きく棄損させることもある。
良くも悪くも、今しばらく、テスラから目が離せないのかもしれない。
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