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ソニー出井改革の功罪、故出井伸之をしのんで

 

 ソニーの社長やCEOなどを務めた出井伸之氏が2日に死去しました。享年84歳。評価は分かれるのかもしれませんが、著名な経営者がまた他界しました。謹んでご冥福をお祈りします。

 出井氏が社長に就任したのは1995年、音響・映像機器とITの融合を目指して「デジタル・ドリーム・キッズ」を掲げ、96年にパソコン「VAIO(バイオ)」を発売、映画、音楽事業を拡大させたほか、インターネット銀行に参入するなど金融事業にも注力したといいます。

出井伸之氏死去、84歳 ソニー元社長、IT化推進:時事ドットコム

 しかし、主力の電機事業は低迷、テレビ事業などは不振が続いていました。2003年、ソニー株のストップ安をきっかけに日経平均株価が急落した「ソニー・ショック」がおこりました。

 それまでの称賛された経営手法に疑問符がつき、業績不振の責任を取る形で2005年に出井氏はソニーの経営から退きました。

 

 

 出井氏が社長だった1999年3月、日経ビジネスがインタビューし、当時の記事を再掲しています。読み返してみれば、ソニーが躓いたのも理解できます。

追悼・ソニー出井氏 23年前に語ったネット時代の「複雑系経営」:日経ビジネス電子版

「......しかし、反骨心だとか怨念といったプリミティブ(原始的)な次元で経営するような人なら、自分でベンチャー企業を起こしたらいいんだよね。つまり、大企業の経営者になり切れていないんじゃないかな」。

 子会社に自由にやらせたからこそ成長したの例も結構あると問われた出井氏はそう答えていました。当時の流行りの経営手法からの言葉だったのかもしれません。ただこうした思想が、ソニーから反骨心とか、ベンチャー精神を失わせることになったのかもしれません。現実に当時、有能といわれた人たちが数多くソニーを離れたと聞きました。

 僕が目指そうとしているのは「複雑系の経営」です。複雑系の理論の中には創発的進化というのがある。さまざまな構成要素が互いに影響を与え合っていると、予期せぬ進化が生まれるのです。(出所:日経ビジネス

 記事によれば、当時のSCEプレイステーションがその好例といっています。それは秩序系の経営からは生まれない。複雑系の経営に、GE的な秩序だった管理との両方を取り入れていくのが理想と述べていました。

 複雑なことより、シンプルであることの方がわかりやすく実行しやすいものです。もしかしたら現場は、難解な複雑性を嫌って、シンプルな秩序だった管理の方に傾斜していったのかもしれません。そうするつもりでなくても、結果、管理の色彩が強くなり、技術開発がなおざりにされ、社員のモチベーションにも影響していったのかもしれません。

 

 

 JIJI.COMによれば、出井氏は晩年、ソフトウエア技術でアップルなどIT大手に後れを取ったことに悔しさを口にしていたといいます。

ネット社会の到来予見 ソフト技術で出遅れ―ソニー出井氏:時事ドットコム

かつてソニーが「ウォークマン」で切り開いた携帯型音楽プレーヤー市場は、インターネットで音楽をダウンロードできるアップルの「iPod(アイポッド)」に奪われた。(出所:JIJI.COM)

ソニーは大き過ぎた。戦略転換すべきだと気付いたが、会社のコンセプトは変えられなかった」と、2014年の時事通信のインタビューでそう振り返っていたそうです。

 当時、出井氏はアップルの買収も検討したといいますが、結果的に、アップルはソニーに買収されずによかったのでしょう。ジョブズ亡き後のアップルは、ティムクックのもとでも、強固なハードウェア開発を続け、その上にソフトビジネスを加えて大きく飛躍していきます。

 

 

 その後のソニーは紆余曲折を経て、平井前社長による改革でテレビ事業が立ち直り、エレクトロニクス事業が復活します。そして、出井氏の下、社長室室長を務めた吉田憲一郎氏が社長になり、ソニーは再び大きく飛躍しています。

 出井氏が去った2006年にソニーに移籍し、平井体制が始まった2012年まで在籍していました。当時のソニーは最悪期だったのかもしれません。出井氏への反感は根強く残り、また、取引先は、掛け声ばかりで予算未達が続くさえないテレビ事業に辟易していました。

 失敗はないほうがいいのでしょう。しかし、失敗があって大きく飛躍できることを教えてくれているようにも思います。出井氏の改革から学び直しがあってもいいのかもしれません。

 

「参考文書」

ソニー元会長の出井伸之氏が84歳で死去、各界から寄せられる哀悼の声 – SAKISIRU(サキシル)

【追悼 出井伸之氏】『時代の先端を走っていた』リンクタイズ 高野 真 | Forbes JAPAN(フォーブス ジャパン)

 

バイオテクノロジーにもデジタル、バイオファウンドリが切り拓く脱炭素

 

 最近になって、○○トランスフォーメーションという言葉がしきりに使われるようになってきました。

 それだけ企業の変革が求められているということなのでしょうか。それに加えて、カーボンニュートラル、脱炭素が地球規模の課題といいます。

 エレクトロニクスや電子機器、情報技術の業界団体「JEITA 電子情報技術産業協会」は、「グリーン×デジタル」を進めるといい、業界全体で、サプライチェーン全体のCO2データを見える化するデータ共有基盤の実現を目指していくそうです。

 

 

 ここ最近、バイオテクノロジーの業界にも注目が集まっています。

 ミドリムシユーグレナ社が、ミドリムシからSAF「持続可能な航空燃料」を製造しようと、現在プラント建設を進めるといいます。人工クモの糸のスパイバーは、クモの糸に模した人工タンパク質から強靭な繊維を作るといいます。そればかりでなく、様々な分野にバイオテクノロジーの応用が始まっています。

 化学工業日報によれば、「バイオものづくり」は、従来の化学合成と違い、常温常圧の発酵プロセスで生産でき、省エネ効果が高いといいます。さらに二酸化炭素(CO2)を原料とする水素細菌を使うことで大量の炭素を固定化できる可能性があるため、脱炭素技術として、注目が集まっているといいます。

 この業界でもデジタルは不可避の要素になっているようです。

 神戸大学が中心になって立ち上げたバッカス・バイオイノベーションは、人工的に生物システムをデザインする「合成生物学」を応用して石油代替品や医薬品を製造するバイオものづくりの大規模化に挑戦、「バイオファウンドリ」を目指しているといいます。

 「バイオファウンドリ」とは、目的物質を効率良く作る微生物を開発し、微生物等による有用物質生産に関する受託サービスや自社プロダクトの開発等を行なうといいます。

バイオテクノロジー、デジタル技術(IT・AI)、自動化ロボティクスを統合することで開発サイクル(DBTL)を高速に回転させ、合理的かつ効率的に遺伝子改変微生物の開発が行われます。

たとえば通常の酵母菌は糖を原料にアルコールを生産しますが、酵母菌の遺伝子に人為的に手を加えることで、アルコールではなく、医薬品・香料・化学製品の原料をはじめ様々な有用物質を生産させることなどが既に実用化されています。(出所:ロート製薬

(出所:ロート製薬

「デジタル×バイオ」、バイオの世界でもデジタルを活用し、開発スピードを圧倒的に改善しようとしているようです。

 

 

 「バイオファウンドリ」を目指すバッカス・バイオイノベーションに、ロート製薬の他、島津製作所や総合商社の双日などが出資しているといいます。

「デジタル×バイオ」時代における新たな事業モデル構築を目指すバッカス・バイオイノベーションへ出資~循環型社会の実現に向けて~|ロート製薬株式会社のプレスリリース

 日本にはこれまで統合型バイオファウンドリーが存在しなかったそうです。ロート製薬は、バッカス・バイオイノベーションに出資することで、共同研究に取り組み、最新のバイオ技術・知財を取り入れて、既存ビジネスの領域深化と新規ビジネスへの展開を推進するといいます。

(画像:ロート製薬

 バイオテクノロジーにデジタルを加えることで、バイオエコノミーにさらに弾みがつくことになっていくのでしょうか。

 

「参考文書」

【ディープテックを追え】半導体業界の再現狙う。バイオファウンドリとは?|ニュースイッチ by 日刊工業新聞社

バッカス・バイオイノベーション丹治幹雄社長に聞く(クローズアップ) - 化学工業日報

 

強まる経済安全保障、シャープは内製化した社内システムでSaaS外販事業に参入

 

 マレーシアが鶏肉輸出を全面的に停止したといいます。鶏の飼料の穀物や大豆を輸入に頼り、この不足によって鶏肉生産に混乱が生じているそうです。鶏肉の生産状況やコストが安定するまで輸出を停止する方針といます。仕方ないのことなのかもしれませんが、保護主義的な動きが強まっているのでしょうか。

マレーシアが鶏肉輸出停止、シンガポールの国民的料理に打撃も | Reuters

 ロイターによると、鶏肉をマレーシアからの輸入に頼るシンガポールでは国民的料理「チキンライス」に打撃が及びそうといいます。飲食店は鶏肉の価格上昇に直面し、供給不足で閉鎖に追い込まれる可能性もあるそうです。

 こうした情報があれば、買いだめに走るのが人の心理なのかもしれません。ただ、これに対してシンガポール政府などは、過去3年分の輸入先のデータを公表したといいます。


 政府機関によると、マレーシアからの輸入が34%、ブラジルが49%、米国が12%を占める。(出所:ロイター)

 マレーシアが確かに大きな比率を占めていますが、素早く事実がわかれば人の心理にも影響を及ぼすのでしょうか。

 小さな島国であるシンガポールでは食料の自給はかなうものではありません。そのため、データ管理が行き届き、いざというときに素早く行動を起こせる体制になっているのでしょうか。

 

 

 経済安全保障の必要性が高まっているようです。こうした事例もあるからでしょうか、あらゆるもので国内生産に注目が集まっているようです。国際分業から垂直統合への巻き戻しになるのでしょうか。分業といっては今まで外部に託していた案件を内製化しようとする動きが強まったりするのでしょうか。

SaaSクラウドビジネスを始めるシャープ

 シャープは2016年に、台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業グループの傘下となり、それ以降、IT部門の位置づけを大きく変わったといいます。それまでは外部に委託することが多かった社内システムを内製化するに至ったといいます。

エンジニアを積極的に中途採用し組織を拡大。17年に数十人だったIT部門は、IT企業の常駐者を含めて22年3月末時点で約9倍の数百人体制になった。(出所:日本経済新聞

シャープ、内製システム外販へ 鴻海傘下でIT人員9倍: 日本経済新聞

 5年間で開発を外部のIT企業に丸投げする体制から脱却し、社内システムの大半を内製できるようになったそうです。そして、それが「稼ぐ」IT部門に変わっていたといいます。内製化したERPシステムを外販するそうです。

シャープが中小企業向けにソフトウエアをサービスとして提供するSaaS(サース)事業に乗り出す。

2022年夏をめどに、製造業向けのクラウド統合基幹業務システム(ERP)サービス「IT Solution Cloud Service」の提供を始める。同社は内製した基幹業務システムを外販し、新たな収益源にする考えだ。(出所:日本経済新聞

 記事によれば、「外販を事業としてどの程度伸ばせるかは未知数だが、チャレンジしていきたい」と、この事業を統括するIT部門のトップ柴原事業部長は意気込んでいるそうです。

 

 

 コロナ渦にあってマスクが不足するといち早くマスク生産を始めたシャープが、今度はSaaSクラウドサービスを始めるといいます。家電メーカもただ単に家電を作っいる時代ではなくなったということなのかもしれません。強みを活かして、できることから内製化していく、そして、余力があるならそれを外販し、商売に変えていくということでしょうか。こうした流れが増えていけば日本がもう少し元気になりそうです。経済安全保障の思わぬ副産物になるかもしれません。

 

「参考文書」

自社DC・脱メインフレーム・独自ソフト、シャープが仕掛ける怒濤のIT施策 | 日経クロステック(xTECH)

激変のシャープ | 日経クロステック(xTECH)

 

DXの遅れか、マッチング精度の問題か、内定を得ても活動を続ける就活生

 

 2023年春に卒業する大学生の採用選考が解禁となったといいます。コロナ禍の収束を見据え、採用意欲が高まっているそうです。

就活選考解禁 「内定後も継続」半数、強まる売り手市場: 日本経済新聞

 日本経済新聞によると、5月時点で内定を得ていても就職活動を続ける学生は半数以上にのぼるそうです。売り手市場になっているといいます。いい傾向なのかもしれません。この傾向を長く続けられるようにしていかなかければならないのでしょう。

 

 

 求人広告、人材派遣、ITソリューションなどのサービスを手掛けるリクルートグループの持株会社リクルートホールディングスは2022年3月期連結の売り上げ、利益とも過去最高となったそうです。しかし、出木場社長は決算説明会で反省の弁を述べたといいます。

リクルート社長、最高益も反省 求人サイト改革急ぐ: 日本経済新聞

「今後の多くのイノベーションのチャンスを考えると、一定規模のテクノロジー人材の採用は、長期目線をもって継続しておくべきだった」。(出所:日本経済新聞

コロナ禍でオンライン化が進み、IT人材の争奪が一段と激しくなり、すでに米アマゾン・ドット・コムや米マイクロソフトなどエンジニアの奪い合いとり、今後さらに優秀な人材を採用することが難しくなると予想されるそうです。

 HRテクノロジー事業が成長しているといいますが、そのインディード事業は未だに「クリック課金」型のモデルといいます。求人情報をクリックすれば、採用につながらなくても収益を得られますが、実績に応じて見返りを得る「成功報酬」型と比較すれば、収益が劣ります。また、クリック課金型の支払いに企業から不満もあり、「成果が出ないサービスには金を支払わなくなる可能性もある」といいます。

新たな事業モデルで収益を出すには、求職者と企業とのマッチングの成功率を向上させる仕組みが欠かせない。人工知能(AI)の活用などで、「より短期間に」「最適な相手と結び付ける」必要がある。(出所:日本経済新聞

 時代が変化すれば、それまで成功した「ボタンひとつで就職できる世界」という理想も変わっていかなければならないのでしょう。テクノロジーに支えられ、優れたビジネスモデルといわれたクリック課金のビジネスモデルも陳腐なものになったということなのでしょうか。

 

 

 テクノロジーを得意としてきた企業がDXに躓きかけていたということなのでしょうか。しかし、一方でDX デジタルトランスフォーメーションがあまりにも属人的ではないかと感じてしまいます。結局、優秀なデジタル人材を確保しなければ、前には進まないということなのでしょうか。

 何事もスピード感をもって進め、市場を席捲すれば勝者になれます。しかし、DXで求められる変革においてはスピードは絶対条件ではないようにも思われます。速いことにこしたことはありませんが、乗り遅れまいと焦れば、焦点がぼけ、DXという言葉が独り歩きを始めるのかもしれません。

 何よりも求められるのは、利用者にとって最善であるべきということではないでしょうか。それにはゴールはなく、常にアップデートされていくものなのでしょう。常に怠りなく探求し、その開発を続けていく、そして、そこに最新テクノロジー、デジタルの活用を考え、効率化していく、それがDXにつながっていくように思えてなりません。

 

 

「参考文書」

日本企業の課題と求められる変革 DXへとつながるデータ経営の本質とは|THE NEXT X 変革の未来 - 日経ビジネス電子版Special

 

必要なデジタル人材は230万人、理由は働き手すべてのデジタルスキル向上のため

 

 政府の「デジタル田園都市国家構想」の基本方針案が明らかになったとJIJI.COMが報じる。デジタル技術を活用して地域活性化を目指す岸田政権の看板政策という。

推進委員、2万人以上確保 「デジタル田園」基本方針案―政府:時事ドットコム

 方針案では、データサイエンティストやエンジニアらを中心とする地方のデジタル化を推進する人材を、2026年度末までに230万人育成することなどを掲げているという。

「デジタルは地方の社会課題を解決するための鍵であり、新しい価値を生み出す源泉」と位置付けた。政府は基本方針を経済財政運営の指針「骨太の方針」と併せて閣議決定する予定。その上で年内をめどに総合戦略を策定する。 (出所:JIJI.COM)

 

 

 一方、「デジタル田園都市国家構想」の人材育成に疑問の声が上がっていると日本経済新聞はいう。国を挙げて230万人のデジタル推進人材を輩出する目標は定義も根拠もはっきりせず、実効性を検証しにくいと指摘する。

デジタル「230万人」の虚実 田園都市構想に浮かぶ懸念: 日本経済新聞

「大胆な仮説に基づいた野心的な数値目標」、エンジニア、データサイエンティストといったデジタル人材230万人の育成について、政府はこう説明しているそうだ。

 日本の津々浦々で働く6800万人にデジタルスキルを波及させる目標を達成するためには、330万人のデジタル人材が必要とする。現在は100万人しかおらず、足りない230万人を2026年度までに育成するのが狙いという。

 ただ、「日本のデジタル政策は構想立案のベースとすべき基本データすら乏しいまま、空回りしてきた。デジタル田園都市にも「いつか来た道」の懸念が浮かぶ」と日経は厳しく評価する。

デジタル人材をめぐる省庁縦割りの政策を寄せ集めても、国民の意識変革は望みにくい。地に足のついた人材育成ビジョンがなければ、デジタル田園都市国家構想そのものが「大胆な仮説」のまま消えてしまいかねない。(出所:日本経済新聞

 大盤振る舞いのストレッチ目標では、目的とする企業変革につながらず、知の変革も暮らしの変革にもつながらないのではなろうか。目標は到達できるレベルに設定しなければ、活動自体が見せかけで終わるのが関の山だ。

「真のDXの実現には企業の変革力が不可欠」と説く、淺羽茂・早稲田大学教授の提言を日本経済新聞は伝える。

事業・戦略の変革力こそ重要 無形資産投資促進の条件: 日本経済新聞

DXの本質は技術の導入ではなく、それによりいかに既存業務を変革するか、新しい価値を生み出すかだ。

しかし何を変えるか創り出すかを考えずに、はやりのDXに飛びついている日本企業が少なくない。真のDXを実現して競争力を向上させるには、企業変革力こそが必要なのだ。(出所:日本経済新聞

組織メンバーの抵抗を緩和して変革を実行するには、従来の価値の継続、強みの確認が必要」と淺羽教授は指摘し、異なるメンバーが既存の強みを確認することで新しい視点が得られ、強みを再評価できるという。

 企業変革力こそ、日本企業が高めるべき組織能力という無形資産だろうという。

名和高司・一橋大客員教授は著書「パーパス経営」のなかで、永守重信日本電産会長の「井戸掘り経営」を、「現業を深耕することで初めて、その企業に有益な新しい機会や発想が湯水のように湧き出す」と取り上げている。そして「自社が持つ本質的な強みを『純化』したうえで、それを別の場(市場)や価値(商品)にずらしていくこと」が肝要だと説いている。(出所:日本経済新聞

 

 

 しかし、企業でのDXへの関心は高まる一方で、IT人材の不足が強まっているという。日本経済新聞によると、求職者数に対する求人数の割合である求人倍率は約10倍に急上昇しているそうだ。

IT人材難、低賃金が拍車 求人倍率10倍: 日本経済新聞

 ただ、IT職種の賃金が相対的に低いことが人材を集めにくくし、DX推進の障害になりかねないという。

旺盛な需要に人材供給が追いつかない理由の一つは、日本のIT職種の賃金が相対的に低く、働き手にとって魅力的でないからだ。dodaによれば、21年のIT職種の平均年収は438万円と19年比4%減った。ITスキルを持っていても十分に評価されないため人材が流入しにくく、賃金の押し上げ効果が弱い。(出所:日本経済新聞

「ジョブ型雇用の浸透を急ぎ賃金に市場メカニズムが働くようにしなければ、人材不足は解消されず、日本のDXの遅れが一段と深刻になりかねない」と日本経済新聞はいう。

 ほんとうにそうなのだろうか。

 前出淺羽教授は、既に手を打ち始めている日本企業もあるという。ジョブ型雇用による人材流動化、オープンイノベーション、両利きの経営などに着手しているが、そこでは、既存の仕組みの変革や新規の事業創出など「新しく変える」ことに力点が置かれ、大事なことが看過されているいう。

 

 

 目的を再確認し、課題を明らかにし、その改善を継続する。その泥臭い改善の積み重ねの先に変革があるのではなかろうか。そして、その標準化、システム化においてデジタルを取り入れれば、DXとならないだろうか。

 バックキャスト手法等どんなアプローチをとろうが、データ分析は必要だし、問題解決にはデジタル技術が必要になったりしないだろうか。どんな時も必要な人材は適宜育成するしかない場合もあるのだろう。それはIT人材も同様ではなかろうか。

 

「参考文書」

DXをIT部門や変革推進者に丸投げ、そんな経営者は退場すべきだ | 日経クロステック(xTECH)

事業計画の達成はなぜ大切なのか|福島良典 | LayerX

いまさら勉強する人工知能|深津 貴之 (fladdict)|note

IT業界就職人気ランキング100社を一挙に公開、13年連続首位はあの会社 | 日経クロステック(xTECH)

 

危機意識は誰のためか、かつての日米半導体摩擦を思い出させる米中の対立

 

 米国が台頭する中国に対抗すればするほど世界は分断化されていくのだろう。これまで中国の台頭に寛容であったのだから、どうなのだろうかと思えなくもない。

 生産移転をすれば、それだけで技術は流出し、移転先の技術は向上するのが常だ。

 生産移転先の選定には十分な注意が必要だったはずだが、そうした弊害よりも実益優先で進めた結果のだから致し方もないのだろう。その上、産業集積がどの国よりも進めば、後戻りはし難くなる。してやれたと思っても、もう後の祭りである。

 

 

 かつて「日米半導体摩擦」があった。1987年、日本の半導体が第三国市場やアメリカでダンピング「不当廉価」で販売され、また日本がアメリカ製半導体を排除しているという理由で、日本は米国から制裁を受けることになった。当時、米国は自国の安全保障が脅かされるのではないかと危機意識をもったといわれる。

 今それが中国に代わったということであろうか。しかし、それで日米が協力するということは少々皮肉と感じないこともない。

 半導体の生産で世界のトップクラスのシェアを誇る「マイクロチップテクノロジー」の米国の製造現場をTBSが取材し報じている。

アメリカ・半導体製造の現場 切実な声 “中国依存からの脱却”は可能? | TBS NEWS DIG

マイクロチップテクノロジー モルシーCEOが、「私たちは様々な場面で中国のサプライチェーンに頼っていて、だからこそ製品を作ることができます。国の境界に線を引くことは、できないのです」と述べたそうだ。

 

 

 一方、日経XTECHは、半導体メーカーや半導体製造装置メーカーが、新たな製造拠点を探し始め、東南アジア マレーシアが注目されているという。

米中対立で脱中国急ぐ半導体関連メーカー、マレーシアへの投資が加速 | 日経クロステック(xTECH)

マレーシアは、半導体の後工程(パッケージング、テスティング)においては、米Intelインテル)が大規模な工場を持つなど、既に世界の主要拠点の1つである。しかし、今後、後工程のみならず、前工程(半導体ウエハー処理工程)も含めた重要拠点として育ってくる可能性が高いという。(出所:日経XTECH)

 東南アジアは、中国という大消費地に近い上、労務コストが比較的安く、真面目で向上心が旺盛な優秀な労働者がいることが理由という。それに加え、マレーシア政府の支援策もあるという。

 中国に引けを取らない産業集積が東南アジアで進めば、マレーシアが一大拠点になるのかもしれない。中国が世界の工場になる前はこの地で多くのものの生産がなされていたのだからそのポテンシャルはまだ色褪せていないのだろう。

 

 

 さて日系半導体メーカはどう動くことになるのだろうか。円安メリットを活かして、国内生産が主になるのだろうか。

 円安であれば、東南アジアに負けない優位性があるのではなかろうか。中国に近く、労務コストは円安で安くなり、真面目で向上心が旺盛な優秀な労働者がいるのだから。

 その上、日本国内にもマーケットはあるのだから。

中央線グリーン車「半導体不足」?導入延期の真相 | 通勤電車 | 東洋経済オンライン | 社会をよくする経済ニュース

 現実、「中央快速線グリーン車の導入計画が半導体不足の影響を受けて、サービス開始が少なくとも1年程度遅れ、24年にずれ込むそうだという。

 もう米国に振り回されることなく、貧乏くじを引かされることもなく、その対策を怠らないことが肝要なのだろう。それが危機意識のような気もする。同じ半導体品種で戦うことなく、自国に役立つサプライチェーンを再構築していくのがいいのかもしれない。

 

「参考文書」

日本の半導体「最後で最大のチャンス」 JEITAが戦略提言: 日本経済新聞

 

半導体産業は再興するか、高専で半導体人材の育成始まる

 

 世界的半導体不足に、脱炭素、それに加え地政学リスクが高まり、日本の半導体産業を再興させる動きが加速し始める。成長が見込める産業が興れば、国に活気が再び戻ることになるかもしれない。

 半導体の性能如何でハードウェアの性能が左右され、また半導体は裾野の広い産業で、半導体製造に必要な素材や部材だけでなく、特殊な梱包用部材や製造装置と、多岐な産業が集まってはじめて成立する。半導体産業が発展することが、他の産業の発展にもつながっていく。

 これまで忘れ去れた産業が活気づくことで、若者たちにも注目されるようになれば、国の活力も向上するのだろう。

 

 

注目の窒化ガリウムパワー半導体

 スマホなどのハイテク製品には、最新の高性能な半導体が欠かせない。そうしたものについつい目が奪われがちだが、半導体の種類は多種多様で、「レガシー半導体」といわれるマイコンやパワー半導体なども欠かすことのできない重要なものだ。また、こうした半導体の不足がサプライチェーンの混乱に拍車をかけていたといわれている。

 電源の高効率化に期待されていたGaN 窒化ガリウムパワー半導体が本格的な量産化に向かうことになるのだろうか。これまで誰も積極的に投資したがらなかったレガシー半導体にも日の光があたり、技術開発も加速するのかもしれない。

トヨタ系「パワー半導体」で攻勢、GaN種結晶を量産試作|ニュースイッチ by 日刊工業新聞社

 トヨタグループの豊田合成が、GaN 窒化ガリウムパワー半導体の市場形成に向け、GaNの種結晶(種となる小さな単結晶)の量産試作を始めるという。

 注目が集まるパワー半導体の中で、GaNは、SiC 炭化ケイ素を利用した半導体に比べ対応できるエネルギー量が大きく、高電圧に対する耐性が高いといわれている。

 

 

ルネサス パワー半導体工場が再稼働へ

 ルネサスエレクトロニクスが、2014年10月に閉鎖した山梨県甲斐市甲府工場に900億円規模の設備投資を行い、300㎜ウェハ対応のパワー半導体生産ラインとして、2024年に稼働再開させることを発表した。

甲府工場に投資し、パワー半導体生産の300㎜ラインとして稼働再開 | Renesas

 甲府工場で本格的な量産が開始されることにより、ルネサスのパワー半導体の生産能力は現在の2倍になるという。

 脱炭素社会の実現に向け、電力供給や制御を担う高効率なパワー半導体の需要が、今後世界的にますます高まる見込みとルネサスはいう。特に、EV 電気自動車向けの需要が急拡大することを見据えているそうだ。甲府工場では、IGBTやパワーMOSFETなどを生産するという。

 脱炭素社会では今まで以上の省エネが求められそうだ。電子機器の省電力化には卓越した回路設計に加え、そのためには高効率なパワー半導体が不可欠になるのだろう。

 

 

高専半導体人材の育成始まる

 国立高等専門学校機構が、半導体人材の育成事業を開始すると発表したそうだ。企業や大学と連携し、全国の国立高等専門学校半導体の専門知識や技術を習得できる体制を整えるという。

「大学から学ぶのでは遅すぎる」、高専機構が半導体人材の育成事業を開始 | 日経クロステック(xTECH)

 産業が廃れてしまうと、それに携わる人々が減り、専門知識も衰退していく。高等教育にも流行り廃りはあるのかもしれないが、やはり基幹技術を途絶えさせてはならないのだろう。世界的に半導体の隆盛が続いていたにもかかわらず、注目されずに荒廃したのであれば残念でならない。同じ轍を踏むことなく、基幹技術を守るという姿勢を貫いて欲しい。