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凋落する鉄鋼 進まぬ脱炭素 そのゴールは何と「2100年」

 

 国が2050年のカーボンニュートラルを宣言した。

 鉄鋼は、国内製造業の中で最も多くの二酸化炭素を排出する産業だ。否応なしにその行動に注目が集まる。

 ロイターによれば、政府は2050年までに温暖化ガス排出量を実質ゼロとする目標に向け、「エネルギー分野や鉄鋼・化学などの産業分野でも革新的なイノベーションが推進され、製造工程の大きな転換が必要」との認識を示したという。

 

jp.mobile.reuters.com

 

 

 

資源最大手のBHPと中国宝武鋼鉄が目指す脱炭素

 豪英資源大手のBHPグループが、中国最大の鉄鋼メーカー中国宝武鋼鉄集団の「脱炭素化イニシアチブ」に資金を提供する契約に署名したと発表した。

 日本経済新聞によれば、BHPが今後5年間で3500万ドル(約36億円)を投じるという。

両社は宝武の製鉄所でCO2を回収して地中に貯留したり、別の製品の原料として再利用したりする「CCUS」(回収・利用・貯留)技術の研究・開発を行う。

石炭の代わりに水素で鉄鉱石を還元し、CO2の排出量を実質ゼロにする技術の開発でも協力する。 (出所:日本経済新聞

 

www.nikkei.com

 

 BHPは、2050年までに「CO2のネットゼロ」になるという目標を公表、2030年までに自社事業からのCO2排出量を30%削減するという具体的な目標を設定している。これには、「スコープ3」での30%削減も含まれているという。つまり、客先工程でのCO2削減にも取り組む必要が生じる。自分たちが生産、供給する鉄鉱石と石炭を利用する鉄鋼産業の温室効果ガスの排出削減に協力することが、自分たちの目標達成につながるというわけだ。

 こうしたことが、今回の契約の背景にあったのだろうか。

 そして、そのパートナーに、日本の鉄鋼ではなく、世界最大の鉄鋼メーカ 中国の宝武鋼鉄集団を選んだ。しかも、5年間という時間枠を区切って技術開発を進めるという。覚悟の表れなのかもしれない。

 

www.smh.com.au

 

 脱炭素に向けたスマートな協力関係といえそうだ。なぜ、BHPは中国メーカを選んだのだろうか。世界最大ということだけが理由だったのだろうか。協力は1社だけの思いでは成立しない。相手があり、相互の理解があってはじめて成立するものだ。

 日本の鉄鋼産業ももっと資源会社と良き協力関係を作っていくべきではないであろうか。

 

 逆風なのか、それとも好機なのか

「2100年」を見据えた壮大な技術開発の一里塚を、いま私たちは目の当たりにしているのかもしれない」とニュースイッチはいう。

 世界各地で開発が始まった「水素還元」と呼ばれる技術が、地球温暖化対策の切り札として有望視されているという。

製鉄の上流工程にあたる「高炉」では鉄鉱石中の酸素を取り除くため、石炭を蒸し焼きにしたコークスが使われるが、その反応過程でCO2が発生する。このコークスの役割の一部を水素に置きかえれば発生するのはCO2ではなく水になる。 (出所:ニュースイッチ)

 

 

 

 日本製鉄の他、JFEスチールなど民間4社と国が進める官民プロジェクト「COURSE(コース)50」の試験高炉が、日本製鉄の千葉県君津市の製鉄所にあるという。中核技術である「水素還元」を活用し、CO2を分離・回収する技術を組み合わせることでCO2排出量30%削減を目指しているという。

 

newswitch.jp

 

 ここでの知見を活用し、鉄鋼業界は「2100年までにCO2排出ゼロ」の達成を目指すそうだ。「水素でつくる鉄」「ゼロカーボン・スチール」がそのゴールになる。しかし、まだ課題もあるとニュースイッチは解説する。

最大の課題は水素の調達である。

水素還元技術が実用化されれば、コークス炉由来水素だけでは当然、生産量を賄えない。水素は自動車や民生など幅広い産業分野で利用されることからも「社会共通基盤のエネルギーキャリアとして開発、整備されていることが前提となる」(日本鉄鋼連盟)。

とりわけ基礎素材である鉄鋼製造に利用される水素は、安定した供給体制、経済合理性が欠かせない。 (出所:ニュースイッチ) 

 

 随分と悠長なことを言ってはいないだろうか。

 国費税金を使った技術開発で、さらに税制面での優遇も検討されそうだというのに、あれこれと言い訳をして、無理難題を押しつけ、意図的に遅らせようとしたりしてはいないだろうかと勘ぐってしまう。

 

 

 

 

 「鉄は国家なり」と豪語した国内鉄鋼も高度成長期のような勢いはなく凋落が続く。

 日本経済新聞によれば、中国の鉄鋼は、国有企業の再編と設備投資で巨大化し、世界の粗鋼生産に占める比率が2019年には53%まで拡大したという。一方、2020年の国内粗鋼生産量は前年比17%減の8217万トンとなり、2009年の8753万トンを下回り51年ぶりの低水準に落ち込む見通しと日経ビジネスが伝える。

 そうした中、日本製鉄は粗鋼生産能力を7000万トンから1億トンまで引き上げる目標を掲げるという。「東南アジアでのM&Aも選択肢の一つ」とし、一貫製鉄所の買収に意欲をみせていると日本経済新聞が伝える。苦境にあるから、M&Aで挽回を図ろうというのだろうか。

 何か違和感を感じる。税金を使って脱炭素化技術を開発するが、そのゴールは今から80年後の2100年だという。それで世界から遅れることはないのだろうか。

 何か優先順位が違っていないだろうか。規模を追いかけることより、今やらなければならないことがあるように思う。自社の論理が世界の論理ではない。もっと真摯に市場に向き合うべきだろう。

 

 

「関連文書」

r.nikkei.com

 

business.nikkei.com

 


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