いつからか地球温暖化が気になるようになっていた。山に登っていた頃、天気図を書いて、自分たちで気象予報をやっていたことが影響しているのかもしれない。
ここ最近続発するようになった異常気象を思うと、やはり温暖化しているんだろうと肌感覚でわかる。皆で、サステナビリティ、持続可能な社会を目指し、イノベーションを進めていけば、温暖化抑制ができるんだろうと考えていたけど、ずいぶんと甘い考えだったのかもしれない。
よく耳にするようになった「気候変動」のことを理解しようと調べてみると、「気候危機」と言われることが分かるし危機感も募り始める。
昨年の台風被害を見て強くそう感じたけど、この暖冬での被害をみれば、ほんとうに「気候危機」が私たちの生活を変化させるほど大きなリスクであることを痛感させられる。
(資料出所:気象庁)
この暖冬で、野菜価格が下落、大きくなり過ぎた野菜の廃棄処分が連日報道され、極度な雪不足でスキー場が営業できないとか、冬服が売れないとか、暖房器具も売れないとその被害が産業界全体に広がっている。
もしこのまま暖冬が常態化してしまうと、社会に大きな影響があると気づく。
暖冬で成長が早まって、収穫が間にあわずに規格外となる大量の野菜、これ以上気温が高くなると、食糧危機が起きてしまうのではと想像してしまう。野菜の見栄えとか言っている場合でなくて、規格外の野菜も流通させたほうがいいのではと思う。そもそも野菜の規格とは何ぞや。
国は、スマート農業を推し進めようとするけれど、異常気象が常態化したとき、スマート農業だけで、食糧の安定調達は保証できるのかと疑問を感じてしまう。
こうしたことは農業だけのことでなくて、すべての産業において同じではないであろうか。
「気候変動」について、国連を中心にして様々な議論がなされ、色々対応策が打ち出されている。「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」、「パリ協定」、「責任銀行原則」に「TCFD」、これに加え、国際NGOが立ち上げる「SBT」や「RE100」などのイニシアティブに、CDPレポートなどなど。それぞれが一応に「気候危機」への対応とは理解するものの、ハードルも高く、企業は対応しきれないのではと感じたりもする。
でも、この暖冬を思うと、今、企業が何かアクションを起こさないと、将来が危うくなりそうだ。
国連で議論されることは、インパクトの大きいメガ企業向けが中心かもしれないが、気候変動によって生じるリスクは、どの企業にも等しく襲い掛かってくるのは間違い。
この暖冬がそのことを教えてくれている。売れない冬服や暖房器具、野菜価格の下落、もっと影響を受けている産業があるかもしれない。
気候変動対策には、「緩和」と「適応」があるという。
「緩和」は、原因となるCO2など温室効果ガス排出を抑制することを求める。もう1つの「適応」は、既に起こりつつある、あるいは起こりうる地球温暖化の影響に対して、自然や社会のあり方からアプローチし調整すると、環境省は説明する。
「適応」の具体例として、温州みかんの品種改良の事例を説明する。
『秋から冬にかけて高温・多雨で推移することで、果皮と果肉が分離する浮うきかわ皮の発生が報告されています。浮うきかわ皮防止対策としては、摘果方法の改善や「石地」などの浮皮の発生が少ない品種の利用も進んでいます』(出所:環境省)
アパレル業界には、8シーズンMDがあるという。1年間を梅春(おおよそ1~2月)、春(同3~4月)、夏(同5~7月上旬)、初秋(同7月下旬~8月)、秋(同9~10月)、冬(同11~12月)といったシーズン分けしているという。
WWD Japanは、「今の時代に、このシーズン区分けに共感するような消費者は皆無だろう」と指摘する。
「日本の長い夏」――アパレル各社は今、まさに「日本の長い夏」問題に頭を悩ませている(出所:WWD Japan)
1~2月はまだ冬、3~4月が春、5~9月が夏、なんなら10月までが夏、11~12月が秋ぐらいの認識が一般的だ。この、あまりにも消費者感覚とズレた既存のMDカレンダーが、アパレル各社の苦悩の象徴となっている。
(出所:気象庁)
「土用波」が立ち始める晩夏、お盆を過ぎると、こんなことが言われていたのはもうだいぶ前のこと。35℃を超える猛暑日が連続することが普通になり、肌感覚でも、長くなった夏が分かる
温暖化の影響なのだろうか。四季の長さが変化しているのかもしれない。こうした現実に合わせて、業界常識を見直すことも「適応」のひとつかもしれない。
昨年9月、日本のメガバンク4行を含む世界の金融機関130行が、『国連責任銀行原則』に署名した。この原則は6つからなり、そのうちのひとつに「SDGsとパリ協定が示すニーズや目標と経営戦略の整合性を取る」(出所:日本経済新聞)とある。
銀行がこの原則に従えば、資金融資を受ける取引先も同様に、SDGsやパリ協定の遵守を求められるようになる。もし、遵守できなければ、融資を受けられないことになる。現実、ダイベストメントとして石炭業界から融資の引き上げが起きている。
日刊SPA!が、このことの身近な事例を伝える。レジ袋や包装関連のプラスチック業界でもダイベストメントが起きているという。
『責任銀行原則に対応できない零細企業などは資金調達もできず、淘汰されるしかない』
レジ袋などの包装用プラは地球温暖化への影響が大きいといわれ、レジ袋の有料化が決まった。スーパーなど小売り業界では、気候変動への「適応」策になるかもしれないが、レジ袋の流通量が減れば、その影響を受ける企業が必ず生じる。
ひとつの業界だけではなく、どの企業も等しく気候変動への適応を考えないといけないのかもしれない。
こうしたことを防ぐには「TCFD」が参考になるのかもしれない。「TCFD」とは、気候関連財務情報開示タスクフォースの略称で、「気候変動は、企業経営にとって明確なリスクと機会になりうる」という。その上で、企業には、気候変動によるリスクと機会、財務情報の開示を求める。
金融機関は「責任銀行原則」に従い、TCFDに沿った情報開示を求める。今、こうしたことが現実に起き始めている。
TCFDに沿った企業の開示情報をもとに格付けを行なう国際NGOのCDPは、先頃、「気候変動レポート」を発行、格付け結果を発表した。「2019年の調査対象企業は世界で約8,000社。その中で、世界で179社、日本企業は国別最多の38社が、最高評価であるAリストに選定された」と環境ビジネスオンラインが伝える。
こうした動きが大手企業ばかりでなく、徐々に拡大していくかもしれない。気候変動に対する「適応」の検討を早々に始めるべきであろう。
CDPジャパンが「再エネ導入促進策の強化、温室効果ガス排出削減目標の引き上げや炭素税の導入など」を日本政府に求めていると東洋経済オンラインは伝える。
米アップルも、気候変動の「緩和」と「適応」に熱心に取り組み、CDPレポートの「Aランク」に属する企業のひとつだ。アップルは、自社で使用する電力をすべて再生可能エネルギーに切り替え、クパチーノにある米本社を始め自社敷地内に太陽光パネルを設置、自家発電を増やし、取引先にも再エネ利用を促す。
こうした潮流に乗れないと、「世界的なサプライチェーンから外される懸念もある」と東洋経済オンラインは指摘する。
こうした動きで、業界標準が変わり、企業のマーケティングが変わり、私たちの消費も変わっていくのかもしれない。今、そうしたことが起こりつつある。
●環境省発行
TCFDを活用した経営戦略立案のススメ ~気候関連リスク・機会を織り込むシナリオ分析実践ガイド~
●TCFD
●責任銀行原則
「参考文書」