新しい内閣が誕生した。この先、社会の雰囲気を含め変化は起きるのだろうか。
新しく首相になった菅氏は秋田県湯沢市の出身と聞く。昨日の会見でも、「地方を大切にしたい、日本の全ての地方を元気にしたい、こうした気持ちが脈々と流れております」と話し、地方への思いを語る。
秋田湯沢が原点 菅新首相 = ロイター
菅新首相の出身地秋田湯沢をロイターがレポートする。
百貨店の大きなビルは、耐震基準に合わずに使われなくなったが取り壊すにもコストがかかるため放置されている。
駅からほど近い、「I Love YUZAWA(湯沢が大好き)」と壁面に書かれた建物にも人は見当たらない (出所:ロイター)
記事は外国人記者が書いたようだ。海外向けに発信される記事を日本語に翻訳したのだろうか。
「湯沢市は、冬になると2メートルの雪が積もる豪雪地帯でもある。そんな街で生まれ育ったということが、世襲や裕福な家庭の出身者が多い日本の政界の中で、「叩き上げ」という菅氏のイメージを際立たせる」とロイターは菅氏の背景を語る。
そして、それは外国人観光客の誘致、農協改革、ふるさと納税という形で菅氏の政策にもつながっているとも紹介する。
看板政策のふるさと納税が始まったのは2008年だが、「(その)はるか前から話をしていた」と、総務官僚として菅氏のもとで働き、のちに事務次官になった岡崎浩巳氏は振り返る。
「自分は秋田で高校まで育って世話になっているのに、上京してから一銭も(故郷に)納税していないのはおかしい。何か仕組みはないだろうか、と」。 (出所:ロイター)
自助・共助・公助、そして絆
改めて会見内容を確認してみた。
私が目指す社会像、それは、自助・共助・公助、そして絆であります。
「まずは自分でやってみる。そして家族、地域でお互いに助け合う」。「その上で政府がセーフティーネットでお守りをする」と、菅首相はそう語った。
何か新鮮さを感じた。長く続いた政権では、繰り返し「経済再生」「経済再生」と聞かされ、代り映えしない政策にうんざりしていた。そうしたことにも終止符が打たれたような気がした。
新内閣は、前の政権の政策を引き継ぐという。大きな政策転換は期待できないのかもしれない。それでも、コロナ対策を優先させ、「欧米諸国のような爆発的な感染拡大は絶対阻止をし、国民の皆さんの命と健康を守り抜きます」といい、その上で社会経済活動との両立を目指しますと優先順位をはっきりさせた表現で、前政権との違いを際立たせた。
空前絶後の経済対策などと大言壮語を言わずに、「年初来の新型コロナウイルス対策の経験をいかして、めりはりの効いた感染対策を行い、検査体制を充実させ、必要な医療体制を確保します。来年前半までに全ての国民の皆さんに行き渡るワクチンの確保。これを目指しております」とコロナ対策を重ねて伝え、安心感を与えようとしたのだろうか。
コロナ対策に続いて、経済対策を説明する。まずは足元の危機を乗り越えた上で、「ポストコロナの社会の構築に向けて、集中的に改革をし、そして必要な投資を行い、再び強い経済を取り戻したい、このように考えます」と話す。
信念 国民のために働く内閣
新型コロナウイルスで浮き彫りになった問題点を整理、優先順位をつけたのだろうか。デジタルとサプライチェーンなどの見直しに言及し、オンライン診療の継続性とポストコロナにおける子供教育のためにGIGAスクールを推進するという。
とりわけ行政のデジタル化については力点が掛かっているのだろうか、マイナンバーカードの普及が鍵とし、デジタル庁を新設、今後できることから前倒しで措置するとともに、複数の省庁に分かれている関連政策を取りまとめて、強力に進める体制とするとした。
また、ポストコロナにあっても、引き続き環境対策、脱炭素化社会の実現、エネルギーの安定供給もしっかり取り組むとした。
少しばかり安堵する。
菅首相は、会見の最後に「国民から信頼される政府を目指していきたいと思います」。「そのためには行政の縦割り、既得権益、そして悪しき前例主義、こうしたものを打ち破って、規制改革を全力で進めます」と語った。
私は、常々、世の中には国民の感覚から大きくかけ離れた数多くの当たり前でないことが残っている、このように考えてきました。
省庁の縦割りによって、我が国にあるダムの大半は洪水対策に全く活用されていなかった事実、国民の財産の電波の提供を受け、携帯電話の大手3社が9割の寡占状態を長年にわたり維持して、世界でも高い料金で、20パーセントもの営業利益を上げ続けている事実、他にもこのような当たり前でない、いろいろなことがあります。
それらを見逃さず、現場の声に耳を傾けて、何が当たり前なのか、そこをしっかりと見極めた上で、大胆に実行する。
これが私の信念です。
今後も揺らがず行っていきたいと思います。
(出所:首相官邸公式ページ)
その上で、「国民のためになる、ために働く内閣をつくります」と語りかけ、「国民のために働く内閣、そのことによって、国民の皆さんの御期待にお応えをしていきたい」という言葉で結んだ。
信念の人 鉄の女 マーガレット・サッチャー元英首相
信念を語る政治家として、マーガレット・サッチャー元英首相を思い出す。初めての英国での女性首相となり、鉄の女と呼ばれた。当時の英国は、「ゆりかごから墓場まで」と呼ばれる社会保障制度などにより国民の勤労意欲が低下、経済が停滞し、「英国病」と揶揄されていた。その英国病と闘い、停滞した経済を立て直しイギリス繁栄の基盤を築いたといわれる。
「私は意見の一致を求める政治家ではない。信念の政治家だ」(1979年)
「不一致あるところには調和を、誤りあるところには真実を、疑いあるところには信頼を、絶望あるところには希望を」(1979年の選挙に勝利し、アッシジの聖フランチェスコの祈祷文を引用して)
(出所:ロイター)
「リーダーは好かれなくてもよい。しかし、尊敬されなくてはならない」、と言ったのもサッチャー氏だ。新首相もそんなリーダーになればいいのかもしれない。
基本方針
記者会見に続き16日夜、初閣議が開かれ、「基本方針」他を決定したという。
基本方針は、記者会見で話された5つの項目からなり、同じく記者会見で菅首相が話した「目指す社会像」が反映される。
新型コロナウイルス感染症や激甚化する自然災害など、かつてない難題が山積する中、「政治の空白」は決して許されない。国民の皆さんが安心できる生活を1日も早く取り戻すため、安倍政権の取組を継承し、更に前に進めていく。
我々の目指す社会像は「自助・共助・公助、そして絆」であり、その認識の下、地方の活性化、人口減少、少子高齢化をはじめ山積する課題を克服していくことが、日本の活力につながるものと確信している。
そのため、行政の縦割りや前例主義を打破して、既得権益にとらわれずに規制の改革を全力で進める「国民のために働く内閣」をつくり、国民の期待に応えていく。 (出所:首相官邸公式ページ)
前政権で、「経済再生」ということを名目にした総花的な政策が整理されたように感じた。もしかして、「当たり前でないこと」は前政権が生み出したりはしていないだろうか。
基本方針からは「経済再生」という文言が消えた。
経済は前進していたということなのだろうか。次の段階に進むべきということなのだろう。