Into The FUTURE

未来はすべて次なる世代のためにある

もうCSRではない 「脱プラ」「脱炭素」で動き出しているイノベーション

 

  ここ最近はこれといったイノベーションネタが少なくなってきていないだろうか。

 5GやIoT、AIの社会実装が始まれば、何か新しい動きがあるのだろうか。景気減速の影響もあるのか、気をひくテクノロジー開発が少ないようにみえる。

 一方で、SDGsや気候変動、脱プラなどの社会課題が注目され、従来の大量生産、大量消費からの変革が求められるようになってきた。こうした動きはヨーロッパ諸国で顕著に見られる。

 

 

 国もヨーロッパ動向を気にしているのだろうか、政府系機関から多くのレポートが発表されている。その中のひとつに、NEDO:国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構の欧州事務所が発行する『欧州の研究・イノベーション動向 』というレポートがある。

 このレポートは、「欧州委員会の新体制と今後の重要アジェンダ」「欧州のイノベーション政策」「スタートアップ政策」からなり、ヨーロッパにおける動向を解説する。

  

 

欧州委員会の新体制と今後の重要アジェンダ

 昨年12月、フォン・デア・ライエン氏が女性初の欧州委員長となり、新体制が発足、今後の重要アジェンダを発表した。このアジェンダの中で最重課題となるのが「欧州グリーンディール戦略」、これは環境問題への対応策であるともに成長戦略との位置づけになっているという。

 

・カーボン・ニュートラル目標を含む「欧州気候法」の提案やエネルギー税制の見直し、炭素国境税の導入や再生可能エネルギー規定等関連規定の見直し等からなる「温暖化対策目標の引き上げ」

 ・EU産業戦略(デジタル、グリーン)やサーキュラー・エコノミー・アクションプランの作成、持続可能なスマートモビリティ戦略の作成から「クリーン・サーキュラー・エコノミーに向けた産業政策」.

・タクソノミーに基づく気候・環境関連データの開示などからなる「投資支援、ファイナンス等」

 

 

 また、デジタル政策は、「AI、IOT、5Gの促進と標準・規制枠組み」、「デジタル変革とサイバーの促進」、「教育とスキルを通じた市民のエンパワーメント」からなる。
 

欧州のイノベーション政策

 直面する社会課題への対応、従来とは異なる価値観を提示しつつ国際競争力の強化を図るとした「Horizon Europe」と呼ばれる多年次財政枠組みの議論が進んでいるという。

「社会課題・産業競争力」を強化する”Co-Creation” & ”Co-Design”のプロセスを重視、プログラム策定過程で、市民を含むステークホルダーを積極的に巻き込んでいくという。

 これに加えて、スタートアップの育成支援のため「欧州イノベーション・カウンシル(EIC)」を設立、このEICでも、国際協力の強化、官民パートナシップ、オープンサイエンスの原則化が重視される。

 注目すべき関連動向として、「エネルギー(バッテリーと水素)」、「サーキュラー・エコノミー(循環経済とプラスティック戦略)」、「デジタル(AIと量子技術)」を上げる。

 欧州では、タクソノミーや個人情報を保護する規定など、重要な社会価値を守るための基準を積極的に作成、欧州のみならず国際的にも大きな影響を及ぼすとNEDOは指摘する。

 

スタートアップ政策

 スタートアップ政策は、イノベーション・コミュニティを作り、 重点8分野ごとに、教育、研究、ネットワークの支援を実施するとNEDOは報告する。重点8分野とは、都市交通、製造業、原材料、エネルギー、健康、食料、デジタル、気候。

 

 

 主なサポート領域としては、エネルギー貯蔵、再エネ、省エネ、スマートグリッド等があり、300近くのスタートアップが合計2億ユーロの投資を受けていると指摘もする。

 また、低炭素技術向けイノベーション・ファンドもあり、資金規模100億ユーロ(約1.2兆円)の基金で、革新的な低炭素技術、CCUS(CO2貯蔵)、革新的な再エネ、エネルギー貯蔵、分野横断的な技術(ビジネスモデルイノベーション含む)が対象となるとNEDOが報告する。

 

NEDOのまとめ

・深刻化する社会課題、国際競争力への危機感の現れから、欧州ではトップダウンで定めた方向性(温暖化目標等)を踏まえつつ、社会変革を目指した研究・開発・イノベーション政策を重視・強化。


最重要課題は「気候変動」と「サーキュラエコノミー」。加えて、デジタル技術も社会変革をもたらす横断的な技術として重視。技術的主権の確保と社会への影響・倫理を重視


特徴的な新しい手段として、プログラム検討過程からステークホルダーを巻き込むCo-Design/Co-Creationのアプローチと国際連携の強化

(出所:NEDO

 

『欧州のイノーベーション政策動向も参考にしつつ、日本のイノベーション政策の強化やイノベーション分野での日欧連携を検討してはどうか』と提言する。

 

サーキュラー・エコノミーとは

 EUが最重要課題と位置づけるのは、「気候変動」と「サーキュラー・エコノミー」。気候変動は国連でも議論され、関心は高くなっている。 

 もうひとつの最重要課題サーキュラー・エコノミーは、「資源の利用を削減、物質を循環させ、製品寿命を延長する」。  

 これは、バリューチェーン全体におけるビジネスモデルの改革を意味し、循環型サプライチェーン、サービス共有型経済、製品寿命の延長、回収・再利用モデルの再構築を求める。

 

 

 

  サーキュラー・エコノミーは、消費者の理解、協力なくして実現はありえない。それを可能にする政策や制度の見直しも必要になる。

 政府、消費者を含むすべてのステークホルダーが協力し、新たなテクノロジーを開発し、ビジネスモデルを変革、サーキュラー・エコノミーという価値を共有していく。

  EUは「サーキュラーエコノミー・アクションプラン」をすでに採択した。

 

 

  今までの大量生産、大量消費社会を否定され、循環型社会への移行が進めば、間違いなく破壊的なイノベーション、大変革が起きる。

 

アップル 他のサーキュラー・エコノミーの実例

 このサーキュラー・エコノミーをEUとともに推進するのが、英エレン・マッカーサー財団。この財団の呼びかけで始まった国際イニシアティブ「CE100」には、アップル、マイクロソフト、グーグル、IBMDELLなどの企業も名を連ねる。

   アップルは、Trage Inというプログラムを開始し、アイフォンなどの製品の回収、2次利用をはじめている。サブスクサービス導入との噂もあり、仮に導入となれば、製品回収はさらに進む。

  

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www.apple.com

 

 TechCrunchによれば、Appleは、2018年には780万台を超えるApple製品を改修して整備済製品として販売したという。4万8000トン以上の電子部品が再利用され、従来、廃棄されていたものが資源になった。

 Apple Trade Inプログラムを利用して回収されたアルミニウムは、MacBook Airのボディとして再利用されるという。 

 

先進的なリサイクルは、電子機器のサプライチェーンの重要な構成要素となるはずです。Appleはこの業界を前進させるための新しい道を切り開いています」と、Appleの環境、政策および社会的イニシアチブ担当副社長のLisa Jackson氏は、声明の中で述べている。(出所:TechCrunch)

 

  アップルはこうしたリサイクルに利用する設備にも投資を行なう。米オースチンに、Material Recovery Labを開設すると発表し、「学界の協力も得て、リサイクル業界としての課題解決の策を探ることになる」とTechCrunchは伝える。

 

jp.techcrunch.com

 

 IBMも「CE100」に参加、ブロックチェーン技術を使って、廃プラ回収に協力をする。  

www.mugendai-web.jp

 


ブロックチェーンの保証でプラスチックごみが新たな通貨に

 

すでにこうした取り組みが、実際に運用されている。「プラスチック・バンク」によって、回収された海洋プラスチックが、SCジョンソンのプラスチック容器の材料となって再利用される。  

・509か所にプラスチック回収拠点を設置し、3年間で30,000トンのプラスチックごみを回収する。つまり、約15億個のプラスチックボトルが海に投棄されるのを防ぐことになる。
このパートナーシップは、リサイクル率を上げると同時に、ブロックチェーン技術を採用して経済的、社会的な利益を創出することで、人々の暮らしを変革するのが狙いです
・Plastic Bankが収集したプラスチックの再生素材、Social Plastic®を100%製品ラインに取り入れる初の企業として、2020年2月に米国とカナダのWindex®ラインから導入を開始する。(出所:SCジョンソン プレスリリース)

   


プラスチックバンク共同設立者ショーン・フランクソン氏インタビュー

www.scjohnson.com

 

 CE100などに加わるこうした先駆的な企業は、規模の大小を問わず、サーキュラー・エコノミーがもたらす機会をすでに把握し、競争上優位に立てるようビジネスモデルを確立している。 

 

インドネシアでプラスチック回収業者と通りを歩いているフィスク・ジョンソン氏

まとめ

 今までイノベーションはひとつの業界から起き、時間経過とともに他の産業へと波及していった。

 テクノロジーによるイノベーションではなく、ビジネスモデルによってイノベーションを興そうとしているのが、サーキュラー・エコノミーなのかもしれない。すでに確立しているテクノロジーを活用して、他業界や市民を巻き込みながらイノベーションを興す、事例をみると、そうしたサーキュラー・エコノミーの実態がうかんでくる。

 アップルやIBMの事例の他にも、アパレルメーカや消費財メーカー、飲料メーカなどCE100に参加する企業は、同じように環境団体などを巻き込み、市民と対話しながら、プロジェクトを進めている。

 先日、マイクロソフトが発表したCO2ネガティブなども、その実例かもしれない。

 

 先に開催された世界経済フォーラム ダボス会議の模様をNHKが伝える。

 

www3.nhk.or.jp

 

取材担当記者が『環境への貢献では日本にアピールできる部分もあるはずなのに、ダボスでの存在感は思った以上に低かった、というのが率直な取材実感です』と肌感覚で伝える言葉が印象的だ。

 

 脱プラや脱炭素はもう社会的責務CSRではなくなった。欧州ではそれをビジネスに変えている。そこには、もう多くのグローバル企業が参加している。

 

 

 

「参考文書」

欧州の研究・イノベーション動向

EU のサーキュラー・エコノミーに関する調査報告書

www.ibm.com