Into The FUTURE

未来はすべて次なる世代のためにある

脱プラに脱炭素、SDGs グリーンイノベーションの陰

 

 2019年を振り返ってみれば、脱炭素化脱プラが一気にムーブメントになった。スタバなどからグローバル企業がプラスチックストロー廃止を宣言すると瞬く間に、世界中に広がり、レジ袋の有料化やペットボトルリサイクル問題などへ波及していった。

 9月、国連での小泉環境大臣のセクシー発言が話題になり、 スペインマドリードで開催されたCOP25でも、その発言に注目が集まり、国際NGOからは不名誉な「化石賞」までいただいた。脱炭素化に注目が集まるようになった。

 そうした流れを総括するように昨年末に東京都が「気候危機行動宣言」を表明、「ゼロエミッション東京戦略」を公表し。脱プラ、脱炭素路線が明示された。

 発表した小池東京都知事は、記者会見で、「パラダイムシフト」の時期を迎えていると強調していた。

今年も、やはり災害が激しかったですし、あの豪雨、一体どうなるかと多くの方が心配されました。また、各地での停電なども、今も様々な爪痕を残しているということで、甚大な被害など、気候変動、危機というのは私たちの身近な問題であって、また世界全体が歴史的な転換点、いわゆる「パラダイムシフト」の時期を迎えていると、このように肌感覚でもわかるわけであります。(出所:小池知事「知事の部屋」/記者会見(令和元年12月27日)東京都ホームページ)

dsupplying.hatenablog.com

 

 

 スウェーデンの少女グレタトゥンベリをメディア各社が報ずるようになった。アスペルガー症候群 の彼女が、大人たちを糾弾するその過激とも思えることばに注目が集まった。たった一人で始めた「学校ストライキ」が「Friday For Future」となり、グローバル気候マーチ活動に発展、「気候危機」という言葉が一般化した。

 

地球温暖化から気候危機へ

 国連のグテーレス事務総長は、世界のあちこちで発生する自然災害の惨状を見て回り、「気候変動」はもはや「気候危機」であり「気候非常事態」だと発信した。

 

 京都議定書 COP3

 1997年12月に京都市で開かれた第3回気候変動枠組条約締約国会議COP3で、「気候変動枠組条約に関する議定書」が採択された。

 地球温暖化防止京都会議ともいわれ、地球温暖化の原因となる二酸化炭素などの温室効果ガスの削減目標を定めた。このときはまだ先進国だけが対象であった。

 京都議定書は2005年に発効した。当時の小泉首相が、これに合わせて談話を発表した。

地球温暖化は、大気汚染などの問題とは異なり、私たちの日常生活や通常の活動に起因して発生するものであり、その影響は将来の世代にわたる時間的広がりと地球規模に及ぶ空間的広がりを持つ環境問題です。地球温暖化防止のために世界が協力していく枠組みがようやく発効したことを心から歓迎します。

 我が国は、世界各国の先頭に立って温暖化対策を進め、我が国の環境技術を各国に普及することなどを通じて、地球規模での温暖化対策の推進に貢献していく考えです。(出所:首相官邸ホームページ)

内閣総理大臣の談話(京都議定書の発効について)平成17年2月16日

パリ協定 COP21

 2015年11月末から12月にかけてフランス パリで第21回気候変動枠組条約締約国会議が開催された。2020年で失効する京都議定書以降の新たな枠組みとしてパリ協定が参加国196ヶすべてによって採択された。

 「世界的な平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃より十分低く保つとともに、1.5℃に抑える努力を追求する」を全体目標として確認、世界全体で今世紀後半には、温室効果ガス排出量を実質的にゼロにしていく方向を打ち出した。

 パリ協定では、各国が削減目標を作成・提出・維持する義務と、削減目標を達成するための国内対策をとる義務を負う。なお、目標の達成自体は義務ではない。(参考:Wikipedia

日本は「2030年までに、2013年比で、温室効果ガス排出量を26%削減する」とした。

 

IPCC1.5℃特別報告書

 2018年10月、IPCC(国連の気候変動に関する政府間パネル)が「1.5℃特別報告書」を公表した。2030年に「産業革命前に比べ1.5度上昇する」と警告した。

報告書では、現状の排出ペースが続けば、30~52年に1.5度上昇する可能性が高いと結論づけた。その場合、豪雨や洪水、干ばつなどの異常気象のリスクが高まり、海面も2100年までに0.26~0.77メートル上がると指摘した。すでに世界の気温は約1度上昇しており、各国に大規模な温暖化対策の実施を求めた。(出所:日本経済新聞

「パリ協定」では気温上昇を2度以内に抑えることを目標にしていたが、この報告書を受け、1.5℃以内が抑えることが意識され始めた。

「気温上昇を1.5度前後にとどめるには、世界の二酸化炭素(CO2)排出量を30年までに10年比で45%削減し、50年ごろまでに実質ゼロにする必要があると強調した」と日本経済新聞は伝えていた。

 

www.newsweekjapan.jp

 

 そして、昨年9月、国連で気候サミットが開催され、あのグレタトゥンベリが登壇、話題を呼んだ。この他にも、その後の流れを決めるいくつかの重要な決定があった。

 世界の77か国が「2050年までに温室効果ガスの排出実質ゼロ」を表明した。日本はこの動きに加わらず、「汚染大国は気候対策の目標を捧げなかった」と米ABCによって報じられた。

 また、130の銀行が、「責任銀行原則」と呼ばれる新しい方針に署名、今後、気候変動への影響を考慮しない融資は行わないと表明した。

この原則は、「温暖化対策の国際合意であるパリ協定の目標達成に整合性のないような融資は行わない」ということを意味します。
 日本で署名した銀行は、三菱UFJ、みずほ、三井住友、三井住友信託の4つのグループで、大きな期待が寄せられています。(出所:NHK

   

www.nhk.or.jp

 

プラスチックによる海洋汚染 ウミガメにストロー

 2015年、ウミガメの鼻にストローが刺さった動画が世界に衝撃を与えた。BBCによれば、この動画が拡散され、ストロー問題への対応が幅広く支持されるようになったという。ハッシュタグ#StopSucking(吸うのをやめよう)」を使ったソーシャルメディアでの運動がおこり、ストローを廃止する企業が現れ始めた。その後も、プラスチックによる海洋汚染の実態を伝えられ、ウミガメ以外にも多くの生物の中からプラスチックが発見されるなどして世界を驚かせ続けた。

 


Sea Turtle with Straw up its Nostril - "NO" TO PLASTIC STRAWS

natgeo.nikkeibp.co.jp

 

 早かったアディダスの動き

 2015年6月、アメリカで開催された気候変動問題を話し合うイベント「Oceans. Climate. Life.」でアディダスは、海洋プラスチックを再利用したシューズを発表した。 11月、COP21がパリで始まると、アディダスはこれに合わせて、廃棄プラスチック再生シューズの新モデル「3D-printed ocean plastic」も発表した。

 そして、2017年5月、このシューズは実際に、「Parley UltraBOOST」として発売された。 2018年、目標を超えて500万ペアを生産したとアディダスは公表した。

 オルタナによれば、アディダス環境保護団体Parley for the Oceans(パーリー)は共同で、海洋廃棄物や違法に設置された漁網などを回収、それらから再生した糸と繊維で作るランニングシューズを開発してきたという。

靴の上部の95%が海に廃棄されたプラゴミから作られ、1足に付き平均11本分のペットボトルに相当する再生プラスチックを用いている。(出所:オルタナ) 

  

f:id:dsupplying:20200111084627j:plain


脱プラが広がる

 BBCによれば、2018年時点で、プラスチック汚染対策を行っていたのは全世界で50カ国だという。2018年5月、欧州議会は海洋生物保護のため使い捨てプラスチック製品の使用を禁止する法案を提出、10月に賛成多数で可決した。この法案は、海洋汚染の主な原因とされるプラスチック用品を対象としていた。

 こうした流れを察するかのように、スターバックスは、2018年7月に、「プラスチック製の使い捨てストローの使用を、2020年までに世界中の店舗で全廃する」と発表した。BBCは、「微細なプラスチックごみによる環境汚染への懸念が高まっていることに対応した」と伝えた。

 こうして日本でも脱プラの動きが一気に加速していった。

 

f:id:dsupplying:20190909185020j:plain


脱プラの社会的影響

急速な脱プラが、一部の企業やそこに従事する人々にとって死活問題となっていることにはあまり光が当たらないと、中小プラスチック工場の状況を日刊SPAが伝える。

 

中国地方にある、大手プラスチックメーカーの孫請け工場の経営者Sさんも、青息吐息でこう話す。

「昨年8月に元請けが取引していた地元の食品メーカーが脱プラスチックに舵を切ったことで、ウチも売り上げの3割を失うことになりました。しかし、ここまでは想定内だった。そんなこともあろうかと、事業のスリム化を進めるまでのつなぎ資金として、地元の信用金庫から融資の内定を取りつけておいたんです。

 ところが、融資直前にドタキャンされた。市場の見通しの厳しさを理由として説明する信金の担当者の口からは、グレタさんの名前が何度も出た。年度内に資金繰りのめどが立たなければ、破産するしかないですよ」

(出所:日刊SPA)

 

nikkan-spa.jp


 環境に良くない企業には融資が止まる? 日刊SPAは、 経済評論家の加谷珪一氏のコメントを紹介する。

プラスチック業界のなかでも、生分解性プラスチックやリサイクル分野で今以上に成長していく企業も出てくるでしょう。ただし、「責任銀行原則」に対応できない零細企業などは資金調達もできず、淘汰されるしかない。社会の格差という面では広がっていく懸念もあります。

 

 

動き出したグリーンイノベーション

 脱炭素化、脱プラという世界的な潮流は、イノベーションを促している。小池都知事も「気候危機行動宣言」を公表する際に、「パラダイムシフト」の時期と表現した。

 世界は、低炭素社会、循環型社会、自然共生社会を標榜し、社会を作り替える方向に動き出したように見える。今までの大量生産、大量消費社会からの転換であり、従来の産業の否定にもつながる。

 折しも、自動車業界の「100年に一度の変革期」にも重なり、5Gの社会実装が始まり、AIやIoTの活用が加速することも予測される。

 社会が変化を始めたのかもしれない。変化を受け入れて適応したほうが良さそうだ。環境変化に適応できなければ、淘汰される、それが自然の掟なのだから。

 

誰一人取り残さない社会へ 

 2015年、国連で「持続可能な開発のための2030アジェンダ」が採択された。ここ数年で顕在化した地球環境問題や格差の拡大等に取り組む包括的な目標「SDGs(持続可能な開発目標)」と言われる。SDGsが掲げる17の目標は密接に関連し、経済、社会、環境の側面で、バランスのとれた持続可能な開発を目指す。

 誰ひとり取り残さず、すべての人のために、インクルーシブな(すべての人が受け入れられ参加できる)世界をめざしているという。その実現のため、より多様なパートナーシップが求められている。

 今ある変化に対応していくにはこうした考えが必要なことなのかもしれない。対立や分断ではなく、協調し合う精神が必要になっているんだろう。

 

「関連文書」 

dsupplying.hatenadiary.com