Into The FUTURE

未来はすべて次なる世代のためにある

アップルとエピックの争い、「成功は違法ではない」との裁判所の判断、納得できないアプリ企業

 

 プラットフォーマー独占禁止法が違反が世界中でさかんに取り沙汰されようになっている。

 中国では規制が強化され、一部プラットフォーマーに多額の罰金が科せられた。

 日本、米国で、アップルの独禁法違反について、一定の決着を見たようだが、まだゲーム開発者エピックゲームズが控訴する構えを見せ、解決にはもう少し時間が要するのだろうか。また、欧州はどのような判断になるのだろうか。

 国によって、プラットフォーマーに対する独占禁止に対する考えに違いもあるようだ。

 

 

米国:ゲーム開発会社エピックとの争い

 人気ゲーム「フォートナイト」の開発した米エピックゲームズが、アップルを訴えていた裁判で、米連邦地裁が判断を下した。

 ブルームバーグによれば、アプリの開発業者が購入者を同社のアプリ市場「アップストア」外の課金システムに誘導することを認めるよう命じたという。

「1000億ドル(約11兆円)規模のモバイルゲーム市場に対するアップルの支配力を弱める判決内容となる」と指摘する。

www.bloomberg.co.jp

アップルの課金ルールは消費者の不利益になり反競争的行為だと判断する一方、アップストアが独占的だと認定することはなく、同社の基本ソフト(OS)で第三者のアプリ市場運営を認めるよう命じるにも至らなかった。 (出所:ブルームバーグ

 また、アップルがアップストア内での取引については引き続き支配権を有し、30%の手数料を徴収することができるとしたという。

 一方、エピックに対しては、契約違反を理由にアップルに少なくとも400万ドルの損害賠償を支払うよう命じたそうだ。エピックはこの判決を不服として、控訴する考えのようだ。

日本:アップルの独禁法違反の疑い解消

 公正取引委員会が、App Storeの運営に当たり,ガイドラインを設け、デジタルコンテンツの販売等について、アプリを提供する事業者の事業活動を制限している疑いがあるとして、アップルに対し、独占禁止法をもとに審査を行っていた結果が9月2日、公表された。

 

 

 公取によれば、アップルから関連するガイドラインを改訂し、音楽配信や雑誌配信、ニュース配信のリーダーアプリにおいてアウトリンクをひとつ認めるという改善措置の申出があったことで審査終了の理由になったという。公取はその内容を検討し、疑いを解消するものと認められるとした。

(令和3年9月2日)アップル・インクに対する独占禁止法違反被疑事件の処理について:公正取引委員会

 この決定を受け、アップルは同内容を日本に限定せずに2022年初めから、世界全体に適用するとした。ただ、対象は「リーダーアプリ」に限られ、雑誌、新聞、音声、動画以外のゲームのアプリは、外部への誘導は禁じられたままとなった。

日本の公正取引委員会によるApp Storeの調査が終結 - Apple (日本)

8月26日の和解:エピック以外のアプリ開発

 アップルは8月26日、スマホのアプリについて、メールなどを利用した自社以外の決済手段の提供を認めると発表した。

アップル、他社決済も容認 米アプリ開発者と合意:時事ドットコム

 その理由は、米国の開発者が反トラスト法(独占禁止法)違反として起こした訴訟で、双方が和解案に合意したことによる。

 この裁判も、前出9月10日にエピックに関しての裁判の判決を出した判事と同じ、ロジャース判事が担当していたという。

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9月10日判決: アップルの成功の定義とエピックの主張

 アップルとエピック両社による争い、「先行者利益」、先行者による結果としての市場の独占に対し、司法がどう判断するか気になっていた。

 米国は伝統的に「先行者利益を保護し、その成功について厳密に定義する」との印象がある。

 そして、今回も判決の中に「Success is not illegal」(成功は違法ではない)との文言であるようだ。ある意味、司法はアップルの事業を成功した例として認めたということではなかろうか。

Appleが55%を超えるかなりの市場シェアと非常に高い利益率を享受していると判断したが、これだけでは独禁法違反を示していない。成功は違法ではない」。(出所:IT media NEWS

 

 

 特許の有効期間は20年といわれ、独占権を与えることで「発明」を保護・奨励し、発明の内容を公開し、利用を図ることで、産業の発達に寄与することを目的としている。

 誰よりも先行し開発した労苦を認め、その「発明」に対して、期間をもうけ独占的な実施を認め、結果、市場独占が許される。しかし、その独占は永久ではなく、その期間が過ぎれば、誰もが使用できるようにして産業を発達させていく。

 この考えをもとにすれば、米国の司法の判断は合理的に思える。App Storeが始まって20年程度経過していれば、もしかしたら、違った判断になったのかもしれない。

 IT media NEWSによると、今回、司法はその対象を「デジタルモバイルゲーミングトランザクション」とし、「裁判所としては、Appleが連邦あるいは州の独禁法の下で独占者であると結論付けることはできない」としたという。ただ、

この裁判は、Appleカリフォルニア州の競争法の下で反競争的行為を行っていることを示した」。(出所:IT media NEWS)

 アプリ市場を創設、自社のみならず、条件付きではあるものの他社にも開放している事実と、現下のスキームおける対象市場での占有率を鑑みての判断ということなのだろうか。ただ、そのスキームにおける、反競争的行為はいつまでも許されるものではないとも解釈できるのではなかろうか。

 それはアップルに遠くない将来に、その競争阻害行為を止め、なお一層の産業の発展に寄与することを求めているのかもしれない。

 アップルは発表文で「地裁は、アップルストアが反トラスト法(独占禁止法)違反ではないという、自明であったことを確認した」として、判決はアップルの主張の正当性を裏付けるものだとの認識を示したという。

 

 

 一方、エピックのCEOは「判決は開発業者や消費者にとって勝利ではない。エピックは10億人もの消費者のためアプリ内課金の方法やアプリ市場を巡り公正な競争のため闘っていく」とツイートしたという。

 アップルが作ったiPhoneというハードウェアとアプリ市場があって、またエピックも存在することができる、そうであれば、エピックはアップルが提供してくれた恩恵を間接的かもしれないが享受しているともいえる。エピックの主張も理解はできるが、これまでのアップルの功績を認めたうえで、より開かれたアプリ市場にするために、アップルと協力していくことが筋のようにも思える。それが認めることができないのなら、アップルを凌駕するビジネスモデルを開発、誰も公平に利用できるシステムを創設すればいいことなのかもしれない。

 かつての映画産業のように、エジソンの呪縛から逃れようとして、ハリウッドが発展したように。

映画会社がハリウッドに集中する理由【連載】松崎健夫の映画ビジネス考(1)|FINDERS

 ただこれは個々人で判断が異なるのでしょうが。

中国: 逆風のオンラインゲーム

 中国では、利用者保護を目的に、規制を強化し、企業側が影響を受ける。その対応は米国と異なりそうだ。

 エピックの主張も中国であれば、すんなりと許容されたのかもしれない。事実、アリババの行為は独占にあたると判断されているのだから。

 ただ、中国では、オンラインゲームへの風当たりが強い。ゲームの新作リリースが保留となるようで、この先、「新作ゲームの本数を削減する」意図があると伝えられている。ゲーム開発者とっても、また、プラットフォームにとってもこれはこれで打撃かもしれない。

 

データ保護とプライバシー

 アップルが8月、iCloudにアップロードされる写真の自動スキャン機能を含め、新たな児童虐待対策のしくみを導入すると発表すると、反撥が起きたという。

 これを受け、アップルは、この導入前に「さらに時間をかける」、つまり延期するとの声明を出すに至ったという。

本システムは発表直後から、プライバシー保護団体から多くの批判を招き、電子フロンティア財団は「大規模な監視計画」だと反対声明を表明しています。

アップルは「誤解されている」として説明を繰り返し、他社の技術(クラウド上のデータをスキャン)よりもプライバシーが保護されているとの趣旨を述べていましたが、ついに譲歩を余儀なくされた (出所:engadget

 一方、中国ではデータ保護法が成立し、企業におけるデータ利用が制限が設けられ、当局による監視、検閲も否めない。

 何か全く新しいことを始めれば、もめごとが増える。適用できるルールがないのだから仕方がないのだろう。世界共通の倫理観や良識があれば、こうしたことも減るかもしれないが、現実はなかなかそうはいかない。

 あらゆることに対処できる倫理観や良識を育むことが求められているのかもしれない。

 

【中国のオンライン規制と下落する銘柄】なぜオンライン教育とオンラインゲームが標的になるのか 

 

 中国の規制強化の報道が絶えない。今度は人民日報が、「発展を促進しながら規制監督を堅持する」という論評を1面に掲載したという。一連の規制強化が外国人投資家にとってマイナスになるとの懸念を緩和しようとする狙いといわれる。

「対外開放は中国の基本的な国家政策であり、どんなときであれ揺らぐことはない」

習指導部の規制強化、開放政策を逸脱させず-人民日報が1面に論評 - Bloomberg

さらに「非公有の経済セクターの発展を奨励・支援・指導するという原則と方針は変わっていない!」とし、政府は外国人投資家の権利を保護すると説明した。(出所:ブルームバーグ

 規制措置の目的は「公正な競争と消費者の権利をよりよく保護する市場環境の形成促進」であり、「質の高い発展を促す」道を切り開くことだという説明しているそうだ。

 

 

規制強まるオンライン教育

 その一方で、過熱していたオンライン教育「学習塾」への規制が強まっている。

 ブルームバーグによれば、こうした企業は年内に、非営利の組織としての登録を完了することが義務付けられ、正式登録するまで新たな学生の受け入れや料金の徴収をしてはならないと命じられたという。

中国、学習塾の料金徴収を凍結-年内の非営利登録を義務化 - Bloomberg

学習支援会社が義務教育の教科を教えることで利益を出すことを中国政府が禁じた7月以降、オンライン学習塾への規制強化が続いている。今月6日には地方政府がこうした学習塾の料金を定めるべきだとの方針が示された。 (出所:ブルームバーグ

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「答えが分からなくて行き詰まったとき、すぐに解答が見つかるから効率的に学べる」.....(日本経済新聞

 昨年後半にかけて、教育とデジタル技術を組み合わせた「オンライン教育」関連のスタートアップが急成長、相次ぐ新規参入で競争が過熱していた。

 その背景にあったのは、コロナ禍での「利便性」だったという。

 36krJapanによれば、中国政府教育部は、学校が児童生徒に夜遅くまで課題を与える現在のやり方をよく思っておらず、小中高の勉強負担を減らし、質の高い教育に転換する「減負(負担減少)」を目指していたという。

36kr.jp

例えば今年5月に教育部は、必要以上のことを教えない、週末に課題を与えすぎないといったことを通知しているほか、11月には小中高までは負担を減らし大学生は負担を増加するという意見が出ている。 (出所:36krJapan)

 当局から発せられた警告を自分たちの都合の良いように解釈した結果、規制の連鎖を呼び込んだともいえるのではなかろうか。

 

 

アリババ(阿里巴巴)やテンセント(騰訊)はこれまで企業に投資したり、新たに事業部を作って人気の業界に参入している。

テンセントは自身で教育サービスを展開するほか、「猿補導」をはじめとした企業に投資を行い、対するアリババも教育系起業数社に投資を行っている。VIPKIDはアリババとテンセントの両方から投資を受けている。

今後もアリババ、テンセント、バイトダンスといった中国のインターネット業界を動かすプレーヤーが注目の教育系企業に投資をしていくのではないだろうか。(出所:36krJapan)

 規制される前、36krJapanはこう指摘をしていた。

「これまで蓄積した生徒の学習記録のビッグデータやAIから各生徒に合わせた最適な問題集やコンテンツを提供できるかどうかというのが値段以外の競争要素で、加えて「新東方」はオンラインサービスに加え、オフラインでも利用できる中国全土に展開されるリアル教室の豊富さと教師の質の高さが強みとなる」と、オンライン教育の有用性と強みを解説したが、結局は当局の思惑とは乖離していたのだろう。

 

 

 この業界に熱心だったテンセントのゲーム業界にも指導が始まったようだ。

ゲーム業界の監督強化

 中国当局はテンセントなどのゲーム会社を呼び出し、今後の監督強化について伝えたという。

 ブルームバーグによれば、当局が監督強化と違法行為の検査を開始する計画をゲーム会社側に説明したそうだ。また、若者のゲーム依存に歯止めをかけるため、当局による新たなオンラインゲームの承認を抑制するとの報道もある。

中国、ゲーム業界の監督強化へ-テンセントなどを呼び出し伝える - Bloomberg

当局はゲーム会社に新規定を実施し、未成年者が過度にゲームに熱中することを防ぐため利益偏重をやめるよう命じたほか、「わいせつおよび暴力的なコンテンツ」を削除し、「拝金主義や優柔不断といった不健全な傾向」を回避するよう求めたという。

新華社は「ゲーム会社およびプラットフォームに対し当局はゲームコンテンツの検証を強化するよう命じた」とも報道。「プラットフォームは過度の市場集中、さらには業界内の独占を阻止するため、不当競争に抵抗しなければならない」とも伝えた。(出所:ブルームバーグ

 こうした当局の行動が報じられれば、株式市場は即座に反応する。8日の米株式市場では、テンセントなど多くの中国株が売られたという。

 株式市場が当局の思惑通りにコトが進むことはないのだろうが、今はまだテックの行き過ぎた行為を規制強化することに重点がおかれるのだろうか。

 中国以外の国々で、こうしたテック企業の行き過ぎた行為はないのだろうか。順調と思えるときほど、慎重さが求められているのかもしれない。独占行為はどの国でも禁止されているのだから。

 

【高騰する小麦や大豆】コンテナ不足はなぜ起きるのか、深刻な運賃高騰とその影響

 

 コロナが感染拡大を始めたとき、マスクなどの医療品用品が不足、中国への生産依存を意識し、また、世界の貿易までが無駄なくジャストインタイムで輸送されているのか、知らされた。

 しかし、その事実もどうやら危ういような気がしてならない。

 Business Insiderによれば、米国カリフォルニアの港の外で44隻のコンテナ船が立ち往生しているという。労働力不足、パンデミックによる混乱、ホリデーシーズンの買い付けの急増などが理由のようだ。ロサンゼルス港での船の平均待ち時間は7.6日に増加しているという。

www.businessinsider.jp

 港での混乱もさることながら、この状況で、市場がモノ不足に陥ることはないのだろうか。かつてのマスクのように.....

 記録的な量の貨物が発生しているというが、緊急性のない不要なものを大量に作っているということなのだろうか。それとも入手難でダブル発注して不必要に荷が増えているのだろうか。

 

 

「上海からシカゴまでの輸送日数が、35日から73日へと2倍以上になった」

業界の専門家は、船舶の輸送能力が正常化するのは、多くの新造船が就航する2023年以降になると予想している。 (出所:Business Insider)

 こうした状況を改善しようと、新造船の発注競争が加熱している。しかし、多くの船が旧式のエンジン技術を採用していると東洋経済オンラインが伝える。

toyokeizai.net

 パンデミック当初、世界の活動が止まり、つかの間、地球の浄化が進んだが、またもとに戻るというよりは、さらに悪化しているようにも感じてしまう。

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  国内では、商船三井が、2030年までにLNG燃料船約90隻の導入を計画しているという。従来の重油に比べ、運航時のCO2排出量を25%ほど削減できるというが、まだ多くのGHG温室効果ガスの排出が続く。このような状況を続けてままでよいのだろうか。

 

 

 コロナ渦からの経済回復で商品が増えれば、それはそれで景気を好転させていくにはいいことなのかもしれない。しかし、コロナ以前よりモノがあふれるかえることはほんとうによいことなのだろうか。

 国内では大豆や小麦が高騰しているという。

 NHKによれば、国産品の大豆は大雨による天候不順、輸入品は中国の輸入の増加やバイオ燃料としての需要の高まりなどがその主な要因になっているという。大豆を原料とする代替肉の影響もあるのだろうか。

 それに、このコンテナ不足が加わる。物量が活発に動き、運賃が高騰している中国上海⇔米国ロサンゼルス向けにコンテナが集中、日本向けコンテナの確保が難しくなっているという。

「日本がコンテナを『取り負け』『買い負け』していて、日本にコンテナを持ってくるのが難しい状況だ。

およそ30年間、海上輸送に携わっているがこれほどのコンテナ不足は初めてで、サプライチェーンの回し方が変わり、過去の経験が通用しなくなっている。 (出所:NHK

 コンテナの需給の崩れが思わぬところまで波及し、生活に影響する。

 デルタ株の感染拡大で、また景気が水を差されているという。少し荷動きは落ちくのだろうか。

 経済回復をさせること、経済を力強く回すこと、それもスピーディに。それも重要なことかもしれないが、極端なモノ不足が生じない範囲で、もう少しスローな経済回復であってもいいような気がする。モノが滞留したりして目詰まりを起こすほど、ムダなことはないはずである。適正で、効率的な貿易に戻す工夫、全体最適につながるアイデアが求められているのだろう。従来のビジネススキームの見直しの機会なのかもしれない。

 

施行が近づく中国の「個人情報保護法」と気になる中国経済の減速との関連

 

 中国で11月から「個人情報保護法」が施行となる。世界で最も厳しいプライバシー保護法の一つになるとも言われているようだ。

 この個人情報保護法の持つ意味は、個人がデータを提供しない権利を行使しても、正常な日常生活を送れることを法的に保証するものだと36krJapanは解説する。

テンセント、アリババ、バイトダンス(字節跳動)、美団(Meituan)などのITジャイアントからネット通販の出店業者、マンション管理会社、フリーランスの開発者に至るまで、あらゆる組織および個人は見境なく顧客情報を収集・処理し、漏洩してはならないことになる。違反すれば巨額の罰金を課される。(出所:36krJapan)

36kr.jp

 個人情報保護法が施行されれば、ユーザは過度なデジタル化を拒否する権利を有するようになるという。

「大企業にとっては損失だ。なりふり構わず収集した個人情報を使って自社のアルゴリズムを進化させる行為は、今後は処罰の対象となるからだ」。

意思決定の自動化機能を使って個人向けにプッシュ通知をしたり、商業的なマーケティングを行う際には、対象となる個人の特徴とは紐付かない選択肢も同時に提示するか、あるいは簡単に受信拒否できる方法を提示するべきだとしている。また、意思決定の自動化機能を使って個人に重大な影響を及ぼす決定を行う場合、対象となる個人は管理者に対し説明を求め、その決定を拒否する権利を有するとしている。(出所:36krJapan)

 行き過ぎたデータ利用が、行き過ぎた消費をあおっていたなら、規制があっても当然のような気がする。一方、これによってどれだけ経済に影響があるんだろうか。既に中国経済の減速が懸念されている。

 

 

 中国では、テクノロジー、金融セクターの台頭によって国内の所得格差がここ5年で急速に拡大しているという。

新たな産業が次々と現れ、特にこの数年はデジタル経済が急拡大している。デジタルプラットフォームが人工知能(AI)技術と相まって高度な教育を受けた労働者を引き付け、こうした働き手は急速に伸びる高賃金を享受している。また、中国国内で拡大する金融業界は独占色が強く、並外れて高い報酬をもたらす。一方で、他の産業の賃金は緩やかな伸びにとどまっている。 (出所:ブルームバーグ

www.bloomberg.co.jp

 デジタル産業にいる人たち、それに馴染んできた人にとっては、青天の霹靂とまではいわないまでも、ある種の驚きをもって受け止められているのだろう。

 36krJapanによれば、かつて信奉を集めたアリババ創業者のジャック・マー(馬雲)氏は「人類はIT時代からDT(Data Technology)時代に向かっている」と述べていたのだから。

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 一方、米国のプライバシー保護の方向性が定まっていないという。この動きに、米国が加わるようであれば、データ利用のあり方に変化があるのかもしれない、という意見もあるようだ。

 

 

 ブルームバーグによれば、「米ヘッジファンドは中国の立ち位置について一段と懸念」し、「中国がこれまでのように外国企業や投資家にオープンであり続けることに賭ける姿勢は後退している」と指摘する。

ヘッジファンドは株式相場について強気と弱気の両方向に賭けるものだが、ビジネスの中国依存が比較的大きい米企業へのエクスポージャーを減らしている。

ゴールドマン・サックス・グループのプライムブローカレッジ部門がまとめたデータによると、これら企業にはラスベガス・サンズゼネラル・モーターズ(GM)が含まれる。(出所:ブルームバーグ

www.bloomberg.co.jp

「中国の方針転換は、中国が世界経済にとって、08年の金融危機後のような成長エンジンにはならないことを意味し、世界は今、中国に代わる景気けん引役を探す必要に迫られている」との英フィナンシャルタイムズの意見を日本経済新聞が報じる。

中国政府はかつての成長最優先の政策から転じ、IT大手による支配や、貧富の差の拡大など、放縦な資本主義の手綱を締めようとしている。それも理解できなくはない。

例えば、アルミニウムの減産は政府が環境対策を強化した結果とされる。(出所:日本経済新聞

www.nikkei.com

 こうした一連の中国への変化は国内にどんな影響を及ぼすのだろうか。その心配がだんだんと大きくなる。

 

 

 中国では、「経済、金融、文化、政治で深い変革が起きている。深い革命と言ってもいい」、「今回の変革で、(中国の)市場は資本家が一晩で大金持ちになれる天国ではなくなる。われわれは一切の文化の乱れを整理する必要がある」

と主張する論説が、共産党機関紙・人民日報や国営新華社通信、中央テレビを含む多くの主要メディアがネットに転載されたという。

 これに対して、習近平氏に近いといわれる環球時報編集長、胡錫進氏は、ネット上で反論し、「まるでこの国が改革開放に別れを告げるような言い回しだが、重大な誤りだ」と断じたとJIJI.COMが伝える。

www.jiji.com

 JIJI.COMによれば、論説内容に強い警戒が広がったことで、胡氏が「火消し」をした可能性があるという。

 確かなことはまだわからないが、感覚的には米ヘッジファンドの動きや、フィナンシャルタイムズの指摘もまんざら外れていないように思われる。経済依存が大きい国だけに、リスクレベルをあげて注視する必要がありそうだ。

 

中国アリババが方針転換か、発展が遅れている地域のデジタル化を推進、その理由は

 

 中国のEC電子商取引最大手、アリババグループが、政府方針に従ってのことか、「共同富裕」促進事業に、2025年までに1千億元(約1兆7千億円)を拠出すると明らかにしたという。

 共同通信によると、アリババは発展が遅れている地域のデジタル化を推進したり、農業の産業化を支援したりするという。

nordot.app

 習近平指導部は大企業や経営幹部に寄付や社会支援事業を通じ、富を再分配するよう求めているという。「共同富裕」は人々が共に豊かになる意味のスローガン。

 巨大IT企業への統制が強まる中、アリババは巨額拠出で当局の圧力を緩めたい考えというが、そうなのだろうか。中国当局を擁護する気はさらさらないが、政府方針に従うことは、法令遵守コンプライアンスからいって不思議なことではない。素直に中国が変化し始めていると受け取った方がよくないだろうか。

 

 

 スペースXの「スターリンク」が、世界中に高速のブロードバンドインターネットサービスを提供できる低軌道衛星ネットワークの一部として、1万2千個の衛星打ち上げをめざしているという。特に重視しているのが、地上インフラでは到達が難しい僻地へのインターネット接続サービス提供だという。

 ロイターによれば、チリでは、不毛の北部砂漠地帯に近い小さな漁港のカレタ・シエラに、2基めのアンテナが設置される予定だという。

jp.reuters.com

この計画は、スペースXが必要としている資金を生み出すための鍵である。

何しろイーロン・マスク氏には、月への顧客を載せた商業飛行、最終的には火星での植民地建設の試みを可能にする新しいロケットの開発という夢があるのだから。 (出所:ロイター)

 今まで途切れ途切れの携帯の電波しかなかったチリのその地域では、1年間無料でインターネットを利用できるようになったという。

 これがほんとうはビジネスと呼ぶのかもしれない。まず発展途上の地域の課題を解決する。仮に大きな野望があっても、まず地域の課題が解決されるのであれば、それはそれで価値あることといえないだろうか。

 

 

 従来の経済の論理だけからすれば、大きな需要が見込めるところで販売すべきなのだろう。そうして小さな需要は無視されていく。よく言えば、優先順位なのだろう。ただ、それでいいのだろうか。需要が小さな地域はいつまで経っても様々な恩恵から取り残されてしまう。

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 アップルのティムクックCEOが4〜6月期の決算説明会で、「この四半期の新興市場は信じられないほど好調だった」と語ったという。インド、ラテンアメリカベトナムなどの国々での販売に勢いが感じられるとし、メキシコ、ブラジル、チリ、トルコ、タイ、マレーシア、カンボジアインドネシアでは、販売台数の記録を更新したそうだ。

iPhone SEの次なる展開、開発途上国でアップル躍進の原動力に」とBusiness Insiderは指摘する。

 iPhone SEといえば、アイフォンの中では低価格機種。高位機種ばかりを充実させるのではなく、低価格機種を販売したのは何故だろうか。大きな市場を取りに行ったといえばそうなのだろう。

 ただ、そこでは今まで利用できなかったものが利用できるようになったという恩恵を享受したのかもしれない。それがビジネスの本質ではなかろうか。

 そう思えば、アリババが、発展が遅れている地域のデジタル化を推進するのも当たり前のことだろうし、むしろ遅いくらいなのかもしれない。自主的なものだったのだろうか、それとも当局の指導があってのことだろうか。

 ものごとはあまりひねくれてみるものではない。大切なことを見落とすことになりかねない。

 

「参考文書」

jp.reuters.com


経済に影響が出始めた中国の規制強化、それでもさらに規制する理由

 

 中国で進む規制強化に色々な見解が示されている。

 学習塾が規制の対象となり、現実に閉鎖する塾が増えている。また、それにとどまらずあらゆる学習機関が対象となり、人員整理で大量の失業者を生み出すことになるとの情報もあるようだ。利用者への授業料返金の義務が生じているが、その資金確保もままにならないとの報道もある。

 日テレニュースは親の教育費の負担を減らし、少子化を食い止める狙いがあると解説する。それは表向きな説明ということではなかろうか。

 

「こうした動きを総合すると、習近平主席の直前2人の前任者の下で存在した社会契約――共産党の政治独占を黙認するのと引き換えに個人の自由を拡大してきた――に変化が生じたことを表している」とウォールストリートジャーナルはいい、前の時代には行き過ぎだったと考える資本主義化を巻き戻す狙いがあるという。

jp.wsj.com

 ブルームバーグによれば、習主席が提唱する「共同富裕」の取り組みに、決算報告の中で言及する上場企業が増えているそうだ。

 民間セクターは格差是正に向けた指導部の動きに足並みをそろえようと努めているという。

 まだ、4000余りの届け出の2%弱を占めるにすぎないが、中国の保険最大手の中国平安保険(集団)やフードデリバリーの美団などが含まれるという。

www.bloomberg.co.jp

習主席による格差是正の取り組みは本土経済に衝撃を与え、相場の急落を招く一方、国内富裕層の相次ぐ寄付表明のきっかけにもなった

共産党総書記を兼ねる習氏が主宰した先月30日の会議は、改革が進められる中で「党の指導に従うよう各企業に促す」ことを当局者にはっきり求めた。(出所:ブルームバーグ

 

 規制対象となる前のテンセントは好調だったようだ。4~6月期は大幅な増収増益を達成し、純利益でも前年同期の13%増になったという。しかし、その先にはいばらの道が待っているのかもしれない。

 (オンライン広告の)大口顧客だった「K12(幼稚園児から高校生)」向けのオンライン教育サービスの広告出稿が(政府の教育改革政策の影響を受けて)低迷しており、今後はその影響が避けられない状況だ。 (出所:東洋経済オンライン)

toyokeizai.net

 東洋経済オンラインによれば、テンセントのCSOは「ポップアップ広告に対する規制なども影響し、7~9月期のオンライン広告事業の成長率は鈍化するという見通しを示し、アナリストたちは、中国政府の個人情報保護規制の厳格化やユーザーデータの使用制限が、テンセントの広告事業に与える影響にも注目しているという。

 テンセントの総裁は、「ユーザーデータの使用とプライバシーの保護には慎重に対応しており、(業績への)影響は比較的小さい」と述べたという。

 法令遵守の姿勢ということなのだろう。業績に影響があっても当局の規制には従わざるを得ない。その影響を最小化するのが仕事になったということだけなのだろう。

 

 当局の規制強化のきっかけのひとつでもあった金融会社アント・グループが当局の命令に従い事業再編を進めるという。

 ロイターによれば、中国の政府系企業が、アント・グループの主要企業に大規模な出資を行い、個人信用調査会社を共同で設立する予定という。

10億人を超える利用者を抱えるアントのデータの宝庫としての支配力を弱めるとともに、株式上場の計画を復活させるのが狙い。

中国の規制当局は昨年11月、アントの上場を阻止していた。関係者によると、今回の会社設立と所有形態は、規制当局によるアントへの抜本的な事業再編命令を受けた措置の一つとなる。 (出所:ロイター)

jp.reuters.com

「新会社設立の計画は、これまで規制が緩やかだった業界に対して、政府がコントロールを強めた成果を示すことになる」とロイターは解説する。アントのデータ事業運営を統括し、規制面で監視しやすくなるそうだ。

 多少経済が減速しようが、なりふり構わずに変革を進めているだけのことなのだろうか。どこかに当局の強かさが隠れていないだろうか。

「行き過ぎだった資本主義化」という言葉が気になる。

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 中国が求めていることが、何も中国だけに限ったことではないようにも感じる。たとえば格差社会、それは他の国でもみることができる。資本主義の行き過ぎが原因といえないでもない。

 世界の多くの人がその解消を望んでいるのかもしれない。まさか中国版SDGsということでもなかろう。

 こうした動きは何を意味するのだろうか。

 

【中国リスクはあるのか】シェアリングエコノミーも規制強化、不動産大手はデフォルトを警告

 

 中国のPMI 購買担当者指数が低下、非製造業では節目の50を大きく下回り47.5。前月の53.3から大幅に低下し、予想の52を下回ったという。

 その要因に、コロナ感染再拡大の抑え込みに向けて約1カ月にわたり移動制限や大規模検査、隔離など厳しい措置を講じたことをブルームバーグは指摘する。

 一方で、当局による規制強化なども減速感に影響しているという。

 こうした状況にあっても、中国当局は規制強化の手を緩めないようだ。今度は、「シェアリングエコノミー」への監視を強化すると発表したそうだ。

jp.reuters.com

 ロイターによれば、中国では自転車や携帯電話充電器のシェア利用が盛んで、当局は充電器シェアのプラットフォームに対する監視を強化し、価格システムの透明性を高めるほか、中国の食品デリバリー大手、美団による自転車シェアリング新興企業買収を巡り調査するという。

 経済の下振れを考慮することはないのだろうか。

 

 資金難が陥っているといわれる中国の不動産開発大手 中国恒大集団が、デフォルト(債務不履行)のリスクがあると警告したという。

 ロイターによれば、恒大集団は多くの融資者や供給業者への支払いに必要となる資金を早急に調達しようとしているという。しかし、「対策の導入に失敗した場合、流動性が悪化し債務不履行や訴訟につながる可能性がある」と表明したそうだ。

 ただ、対策を効果的に実施された場合、向こう12カ月間の金融債務に充てる運営資金は十分あるとしたという。

jp.reuters.com

規制当局や金融市場関係者は、恒大集団のいかなる危機も中国の銀行システムに波紋が広がる可能性があると懸念している。業界関係者は、今やさまざまなレベルの当局が恒大集団のハードランディング(硬着陸)を回避するため介入する兆しが見られていると話す。恒大集団が崩壊した場合の「社会的打撃」が懸念されているという。 (出所:ロイター)

 気になる話だ。報道内容を信じたいが、最悪、デフォルトになった場合、その影響は世界経済にも及ぶことになるのだろうか。

「不動産部門と電気自動車部門の損失が足を引っ張った」とロイターは指摘する。

 

 ウォールストリートジャーナルは、「中国恒大に迫る終幕、不運な投資家 中国政府がマンション購入者を保護する理由はあるが.....」という。

jp.wsj.com

 ブルームバーグは、「恒大集団のドル建て債に対する売り浴びせが悪化し、他の不動産開発会社の債券にも再び売りが広がっている」と報ずる。

「資金難の中国恒大を支援するかどうか、当局決定の重要性は増している」。

同社は前日、資産売却が実現しない場合にデフォルト(債務不履行)に陥るリスクがあると発表。これをきっかけに民間銀行が持ち高解消を進め、欧州時間に入って売りが加速したと複数のトレーダーが指摘した。

www.bloomberg.co.jp

 あまりにも大きくなり、存在感を示すようになった中国経済。そこへの依存度が高まる日本経済。中国の動向が今まで以上に気になる。

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 米国のジョン・ケリー気候変動問題担当大統領特使が中国天津を訪問、中国の王毅外相とオンラインで会談したという。気候変動問題の協議だけが目的なのだろうか。邪推が過ぎるということであろうか。