今年の世界経済フォーラム ダボス会議の話題は「気候変動」一色になった。「気候変動」が確実に意識されるようになってきている。
世界最大の資産運用会社ブラックロックが運用方針を変え、気候変動問題を投資戦略の中心に位置付けるとした。
ブラックロックが発行した年次書簡が産業界をざわつかせた。
「気候変動は企業の長期見通しを決定付ける要素になった」
「意識は急速に変化している。金融の形が根本から変わる局面は、すぐそこに来ている」
とブラックロック最高経営責任者(CEO)のラリー・フィンク氏が宣告したとブルームバーグが伝えた。
ロレアル、ソニーは、環境問題に熱心に取り組む企業のひとつに上げられることが多い。こうした企業は、「気候変動」や「SDGs」をどのように企業活動の活かしているのだろうか。
大手企業も関心を寄せる「気候変動」と「CDP」
ESG投資に関心が集まるようになった。メディア各社のESG投資関連報道も増え、そうした記事を目にする機会が増えた。こうした潮流が企業にも意識の変化を促す。真面目にCSR活動に取り組んできた大企業にも変化の兆しが現れている。
大企業がこぞって「CDPの評価結果」に関するプレスリリースを発行、自社の環境対応をアピールするようになってきた。
ソニーも「CDPの評価結果」に関するプレスリリースを発行している。
「CDPが主催する気候変動の調査において最高評価を5年連続獲得」
2050年までに自社の事業活動および製品のライフサイクルを通した「環境負荷ゼロ」達成に向けて、2016年度から2020年度までの環境中期目標「Green Management(グリーンマネジメント)2020」の施策に取り組んでいます。
2018年度の気候変動に関する主な取り組みの実績は、以下の通りです。
また、ソニーは環境負荷ゼロに向けて「RE100」に加盟しており、2040年までに自社の事業活動で使用する電力を100%再生可能エネルギーにすることを目指しています。さらに、2019年5月に「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)」の提言へ賛同するなど、気候変動関連情報の開示拡充も進めています。(出所:ソニープレスリリース)
CDPとは何か
CDPとは(旧名:カーボン・ディスクロージャー・プロジェクト)、英国籍の国際NGOで、投資家等の支援を受け、民間企業を対象とした気候変動や水資源管理、森林、サプライチェーンなどの調査を実施、格付結果を公表する。
調査は、機関投資家525社を代表して実施され、全世界で8,400社以上が対象になる。
従来の「株主第一主義」が否定され、現在は「ステークホルダー資本主義」へとシフトが進むが、上場企業であれば、株主、投資家の意向を意識せざるを得ない。
ブロックロックのような投資家が「気候変動」で企業の長期見通しを評価するようになるのであれば、投資家からも信任の厚いCDPのような第三者機関による評価・格付が重要性を増す。
CDPによれば、2019年は情報開示した企業が前年比で20%の大幅な増加、報告企業は世界の時価総額の50%以上を占めているという。
(資料出所:CDP)
そのCDPは、「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)」を重視するようになり、企業に送付する質問状を見直し、TCFDに関わる事項を追加した。
TCFDとは何か
TCFDとは、「気候変動関連財務情報開示タスクフォース(Task Force on Climate-related Financial Disclosures)」のことで、G20の要請を受け設立された。
TCFDは、企業等に対し、気候変動関連リスク及び機会に関する項目、「ガバナンス」、「戦略」、「リスク管理」、「指標と目標」について開示することを推奨する。
世界全体では金融機関をはじめとする983の企業・機関が賛同を示し、日本では228の企業・機関が賛同の意を示しているという。(参考:TCFD)
CDPのCEOポール・シンプソン 氏は日経BPのインタビューで
「すべての企業、すべての投資家、そしてすべての政府は、2020年までにTCFD提言に精通すべきだと考えています」
と指摘する。
企業が長期気候シナリオに基づく分析の成果を事業や戦略に統合すること、また資本市場においてこうした気候戦略を統合した経営の情報開示が主流となることは、世界の金融市場の安定化はもとより、持続可能な低炭素型の投資と社会への移行を加速し、気候変動の緩和につながります。(出所:日経BP)
先駆的な企業のひとつ ロレアルの事例
企業は、「気候変動」や「SDGs」を単なる貢献活動でなく、事業に関連づけた戦略を求められている。
ロレアルは、CDPスコアの対象となる「気候変動」、「水」、「森林」の3つの環境課題に関して「A」リストの評価を獲得したという。この3つの課題すべてで「A」リストの最高ランクの評価を得たのは、評価対象の8,400社のうち、ロレアルを含めわずか6社であったという。
「科学者が強く求め、地球が抱える課題に対応すべく、これまでの努力を継続するとともに、環境への影響をさらに低減していきます。これはロレアルの倫理的な企業姿勢と、長期的成長のために不可欠な条件なのです」とロレアルの会長兼CEO、ジャン-ポール・アゴンとコメントしたという。
「気候非常事態、森林破壊、水不足が企業活動に与えるリスクは膨大であり、また、このような問題に対処することで生まれる機会も膨大です。民間部門がこのような難しい時期に重要な役割を果たすべきであることは明白です。」
とCDPのCEO、ポール サイモン氏は語る。
まとめ すべての企業、政府にも求められている
「気候変動」によって激甚化する自然災害、人類が築き上げてきた文明による弊害であろう「海洋プラスチックス」問題が顕在化、市民が地球環境の危機を強く訴え、国連でもこうした問題が重要なテーマになった。
「パリ協定」などの国際的な枠組が立ち上がったが、それでも、地球環境の劣化は続き、「気候危機」とまで言われるようになった。
こうした状況下で、CDPなどの国際NGOが各界からの要請を受けて、この難題に、最前線で果敢に挑戦を続けている。
そのCDPは、日本政府にも「温室効果ガス排出削減目標の引き上げ」を求めた。
世界の機関投資家などでつくる6グループが連名で、安倍晋三首相に日本の温室効果ガス排出削減目標の引き上げを求める提言をまとめ、関係者が21日、東京都内で記者会見した。運用資産総額は数百兆円に上り、日本に対策強化を求める国際圧力が強まっていることが示された。 (出所:東京新聞)
この提言はCDPなどによって作成されたという。
「日本が目標を据え置くと、強化を検討している他の国に悪影響を与える。投資家や企業を地球温暖化対策に導くために引き上げは重要だ」
とCDPジャパンの森澤充世氏が述べたそうだ。
先駆的に取り組み大企業ばかりでなく、すべての企業がCDPやTCFDに精通して行く必要があるのかもしれない。
中小企業版「RE100」にあたる「再エネ100宣言 RE Action」が国内で立ち上がっている。そうしたことに積極的に関わることが求められているのかもしれない。
「RE Action」とは、企業、自治体、教育機関、医療機関等の団体が使用電力を100%再生可能エネルギーに転換する意思と行動を示し、再エネ100%利用を促進する新たな枠組み。
RE100年次報告書(The Climate Group / CDP)
「気候変動」や「SDGs」に取り組む環境が整いつつあるように見える。
SDGsやサスティナビリティは、マーケティングに活用することだけではない。事業に組み入れることが求められている。
すべての企業、政府や地方自治体がこうした活動に参加することが求められている。
「関連文書」
「参考文書」